第33話 記憶を取り戻す。


 ――ロブリタ家から帰還した。ユーリとクロード。


 クロードの家。

 ベッドにはルシフェが寝ている。


 ロブリタ侯爵の一件が片付いたと思ったら、それ以上の問題が発生した。

 なぜかは分からないが、二人ともルシフェが魔王であり、彼女も同じく転生したのだと感じていた。

 ただ、前世の記憶は曖昧だ。


 二人ともある時点までは記憶がある。

 それは魔王ルシフェとの最終決戦の直前までだ。

 そこまでは明確な記憶があるのだが、その先はモヤがかかっている。


「まったく、呑気に寝ているな」

「ええ、未だに信じられません」


 ユーリは過去に思いを馳せ、顔つきも、口調も、ユリウス帝に戻っている。


「ルシフェはどういたしますか?」


 彼女の存在は間違いなく厄介ごとを引き起こすだろう。

 であれば、未然に阻止するために――。


「いや、早まるな」


 ユーリは自分の直感を信じる。

 その直感が前世で何度も、ユリウス帝を救ってきた。


「どうも不思議でならない。魔族の侵攻。そして、余らの転生。どうしても、ルシフェが原因だとは思えんのだ」


 ユーリがルシフェのおでこを撫で、その手が彼女のツノに触れた瞬間――前世の記憶が頭に流れ込み、その像が脳内に映し出される。


「……クロードよ。魔王との決戦のとき、あの場所に誰がいた?」

「私の覚えている限りでは、相手は魔王ルシフェ。こちらはユリウス陛下と私、そのほかに二人――」


 ユーリも思い出す。

 クロードの他に二人の配下がいた。

 だが、ユーリの見た脳内映像では、それ以外にも――。


「いや、もう一人いた。あの場所には、間違いなくもう一人の魔族がいた」


 ユーリは生まれかわってから、一番真剣な顔つきだ。

 そんな彼女を見ているうちにクロードも思い出す。


「確かに……いました」


 今なら分かる。

 ユーリの言葉が真実であると。


「誰だか分かるか?」

「いえ、それは……」

「余も同じだ。ソイツの姿だけが思い出せん」


 二人とも、転生の原因はその魔族だと推測する。

 そして、二人がその魔族のことを思い出そうとすると――。


「クッ……」


 急に二人とも、激しい頭痛の襲われる。

 クロードは強靱な精神で堪えたのだが。

 幼いユーリの身体では、耐えきれない。


「ユーリ様ッ」


 ユーリはフラッと倒れそうになった。

 クロードは慌ててその身体を支える。


「……すまん。大丈夫だ」


 しばらく苦悶の表情を浮かべていたが、しばらくしクロードの腕の中で平静を取り戻す。


「思い出そうとすると、こうなるのか……」

「いったい、どういうことなのでしょうか」

「呪いか、なにか。どうやら、ソイツは思い出してもらいたくないみたいだな」

「そのようですね」


 現時点では諦めるしかなかった。


「むっ」

「どうかなさいましたか?」

「なんで今まで気づかなかったのだ……」


 ユーリは考え込む。

 しばし黙考し、大きく息を吐く。


「なあ、クロードよ。たしかにこの世は、余らが生きた後の世界だ」

「ええ、そうでしょう」


 二人とも、転生に気づいたときに、そう悟った。

 だが、しかし――。


「では、余らのことは歴史書に記されているであろう」

「はい……あっ」

「気づいたか」

「どうして……」


 二人とも、それが当然だと思い込んでいた。

 なんの疑いもなく。


「そう。余らの生きた時代はなかったことになっている」


 そんな当たり前のことになぜ思い至らなかったのか。

 今日、ロブリタ家の書庫で歴史書を読んだときすら、疑問に思わなかった。


 その不思議な現象に気がつけたのは、ルシフェのツノを触ったからだ。

 歴史書からは、ユリウス帝の統治時代が欠落している。

 そして、現在、この世界はいくつかの国に分かれている。

 それらの領地はユリウス即位前とまったく同じ。

 ただ、国の名前だけが変わっていた。


「まさか、そんなことがあるんでしょうか……」

「謎だが、現実がそうである以上、受け入れるしかない。これもまた、ヤツの呪いかもしれん」


 ここまで考え、ユーリはすぐに決断を下す。


「分からんことを考えても仕方が無い。この件は保留だ」

「承知しました」


 もちろん、クロードは異を唱えない。


「余は明日から、冒険者活動を再開する。ルシフェのことは任せたぞ」

「御意」


 ルシフェが目覚めるまでは待つしかない。

 だが、それがいつになるのか分からない以上、無駄な時間を過ごすつもりはなかった。

 クロードがそばについていれば、なんの問題もない――ユーリはそう判断した。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『アデリーナに会いに行く。』


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