第29話 『手塩にかけて育てたゴブリン軍をゴブリンキングに全部取られたので復讐します』

体が熱くなる。蒸気を発しているような感覚。

体内の最大魔素量が拡大されていくのを感じる…。


あれ?そんな伸びない?

所詮はゴブリンだからか。


まぁ、前回と同じような毎度の進化だ。

しばらくして進化が終わった。


ふう。進化が終わると一息ついて体をボキボキと鳴らした。

身長は少しぐらい伸びただろうか。ほんとにわずかだけ身長が伸びたな。

いや少しで済んで良かった。あんな筋肉隆々にはなりたくなかったからな。


体の調子を確認しているとあるものに気づいた。


なんだ?


体にうっすらと糸が引いている? まだフォグスパイダーの糸が絡まっていたか?

いやよく見たらこれは毛だ。薄く細い産毛が身体中に生えていた。


普通の人間だったらあまり生えていないような場所にも生えている。

どちらかというと猿だったら生えている場所か?


なんで?


ゴブリンソーサラーになると毛が生えるのか? なんでや。

大して気にもしていなかったが、今まで生えてなかったよな?


「ほどちゃん。ゴブリンって毛が生えてるっけ?」


「いいえ。ゴブリンは無毛です」


だよな。永遠のハゲなのがゴブリンだよ。育毛剤いらずだ。


「ソーサラーだとこんなに毛が生えるの?」

「いいえ。ゴブリン族全体で毛は生えません」


やっぱそうじゃん。何故に俺だけ毛が生えてるの? 

毛が生えてくれなんて願った覚えもないよ? ドラゴン玉集めたか?


俺は毛を触ってみる。すげーさらさら。生えたてだわ。

そして抜いてみた。するとすぐににょきにょきと復活した。


「はや!」


毛の再生速度速すぎるだろ。速すぎて気持ち悪いんだが。

いやこれ、魔素が使われているか? ほんとにわずかだが魔素が減っている気がする。


毛の再生に魔素を使うっていらねぇだろう。人間じゃあるまいしどんだけ毛に命かけてんだ。


「なぁ、俺の体どうしちゃったんだ?」

「新スキルを確認しました。《魔素吸収Ⅰ》、《微再生Ⅰ》を確認」

「何?」

「新種として登録申請します。認定されました。ファーリーゴブリンと命名されました」

「おう?」


何かスキルと種族に変化があったらしい。


ファーリーゴブリン。毛の生えたゴブリン。そのまんまじゃないか。

なんか、俺の知らないところでどんどん話が進んでいる。


新しく登録される種族なら、もう少しかっこいいのがよかったな…。

なんだよ。ファーリーゴブリンって。まだヒューリーゴブリンのほうがよかった。いやそれは理性なくしそうだからやっぱいいや。


「ファーリーゴブリンだと何かあるの?」

「毛に関することに適性が」

「いやいい、やっぱ聞きたくない」


忘れよう。


「新スキルってどういうの? というかそれで対して最大魔素量増えなかったのか」


新スキルの形成には最大魔素量を消費するからな。


「《魔素吸収Ⅰ》は魔素を吸収します。《微再生Ⅰ》はわずかな負傷を再生します。」

「微妙…。 《微再生Ⅰ》スキルとか絶対頑強の陰に隠れるだろう。いや《魔素吸収》は使えるか? どれくらい吸収するの?」

「1時間でゴブメコンバッタ1体分です。これは毛から吸収しています。」

「やっぱり微妙じゃん。そんだけのためにこの毛は生えたのかよ…」


自分の知らない間に勝手にスキル形成が行われて最大魔素量が減っていってしまった。

しかも、ダサい毛まで生えて。


「はぁ…。 まぁデメリットの多いスキルじゃなくてよかったと思うべきか。何でこうなったかわかる?」


「不明です。ただし、世の中の不明事例の多くに神が関係しているといわれています」

「髪だけに?」

「…」

「ごめん、俺が悪かった」


いきなり神か。神が俺のことを気にしている…?

神といえば、俺を転生させた奴が…。いや、この世界には別の神がいたんだよな。


神々が戦争をしていたこともあるというし…。複数いるのは間違いないだろう。

だとしても、別の神が関係してくるのは余計にわからない。


まさか「毛の神」なんてのがいて、それが介入してきたわけじゃないよな?

なわけがないか。もしそんな神がいるなら、ここではなく地球へいって世界の頭のさびしい男を救ってくれ。


まぁこれはたぶん、材料が少なすぎて考えてもわからない奴だ。やめておこう。

また今度だな。


「さて、次はどうするかな。とりあえず戻るか」


次の行動をとるには、状況を確認しなければ。だが、予想が正しければ。


俺は少し速足で拠点へと向かう。

だがそこはすでにもぬけの殻だった。


「やっぱしか…。軍勢が欲しいと言っていたし、あの決闘の後すぐに引き連れていったんだな」


もぬけの殻になった拠点を見て、俺はため息をついた。

あいつら育てるのに結構苦労したんだけどなぁ…。


『手塩にかけて育てたゴブリン軍をゴブリンキングに全部取られたので復讐します』ってタイトルのマンガとかありそうだな。いや、そんなの一瞬で打ち切りか。


まぁ、これならこれでいい。予想していたし、さっき別の方法を考えたんだ。

ゴブリンキングが来たのなら、そのあとを追えばゴブリンキングの軍勢1万はいるだろうって。


そいつらの前で決闘を行い、勝てば丸々もらえるんじゃないかなと思ったんだよな。そっちの方がゴブリンキングになりやすいだろう。


「なぁほどちゃん、ゴブリンキングとの決闘で勝てば、ゴブリンキングになれる?」

「はい。可能性はあります。ただし、決闘に勝利したケースは非常に少ないです」

「え?」


どして?

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