美女がゼロの異世界ハーレムって地獄じゃね?

秋雨千尋

ルッキズム全盛期こそ、スマホから離れて見てみたい

 不細工な顔がイヤすぎて自殺した。


 人間は顔じゃないなんて、優れた容姿を与えられた者の戯言タワゴトだ。不細工は人間じゃない。人を好きになる権利すら与えられない。


 何があったのかって?

 クラスの好きな子にSNSで告白したらクラス全員にさらされたんだよ。


「マジ最悪」

「あり得ない、キモい」

「鏡見たことないのかよ、不快すぎる」

こくハラでケーサツいけんじゃない?」


 もうウンザリだ。

 国民的アニメのガキ大将が恋をした時も、主人公がゲラゲラ笑っていた。生まれつき生きづらさが決まってる世界なんか首吊って終わりにする!


 異世界でモテモテになって、ハーレムするんだ!



 ──そして今。

 緑色の肌をした幼稚園児ぐらいの鼻の長いモンスター女に捕まって、木の棒に両手足をくくられた──豚の丸焼き状態──で運ばれている。


「ゲヒヒヒ、イケメン。アチシの婿ムコ


 ゴブリンじゃねえかー!

 ほとんど意味をなさない布切れだけ付けたガリガリの体、絶対にイヤだ、ふざけんな、誰かー!


 いきなりゴブリンが横殴りに倒されて、オレも一緒に転がった。良かった。そうだよな今のはただの前振りだよな。救いに来てくれたエルフ美女の巨乳に顔を挟まれてパフパフを──


「ブッヒー、ハンサム、ケッコンしよ」


 豚とイノシシが結婚して生まれたみたいなゴリマッチョ女に、檻に入れてさらわれた。


 オークじゃねえかー!

 なんでだよ、オレそんなに悪いことしたか?

 したな、親より先に死んだもんなあ、親父やお袋マジでごめんだって!

 頼む助けてー!


 オークがいきなり消えて、檻ごと落下した。

 痛え、舌噛んだ。

 けど助かった。これでようやく、可愛いケモノッ娘のむちむち太もも枕で──


「ス、スキ……オイシソウ……」


 地面から腐り落ちている女が現れた。

 ゾンビじゃねえかー!

 オレが悪かったってば。こんなハーレム何も嬉しくねえよ!


 ああ、そうだよな。好きじゃない奴に好きだって言われても嬉しくない。精神的苦痛でしかないんだ。

 自己中のこくハラなんだ……。


 じゃあ、もう食われて死んじまうか──。


 這い寄って来たゾンビ女に、右足の膝の下を噛みちぎられた。痛みで絶叫して、涙と鼻水でベショベショになりながら、必死に這いつくばって逃げる。生ゴミの匂いがする腕に掴まれて、左足の膝の下も噛みちぎられた。


 助けて、父さん、母さん!

 もう死のうとしないから、こんなツラだけど、精一杯生きるから!

 元の世界に返してくれえええ!



 バキッ。ドタッ。


 机と一体化しているベッドの、柵のところに縄をひっかけて首を吊っていたんだけど、重さに耐えきれなかったらしい、壊れて床に落ちたようだ。

 ゼーハーぜーハー。


 い、生きてる……。

 今のは死にかけた時に見る夢?

 それとも──?


「ひっ!」


 ゾンビ女に噛みちぎられた足を見たら、背筋が凍って、ちょっと漏らした。


 膝から下がずっと、不自然な青アザになっていた。




 翌朝、何事もなかったような顔で駅に向かう。

 机の上に置いておいたスマホはバキバキに壊れてしまっていたから、手元に無い。


 あれ?


 周りの人間を観察していたら、妙な事に気が付いた。全然、美人もイケメンもいない。どいつもこいつも無表情でスマホを見て、肌も髪もひどいもんだ。


 画面の中を見過ぎていた。

 加工されない自分だけが特別に不細工に見えていたんだ。



 学校で散々バカにされて、こくハラ現行犯だと警察に連絡するフリするヤツまで居た。それを見て笑っている好きだった子。あれ? どこが良かったんだろう。なんだか全部がバカバカしい。一人一人の顔を凝視する。


「な、何見てんだよ不細工」


「テメーこそ加工しなきゃ見られねえ、クソみてえなツラじゃねえか」


「はあっ?」


 悪口言ってきたヤツ全員に目を見て言い返した。最初はギャンギャン噛みついてきたけど、やがて大人しくなった。


 美男美女なんて一部にしか存在しない。


 少しでも良くあろうと、出来る範囲で手をかけている人間がいるだけだ。

 きっと。自分だけのヒロインが出来たら、欲目でキレイに見えるんだろうな。


「あの、げ、元気出して、ね……」


 話したこともない女子が、近くに来て、小さくそう言った。逃げるように離れたけど、オレのために勇気を出してくれたんだな。


 窓ガラスに映る見慣れた顔。

 いきなり良くなることは無いけどさ。


 しばらく行ってないし、髪ぐらい切りに行くか。



 終わり。


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