ツンツン・メンヘラ、アノン 6/12

 四つん這いになった僕の背中に、女王様がいた。


「姉ちゃんと上手くいってるみたいじゃん」

「はい」

「この前、ディープキスしたんでしょ」

「……はい」


 自分の部屋で四つん這いって、妙な気分だった。

 カンナさんはバイト。


 スナックの皿やグラスを磨いているらしいが、仕事は客のいない時間帯だけ。


 お手伝いって感じみたいで、アノンさん曰く、心変わりしたカンナさんに親は驚いていたとのこと。

 どんどん真面目になっていく姉がいる一方で、ブレない妹がいた。


「ふ~ん。それで、昨日……」

「ん?」

「風呂場でねぇ。一人でしてたのかぁ」

「えっ!?」


 プライベートがない、ってやだなぁ。

 筒抜けじゃないか。


「妹としては嬉しいけどね。んー、でも、私の方が上手いよ?」

「……なるほど」


 ふと、背中の重みが消えた。


「起きて」


 何だか分からないが、体を起こす。


「えいっ」


 突然、正面から抱き着かれ、優しく頭を撫でられた。


「……はぁむ」


 心臓が飛び跳ねた。

 アノンさんは、躊躇いなくキスをしてきたのだ。


「ん? んぐ?」


 姉の強引なキスとは違い、唇がナメクジのように口の周りを這う。

 その中で、舌先が僕の口をつついてきて、開門せよと命じてきた。

 目だけはギラついて、拒否権を認めないと言わんばかり。


 仕方なく、無血開城をすると、今度は柔らかい舌が入ってくる。


「んごおおお!」


 耳の後ろや首を爪先で、やさ~しく掻いてくる。

 同時に、舌が舌を磨いてくるという、刺激の強いキスだった。


 勝利を確信したアノンさんは、にっと笑い、口を離した。


「起った?」


 なんて、妹だ。

 本当に上手かった。


「起ったか、って」

「ええ。秒殺ですね」

「でしょぉ? キスは私の方が上手いから」


 なんか、対抗意識燃やす瞬間があるんだよな。


「また、してほしかったら私の言う事は絶対に聞いてね」

「でも、カンナさんとダブった場合は……」

「えー……。言わせる気?」


 顎を指で持ち上げられ、アノンさんを見上げる姿勢になる。

 顎の下を指の腹で優しく撫でられ、妙な気分になった。


「アンタは、私の奴隷。言う事聞かなかったら……」


 股間を強く握られ、こう言われた。


「……潰すよ」


 上気した頬はピンク色に染まり、吐息が目に当たる。

 冷たい目つきをしているのに、瞳の奥には様々な感情が渦巻いた熱意を感じられた。


 油断していると、きっと呑み込まれる。


 ヤンデレの姉がいるのに、ステルスで妹の方に言い寄られている僕は、死と隣り合わせの状況だった。


 バレたら、絶対にヤバい。

 奴隷というのは公認だが、カンナさんではなく、アノンさんを優先させた場合は、どうなるか分かったものではない。


「分かったら、肩揉んで」

「お、押忍!」


 ベッドに座ったアノンさんの後ろに回り、細い肩を揉む。

 何も凝ってないのに揉ませるのは、優越感に浸るためだろう。


「アッハハハ! 奴隷って便利~っ♪」


 姉のいない所で、アノンさんは高笑いをした。

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