第28話 ギネスは存在しません
そこはあたり一面真っ白な空間だった。どこまでいっても白。
だが、どこか現実ではないような、そう夢の中にいるような雰囲気だろうか。
さっきまでの… さっきまで? さっきまでとはなんだ?
疑問が湧いてくるが、思考の網にとらわれずに消えていった。
やがて、何か巨大な存在が目の前にきた。大きさが巨大というわけではないが、なんだろう、存在が大きい。
不思議と恐れはなかった。
「おー、珍しいな。何故私の空間に下界の魂が紛れ込んでいるのだ?」
遠いような近いような不思議な声だ。そんな声が音として頭に入ってきては通り抜けていく。
「これは進化可能状態の魂? だとすると邪神達当たりの眷属の魂か? あいつらは仕事が雑だから抜け出してもおかしくはないが、それにしても…」
虫メガネでこちらをあらゆる角度から覗くような仕草をしてこちらを見ている。
「なんだこれ。魂の縁(えにし)が薄い? これなら抜けて当然だ。なぜこんな魂が?」
驚いたような表情をしているのがわかる。そんなにもおかしなことか?
「わからんな。だが、これは使えるかもしれない。この位置、それに進化に介入できれば、あの面倒ごと解決のためのの手がかりとなるやも」
ふむ、とあごに手を当てて、魂をいろんな角度から見ながら考えるような動作をしていた。
「まだ足りんな。もう少し育ってくれねば器が作れない。とりあえず縁だけでもつけておくか」
と、その魂に何か触れるような動作をする。
「これで俺との縁ができた。よし」
そして世界が遠くなっていき、元の世界へと浮かび上がっていく。
「ん…」
目が覚めると、目の前に蜘蛛の死体があった。光のない蜘蛛の目がこちらを見ている。
あいまいだった意識が急激に覚醒していく。
慌てて飛び起き、姿勢を低くして周辺の様子を確認するが、敵と思しきものはいなかった。
ふぅ。大きく呼吸をする。
無防備なところを襲われるなんてことはなかったか。ひとまずは安心だ。
「あれから、どれくらいたったんだ?」
「32分経過」
ほどちゃんが教えてくれた。
「そんぐらいか。気絶してたにしてはそれほど時間は立ってないな…」
そういいながら目の前のフォグスパイダーを見る。俺の蹴りで顔が半分に割れていた。即死だろう。
改めてみてもでかいな。そして強かった。
普通のゴブリンだったら何も知らずに眠らされて殺されていたことだろう。
「こいつこんだけ強いならフォグスパイダーなんかじゃなくてデススパイダーとかそういう名前にでもしとけばいいのに」
「デススパイダーはすでに存在しています」
「…あ、そう」
すでにいるのか。まぁ強い奴全部デスとか名付けてたらすぐにネタ切れだろう。
…それにしても中央部にはこんな奴らがたくさんいるのかね。
「なぁ、このフォグスパイダーって中央部だとどれくらいの強さなんだ?」
「一時間に倒せるゴブリン換算で35%位ゴブリンです」
そんな単位はいらない。
けど一応上の方なのか。それでも中くらいには位置している。中央に行ったらこれくらいの苦戦がよくあるってことだな。
やはり進化かスキル習得をしなければ…。
「ちなみにゴブリンとのキルレシオは?」
「ゴブリンヒーローが過去に討伐した例あり。現在まで他のゴブリン族で討伐した個体はいません」
「いないのかよ。じゃあ初討伐記録としてギネス記録に登録しておいてくれ」
「ギネスは存在しません。神の図書館の討伐履歴にはすでに記録されています」
「まじか。冗談だったのに」
ってかゴブリンヒーローってなんだよ。めちゃくちゃかっこいいな。
俺もなれるかね? いやなったところで所詮はゴブリンのヒーローか。意味ないな。
で、こいつのことだ。中央部にいるであろうこいつがなぜここにいるのかだ。
「こいつはどうやって何故ここに来たんだ?」
ゴブリン族で討伐した個体がいないってことは、ゴブリンキングですら討伐したことないってことだよな?
さっき俺の拠点を襲ったやつの味方では…。
ああ、そういえばあいつはハイゴブリンメイジによる隷属状態だったか?
「ハイゴブリンテイマーによってテイム状態だった形跡あり」
やっぱこのフォグスパイダーもハイゴブリンの手先だったのか。向こうはメイジ、こっちはテイマー。何か違いがあるのかな?
というか、だからフォグスパイダーは俺の前に出てきたわけか。
あんな眠らせるなんて手を使うやつなら、普通だったら相手がもう少し弱まるまで待つもんだと思ってたよ。こちらが森の上にまで動くほど元気があるのに追撃してきたから驚いたよ。
おそらくあのフォグスパイダーは見張り役か、補助役だったのだろう。そういう風にテイマーに指示されていたか。
ゴブリンキングといえど、元は底辺のゴブリンだ。
ゴブリンキングがここいらの軍勢をおそらくハイゴブリンのいる中央にまで連れていくことから、勝てない奴がいるのだろう。
このフォグスパイダーはそいつらの排除役だったのかもしれない。
一方でゴブリンの回収はゴブリンキングが最適だった。
そうみれば、ゴブリンの回収役と護衛役がいたってだけの話かこれ。
…もどるか。 ゴブリンキングも倒さんといかん。いや、むしろ…。
そう考えているとほどちゃんが話した。
「進化が可能です。進化しますか?」
「ん? 進化?」
進化か。あー進化か。
そりゃあんなのを倒したなら当然か。
「はい。ゴブリンソーサラー、ゴブリンエリート、ゴブリンバーサーカー、ゴブリンボーラーに進化可能です」
おーさすが苦労したかいのありそうな進化先だ。いろいろあるな。
ゴブリンソーサラーは魔素量が増加、ゴブリンエリートは体格と共に近接能力、魔素量が増加。
ゴブリンバーサーカーは体格が大幅するとともにスキル《狂気》が大幅に進化する。
ゴブリンボーラーは丸くなる適性及び飛ばされる能力が大幅に増加。
「って最後のゴブリンボーラーって何だ! 本当にあるのかそれ!」
「はい、ゴブリンボーラーを飛ばして敵に攻撃したり、敵陣に侵入させることははままあります。鍛え上げられたゴブリンボーラーは同じ質量を飛ばすのに比べて、飛距離が最大で約5キロ増加します」
「まじかよ…」
ネタじゃないのかよ。もうゴブリン何でもありじゃねぇか。まぁ絶対に選ばないが。
次に目立つのがゴブリンバーサーカーだ。スキル《狂気》が大幅に進化とか怖いよ。
というかゴブリンってもともとバーサーカーだよな。万歳突撃ばかりする奴なんだからナチュラルボーンバーサーカーといえるわ。それがさらにバーサーカーとかいう名前に進化するとか理性とかないやんけ。
これもなし。
次はゴブリンエリートか。だが体格が大きくなるのはな。目的が人世界に紛れることだから、大きくなるのは勘弁だ。
最初から選択肢は一つだったな。
「ゴブリンソーサラーに進化する」
「はい」
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