第9話 儀式前夜


※少し、下ネタがあります。

苦手な方はご注意くださいm(_ _)m💦











水に溶けるって言ってたよな…?

詰まったりしないよな…?


ポチャ…。


ユニットバスのスペースに移動し、

衝撃的な内容の書かれていた手紙を恐る恐る便器に入れたとき、そいつらは突然やって来た。


「おい。真人。お前に聞きたいことがある!」

「ネタは上がっているんだぞ、真人。神妙にお縄につけい!」


双子の精霊、キーとナーは、トイレだろうとお構いなしに予告もなしに現れる。


だがな…!もう、そんな事想定済みだぜ!!

逆手にとって目にもの見せてやるぜ!!


「うわっ?!キー…!ナー…!い、いきなり現れるんじゃねーよ!!」


俺は、藍川瑞希ちゃんの写真集を広げながら、トイレの便器に座っている状態で、慄いたフリをした。(いや、来ると分かってても怖かったから、フリじゃねーか。)


まぁ、当然下は…ズボンも下着も下ろした状態で大事なアレも丸見えなワケで…。


「ぎゃああぁ!!お前は何をやっているんっっ!?」

「め、目が腐るうぅっ…!」


キーとナーはそれぞれ顔を両手で覆い、予想通りの反応を示してくれた。


「な、何だよっ?!急に来るお前らが悪いんだろっっ?早く出てけよぉっ…!!」


俺は慌て(たフリをし)つつ、パンツとズボンを上げると、キーとナーの怒りに染まった瞳がこちらを睨んでいた。

やっべ。お二人さん、メチャクチャ怒ってるよ…!!


「お前!死にたいらしいな…!」


突然キーが、白い目を光らせると、便器の中のトイレの水が空中に吹き上がり、一瞬で凍り、いくつもの先の尖った氷柱になった。


「喰らえ、痴れ者がっ!!」


キーの叫びと共に、氷柱が俺に向かって襲いかかってくる。


「でえぇっ?!それ、トイレの水だよねっ?!色んな意味で当たりたくねぇっ!!

やっ!くっ!はっ!とりゃっ!ふぅ…、うわはっ?!」


必死の思いで、氷柱を避け切り、ホッとしたところへ、今度は、ナーの膝蹴りが飛んできた。


ドガッ!!


「ぐっはぁ!」


まともに食らってユニットバスの中に転がった俺は、ナーに襟首を掴まれた。


「殺されたくなかったら、答えよ…!

気配の読み取れぬ怪しい黒パーカーの奴が屋敷の敷地内に侵入しておった。

お前、さっき下に雑誌を取りに行ったらしいな…。

奴らと繋がって何か企んでいるのではあるまいな…。」


「ぐふっ…。そ、そんな事しねーよ!」


「我は心が読めるのだぞ?嘘をついても、全てお見通しだ…。」


ナーが俺の額に指を当てて怪しい術を発動させている気配がした。


それに対抗して…というよりは、俺はあまりの怖さに、現実逃避で藍川瑞希ちゃんの開放的な水着姿と、一番官能的と言われている、手ブラで、頬を染めてこちらを上目遣いしているシーンを強く頭に思い浮かべた。


ううっ…。瑞希ちゃん…!瑞希ちゃん…!


「チッ。頭の中はあの写真集の娘の事ばかりではないか…。」


ナーは舌打ちをして忌々しそうに言い捨てた。


「少しでも、怪しい動きがあれば、速攻でお前をぶち殺すからな。覚えておけよ?」


「!!」


俺はナーの刺すような鋭い視線に射抜かれ、

背筋が凍る思いだった。


「お前に情けをかけた我々が愚かであったわ…。」

「本当にな…。」


キーとナーが、険しい顔を見合わせ頷いた途端、下に落ちていた、写真集がふわりと舞い上がり…。


ゴオオ…と音を立てて燃え、一瞬で灰になった。


「ああっ!俺の瑞希ちゃんがっっ…!」


下に落ちた写真集の灰を見て、涙目になる俺に双子の精霊達は冷たく告げる。


「それで、自殺するなら勝手に死ね!」

。あんまり調子に乗るなよ?」


そして、そのまま姿を消した。


「はぁ…はぁ…はぁ…。」


俺は嫌な感じにドキドキする胸を押さえ、便器の方に向かうとトイレの水を流した。


は、ふやけて、バラバラになっており、問題なく流し切る事ができた。


「ふぅ…。危なかった…。心を読むとかマジ恐ろしい奴らだぜ…。」


俺はその場にへたり込み、手の甲で額の汗を拭いた。


「くそっ!キーとナーめ…。今に見てろよ…?」


服で見えないが、俺の両手首にはそれぞれ赤と白の御札が包帯で固定されている。


儀式の日には、この御札で、あの生意気な精霊達の動きを封じ、俺は生き神からも、

この忌々しい島からも逃げ切ってやる…!


その為にはどんな犠牲も厭わないぜ…!!


どんな犠牲も…。


「ううっ…。瑞希ちゃんっ…。」


そこまで考えて、俺は青春の全てを共にした、愛読書の焼失に、少しだけ涙したのだった…。


         *  

         *


「真人。生き神様が、お前の事を怪しい奴らに狙われているのではないかと、心配していらっしゃるそうだが、何か心当たりはないかの?」


午後になって、菊婆が俺の部屋にやって来てそんな事を言ってきた。


ハッ。生き神の奴。俺の事が心配とか…。

怪しい奴らの手先じゃないかと疑ってるだけじゃねーの?

