うるせー鳩サ●レーぶつけんぞ

澤田慎梧

うるせー鳩サ●レーぶつけんぞ

 鎌倉みたいな土地に住んでおりますと、度々言われることがございます。


「へぇ、鎌倉! いい所に住んでますね!」

「わぁ、鎌倉住まいなんてお金持ちなんですね」


 前者は誉め言葉として素直に受け取れるとして、問題は後者です。

 確かに、鎌倉には一定のブランドイメージがあります。実際に富裕層や著名人も住んでいたりします。

 けれども、鎌倉市は腐っても人口十七万人の街。その十七万人の全員が富裕層なわけもなく、「お金持ち」と呼べるのはごくごく一部。当たり前の話です。


 お金持ち呼ばわりされる覚えはなく、「うるせー! こちとら曾祖父の代からの立派な鎌倉庶民様だぞ!」等と心の中で悪態をつきつつ、満面の笑顔を湛えながら「いやいや、うちはただの郊外民ですから」と毎度のように答えております。

 そうするとですね、「またまた御謙遜を」とか言われるんですよ、これが。あはは。


 ――うるせー鳩サ●レーぶつけんぞ!



 また、こんなこともよく言われます。


「やっぱり近くに古いお寺とかいっぱいあって、散歩コースになってたりするんですか?」


 はい、これよくある間違いです。

 皆さんが思い浮かべるであろう「鎌倉」のイメージは、恐らく「鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐう」や「鎌倉大仏(高徳院)」や「由比ヶ浜ゆいがはま」等でしょう。

 けれども、それら有名観光名所は、鎌倉駅周辺の通称「旧鎌倉」に集中しています。


 旧鎌倉の人口は約四万五千人。全人口の三割にも満たない数です。

 それ以外の殆どの住民は、郊外の新興住宅地や農村・漁村だった地域、はたまた横浜市寄りの大船地区住まいです。

 実に七割の住民が、観光地とは縁の薄い場所に住んでいる訳ですね。


 もちろん、一部の郊外にも古い史跡は幾つかあり、地元民からは大事にされています。

 けれども、観光客は殆ど来ませんね。静かなものです。コロナ禍で、更に静かになりました。


 え? 「鎌倉駅から離れたところにも、江ノ島という立派な観光地があるじゃないか」ですって?


 ――江ノ島は隣の藤沢市じゃあ! 鳩サ●レーぶつけんぞ!


 ついでに書いておくと、「湘南」という呼び方も主に江ノ島より西側を指す言葉なので、鎌倉は含まれません。

 鎌倉を湘南呼ばわりしても殆どの鎌倉市民は怒らないとは思いますが、心の中で鳩サ●レーを投げつけられているかもしれません。ご注意を。



 さてさて、益体もないことを書き連ねてまいりましたが、次で最後です。

 近代以降、鎌倉には様々な文人が居を構えていました。

 海と山、歴史ある寺社に古戦場。都心からの交通の便の良さも、それを手伝ったと言われています。


 そんな鎌倉ですから、当然のように様々な小説・映画の舞台にもなっていますね。

 ――だからなのか、私が小説を書いていることを知っている方に鎌倉在住と明かすと、高確率でこんな言葉が返ってきます。


「鎌倉なら題材が多いから、小説のネタにも苦労しなさそうですね!」


 ――うるせー! めぼしいネタは既にことごとく使いつくされている上に、今までに書いた通り「外の人が持ってる鎌倉のイメージ」と「市民が抱いている鎌倉のイメージ」は違うんだよ! 地元民ならではの感覚で書くと外の人間に全然通じないからむしろ苦労するんだよ! 鳩サ●レーぶつけんぞ!


(おわり)

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うるせー鳩サ●レーぶつけんぞ 澤田慎梧 @sumigoro

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