第4話

母と佳代子おばちゃんは、確か四歳差のはずだ。すごく近いわけではないけれど、決して大きく年齢が離れているわけではない。

 母の老け込んだ様子、若返ったような父、一回り以上、母と年の違いそうなおばちゃんの姿……。

「ねえおばちゃん、私、何かおかしいのかな。なんだかいつもと違うのよ」

 先に廊下を歩いていたおばちゃんが振り返った。その目は大きく見開かれ、驚きを通り越して、見てはいけないものを見てしまった時のようだった。

 そしてすぐ、その表情は、憐れみに変わった。

「ああ、久紀ちゃん、混乱しているんだね。辛い目にあったものね。そのうち分かるから……いまはゆっくり、お茶でも飲みましょ」

 古い家の廊下が、軋んでいる。

 辛い目とは、どういうことだろう。自分の身に何かあったのだろうか。今、一人で実家に帰ってきているのはそのせいなのか。

 なんでもいいから思い出そうとすると、こめかみがぎゅっと痛んだ。

 その時だった。

 ドンドンッと玄関のドアを叩く、大きな音がした。二人して玄関の方へ向くと、すりガラスに、大柄の男性と思しきシルエットが映っていて、扉が揺れるほど強く叩いている。

「久紀子、いませんか? 開けてください、僕です」

 この声は、もしかして……?

「あなたには会わせられませんよ。帰ってください」

 久紀子が何か言うより先に、おばちゃんが叫んだ。険しい声だ。

「会わせられないって……中にいるんですね? 僕は久紀子の夫です。話したいんです」

 久紀子の旦那と名乗る男性は、叩くのをやめた代わりに、引き戸を無理やり開けようとしている。鍵がひっかかって、がこっ、がこっと嫌な音が響く。

「扉は絶対に、開けませんよ」

 おばちゃんは、厳しいまなざしをしてもう一度叫んだあと、ひどく心配そうに久紀子を見つめた。

「久紀ちゃん、大丈夫? 気分は?」

 久紀子は何が何だかわからず、問われても、ただ困るだけだった。

「別に、何も変わらないよ。気分は悪くない。だけど、一体どうなってるの? どうして夫に会っちゃいけないの?」

 おばちゃんは何も言わず、久紀子をぎゅっと抱きしめた。苦しくなるほど、きつく。

ずいぶん年を取ったはずなのに、こんな力があるなんて。

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