まぁ、心配してるのが本当だとしても、生気を吸い取る餌としてだと思うけどよ…。


ババアも、たった一人の肉親だったが、もう信用できねぇ!所詮は、生き神側の人間だからな。

テーブルの向かいに座っている菊婆を今や遠い存在に感じながらも、

俺は気持ちを表へ出すことはなく、その言葉を苦笑いしながら否定した。


「何もねーよ。ババア。」


「本当か…?」


「たった一人の孫が信用できねーのかよ?」


「そうではないのだが…。お前が、ここに来てから変に落ち着いておるのが、妙でな…。」


菊婆に、不審そうに眉を顰められ、ギクッとした。


鋭いな…!流石長年家族をやっていただけあるぜ。


「あんだよ?思う存分泣いて喚けばいいとでもいうのかよ?俺だって、ここまできたら

騒いでもしょうがねーってのは分かってる。

ババアは、わざわざそんな事を、言いに来たのか?」


「い、いや…。覚悟が決まっているなら、それでいいのじゃが…。ワシがここに来たのは

儀式の際のいくつかの注意点をお前に伝える為じゃ。」


菊婆は、巾着のバックから、古びた茶色い冊子を取り出すと、テーブルの上に差し出した。


「これは…?『贄としての心得』…?」


俺が目の前の冊子を手に取り、表紙に書かれている題名を読み上げると、菊婆は、重々しく頷いた。


「贄の役目を担う者に代々渡されている大事な書物じゃ。

贄としての心構えや注意点など、詳しい事が書かれている。後で読みなさい。

ワシからは、要点のみ。


真人。よく聞くんじゃ。


島の者で、生き神様や、祭りの儀式について、形式的で時代錯誤じゃとか、残虐な行為が行われているとか、デタラメな事を好き勝手に言う者もいるようじゃがな。


この祭りの儀式は、この島に、生きとし生けるもの全てを守る為に必要不可欠なものなのじゃ。

命を賭して神に祈りを捧げて下さる生き神様に、感謝の気持ちを我々は決して忘れてはならぬ。


贄となったお前も、生き神様をお支えし、

儀式の一端を担う役目についた事を名誉に思うがよい。」


俺は菊婆の言葉に違和感しか感じなかったが、俺はその言葉をしっかりと受け取ったかのようにゆっくり頷いて見せた。


ああそうだな…。島の皆の為に生き神に、心神耗弱状態にされ死ぬまで生気を吸い取られることを名誉に思え…。そう言うのなら、もうあんたは、家族でも何でもねーよ。


恐ろしい儀式を強要するただの生き神の手先でしかない。


「お前の言っていた先代の贄の件じゃがな…。すまぬが、しきたりによって、儀式が終わるまでは全て話す事はできぬ…。ただ、…という事だけはお前に伝えて置く。」


「?!」


首を項垂れ、鎮痛な面持ちで菊婆にそう語られ、俺は首を傾げた。


先代の贄が儀式のせいで死んだのではない?


なんか妙な言い方だな…。

それに、菊婆の辛そうな表情は一体…?


儀式のせいじゃないなら、強制労働させられて…とか?はたまた、儀式でない事で命を落としたとか…?


いや、惑わされるな…!

生き神の手先なんだから、儀式の前に俺を丸め込む為にそう言ってるだけだ。


孫に嘘をつくのは、流石に気が咎めて、

そんな辛そうな表情になっているんだろう。


「真人。儀式では、生き神様をよく支えて差し上げてくれ。


儀式の前日から当日までは、清めの作業など、儀式の前の準備があるので、ワシもここに泊まり込み、24時間お前に付き添う事になる。その際にももう一度伝えるが、

儀式の行程を先にお前に伝えておく。


儀式は、この屋敷から更に高地にある洞窟の奥で執り行われる。


洞窟の入口までは、ワシ等も同行する。

そこでお会いする儀式の面をつけた美しい女性が生き神様じゃ。


そこから先は、生き神様とお前のみ、共に洞窟の奥へ向かい、儀式に臨む事となる。


儀式の詳しい内容についても生き神様から、お聞きする事ができるだろう。


その際、いくつか注意点がある。



一つ 生き神様に自分から話しかけてはなら  

   ぬ。

一つ 生き神様のお顔を決して見てはなら   

   ぬ。   

一つ 生き神様の仰ること、為されようとさ   

   れることを決して拒んではならぬ。」


「何だよ?!それ?」 


生き神を見ることも話しかける権利もなく、

やりたい事だけだやらせるって、完全に生き神のいいなりじゃねーか!


儀式の内容をもう知っている俺から言ったら、何百年も生きている化け物に奴隷のように、生気(何なら別の字のも)搾り取られろって言われているのと同じ事だった。


「それも、しきたりって奴かよ…?」


「ああ…。それが、そうする事が一番良いとされておる…。」


生き神にとってはそりゃ、そうするのが一番都合が良いだろうよ。


俺は、膝の上で両拳を握り締めた。



しきたり、しきたりって、もうウンザリだ…!!


島の掟の為、

俺は20才までに結婚しなければならない。

70才に死ななければならない。

この島から出れない。


素直に守っていた結果がどうだ?


俺を邪険にする女と無理に許嫁にされ…。

挙げ句の果てには生き神の贄にされ…。


何百年も生きたババアに、童貞を奪われ、

生気を吸われ、死んで行く事に文句も言わず、言いなりになれ…?


ざっけんなっ!!


そんなしきたりはクソッ喰らえだっ…!!!


何もかも皆、生き神のせいじゃねーか!!


儀式も島の掟もしきたりも全部ぶっ壊して、

俺はこの大っ嫌いなこの島を出て行ってやるっ!!!


俺は菊婆に向かって覚悟を決めたようににっこり笑って頷いた。


「分かったよ。儀式では、俺に。」




*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m

次回は、いよいよメインヒロインの登場です。

今後ともどうかよろしくお願いします。


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