第17話 退院予定日



 帰ってきて四ヶ月。


 ようやく、この日がやってきた!


「このまま回復が順調なら、月末くらいに退院できそうです」


 人吉先生にそう告げられ、「やったぜ!」と大声を上げてしまったくらい嬉しかった。


 正直なところ、ここでの暮らしにあまり不満はない。


 異世界での生活とは比べものにならないほど快適なんだが……。


 人間は環境に慣れる生き物だ。


 俺は今の生活に慣れきって、自由を求める気持ちが強くなってきている。


 せっかく日本に戻れたんだ、やってみたいことや、行ってみたい所もある。


 我ながらワガママだと思う。


 これが人間の愚かでダメな部分なんだろうな……。


 そろそろ、下半身の溜まり具合もヤバイ……。


 ここでは常に監視があり、風呂でさえプライベートがないから辛い。



 午後になると島松先生がやって来て、診断結果や今後のことを話してくれた。


 俺のような異世界帰りの人は、世界で68人発見されているらしい。


 その先人たちが社会復帰するのに、だいたい半年くらいかかったから、俺の治療プランも同じ期間で考えていたそうだ。


 ちなみに、日本人としては俺がはじめてらしい。


 リハビリをいくら頑張っても、退院は早くならなかったってことかぁ……。


 ダメだ。ここはポジティブに考えよう。


 俺たち異世界帰りは69人しか存在しない、貴重なサンプルのはずだ。


 自分で言っていて悲しくなるが、きっと丁重に扱われ待遇はよいハズ!



 魔力渦の出現時。


 近くに人が倒れていた場合、その魔力渦はその人が召喚されていた世界と繋がっているそうだ。


 だから、準備が整ったら調査に同行してほしいと頼まれた。


 もう行くことはないと思っていたが、会いたい人も居るし、喜んで同行しよう。


 ただし、その世界のどこに繋がっているかはわからない。


 近くに文明社会があるとは限らないから、本当に召喚された世界なのかを判別するには、かなりの時間が必要になるとのこと。


 あーっ、だから島松先生の聞き取り調査で、人種とか文化とか、異世界に関する質問が多かったのか!


 こういう話しを本人に聞かせるかどうか、色々な方法で俺を見定めていたのか?


 気持ち的にかなり落ち着いてきた俺でも、


『あの異世界に行けるかもしれない』


 なんて聞くと、行ってみたいと気がはやってしまったもんな。



 妹の話しもしてくれた。


 39歳で既婚。


 二児の母となり、埼玉に住んでいるから、退院したら会いに行けるそうだ。


 旦那さんは新見にいみ 蒼介そうすけ、市役所に勤めているらしい。


 二人の子どもは双子で、共に15歳。


 妹には俺の回復具合を見て、先月連絡をしていたそうで、妹も再会を待っているらしく嬉しい。


 家族の写真を見せてもらった。


 旦那さんは優しそうな温和な顔立ちで、双子は少し生意気そうな表情をしていた。


 妹は……すっかりオバちゃんになっている。


 面影はあるが、俺の中では3年しか経っていないから凄く変な感じだ。


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