第8話 つくづく……嫌な女ね。私は。

「咲さん『市民無料法律相談の日』ご苦労様でした!」


 弁護士である私――多華たか さきは。


 月一回、市役所の市民課で。


 無料法律相談を担当している。


 で、それも先程終了。


 私以外の弁護士達も。撤収作業をしている所だ。


祀理まつりさんも。せっかくの日曜日なのに。この後、喫茶店でも?」


 彼女は――ケースワーカーで友人の。


 小宮こみや 祀理まつりさん。


 職場が市役所と言うだけなのに。


 今回、ボランティアとして。私の付き添いをしてくれた。


 彼女の放つ女神のオーラで。


 相談者の人達は緊張する事も無く。


 非常にスムーズに事が運んだ。


 私としても。居るだけで大助かり。


「良いですね! えへへへ! ひゃっほー! 咲さんと成分と一緒に甘い物を食べる!」


『祝日に職場に出勤させている』と。


 誰かさんに非難されそうだからか。


 こうして労をねぎらおうとしているのかもね。


 つくづく……嫌な女ね。私は。


 打算的な自分とは対照的な。


 屈託くったくの無い笑顔の祀理まつりさんが。


 後光ごこうしている様で。


 まぶしくて――ちょっと、視線をそらしてしまった。


 あの通り魔事件に関わったせいで。


 私は、すっかり。


 自嘲じちょう的で。


 自罰じばつ的になってしまった。


 そして、都合の悪い記憶を忘れる為に。


 本業の弁護士としての仕事に。


 いそしんでいるのかもね。


「むむっ? ちょっと、カロリーを消費して来ます! 田んぼ、川の様子を見に行く訳では無いので! 心配しないで下さい!」

「それ、不吉な死亡フラグでしょ!? 大丈夫かしら!?」


 祀理まつりさんが。


 市民課の出入口に向かって。


 と、突進!? 一目散いちもくさんにダッシュした!?


 トイレに行ったのかしら? 


 または、運動して。お腹を減らす作戦?


 どちらにせよ。彼女と関わっていると。


 不思議とマイナス思考を吹き飛ばしてくれる。


 今の私が。勝手に。


 そう思いたいのかもしれないけど。





 結論から言えば。


 祀理まつりさんは5分以内に戻って来た。


 しかしである。


 見知らぬ女性の手を引いて来たのには。


 完全にだった。


『想定外の出来事は。想定外の未来を引き寄せる前兆だよ? たかさき君』


 不意に。御門みかど語録がよぎる。


 同時に。


 えもいわれぬ。


 嫌な予感がした。


「咲さん! ボブカットの大学生さんを引きずり込んでやりました! ふへへへ! ブラックホールです!」

「ほ、本当に、大丈夫なので!?」

御門みかどみたいな行動しないで!? どうしたの!?」


 謎の高揚こうよう感に支配されている祀理まつりさん。


 一方、白のTシャツに。黒のキャミソールワンピースを着た。


 ショートボブの女性は困惑している。


「このボブ子ちゃん、朝に見かけました! 市役所前のバス停で!」

「ボブ子!? そ、それ、私の事でしょうか!?」


 今日の法律相談は。朝9時から昼休憩を挟み。


 午後3時に終了したのだった。


「さらに、お昼休憩の時にも! この市民課をのぞいていました!」

「な、何のイベントか気になっただけです!?」


 名探偵が犯人を追い詰めるシーンだろうか?


 通称ボブ子さんも。気圧けおされている。


きわめつきは、法律相談会が終わっても。付近を右往左往うおうさおう。困ってるサインを出してる人は――判別出来ますから! ケースワーカーですので!」


 祀理まつりさんがドヤ顔も披露ひろうしつつ。


 仕事に対する矜持きょうじを口にした。


「なるほど。祀理まつりさんのお仕事レーダーが反応したのね」

「はい! なので、観念かんねんして……お悩み相談ですよ?」

「……でも、時間外ですし。相談料を払わないと」


 私の弁護士バッジを。くもった表情で見つめながら。


 些細ささいな言い訳をして。この場をしのごうとしている。


 手に取るようにボブ子さんの考えが。


 把握はあく出来た。


「ぷんぷんぶん!」

「な、何ですか!? この人、怒るとエンジンでも稼働かどうするの!?」

「……こうなったら、素直に相談しないと駄目よ? それと、美味しい物をお供えしないと」


 完全に祀理まつりさんに軍配ね。


 さてと、どこの喫茶店に行くか。


 候補を絞ってから。


 そこで、ボブ子さんから事情を伺いましょうか。


 



 




 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

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