眩惑の乙女

第5話 月夜野さつきは。警察署長ですわ!

「姫署長! 神社での奉仕活動、お疲れ様でした!」

「おーほほほ! わざわざねぎらう必要、ありませんのに。はい、お疲れちゃん!」


 わたくし――月夜野つきよの さつきは。


 警察署長ですわ!


 しかし、本日。


 高美たかみ神社のえ完了と。


 アニメとのコラボ参拝さんぱいイベントが。


 同時に行われると言うので。


 わたくしもこの通り。


 巫女装束みこしょうぞくで手伝いましたわー!


 通りすがりの署員さんには。


 先ほどから、お疲れちゃん! と声をかけてくれますの!


 はて? おかしいですわ?


 日頃から、あいさつをわしてくれますが。


 わたくしのスケジュールまで。告知こくちしましたか? 


 ぽんぽこ! ぽんぽん! 思い出せ!


 そ、そうでした!?


 うっかり、巫女みこ姿で警察署に!? 


 戻って来てしまいましたわ!?


 わたくしの部下である――赤城あかぎ警部に。


 醜態しゅうたいを指摘される前に!


 くのいちのごとく。


 気配を消しながら、足早あしばやに。


 署長室へ舞い戻る――


「姫署長さん? 何かのイベントですか?」


 またもや、声かけ事案じあんですの!?


「交通課の井上いのうえさん!?……そうでした! 今週、誕生日でしたわね!」

「えっ!? 私、誕生日を言いました?」


 個人情報流出を……警戒しているのでしょうか?


 申し訳なさそうに。返答へんとうしていますわね。


「署員の皆さんのいわい事を把握はあくしてますの! 後日、月夜野つきよのグループからカタログギフトが届きますので! よろしくちゃんですわー!」

「そ、そんな!? お、おそれ多いですよ!?」


 冠婚葬祭かんこんそうさいと同じでは!?


 わたくしも普通の生活にれたと。


 自負じふしてましたのに!?


「気になさらず! わたくしの気持ちですの! 皆さんも受け取っていますから!」


 自然と彼女の両手を握りしめ。


 懇願こんがんする形に。


巫女みこさんが上目うわめで!? た、です!? ふにゃあ!?」 


 井上いのうえさんが。


 ふにゃふにゃと腰砕こしくだけに!? 持病でしょうか!?


 わたくしがストレスの原因!?


 とうといとは!?


「許容範囲をえる寵愛ちょうあいで!? 交通課の井上いのうえが!?」

「馬鹿な!? 彼女は普通の署員だぞ!? 巫女みこ姿で強化されている!?」


 あれよあれよという間に。


 救援として。他の皆さんが集まって来ましたわ!?


「あの、わ、わたくし……あら? 総務課の中島さん? 小学生のお子さんが風邪かぜでしたね。何か不都合ふつごうがありましたら相談! ですの!」

「あ、ありがたき、お言葉! ただの一兵卒いっぺいそつの自分に!」


 これでも、上司ですので! おーほほほ! 


 きめこまかな配慮はいりょが大切ですわー!


 他の方々にも近況をうかがい。


 ちょっとした、懇談会こんだんかいをする流れに。


 ふと我に返ると。


 一日署長ならぬ巫女みことして。


 この姿を披露ひろうしてしまいました。


 ぐぬぬぬ。不覚。


 くっころ! の心境ですわー!





 やっとの事で署長室に入り。


 一息つこうとしましたが。


 机の上に設置されている電話が――鳴り響きましたわ!?


「もしもし? 署長の月夜野つきよの さつきです!」


 少し語尾こびが強くなりました。


 いけません! 疲労しているからと言って。


 相手に失礼ちゃん! ですの!


『……アタシだよ。響愛きょうあい学園の――』

「アタシ詐欺さぎですの!? 即、切断ですわー!」


 警察署長として。適切な行動ですの!


 通話を強制終了!


 電話線も抜きましょうか?


 ま、また!? 電話!? 


 しつこいですわ!


響愛きょうあい学園の学園長! 甲斐かい 裕子ゆうこだよ!』

響愛きょうあい学園? ああ! エクスプロージョン裕子さん!」


 爆発系学園長? でしたか?


 あのお嬢様大学で。


 入学式にお祭りを開催かいさいしたとかで。


 関係者の間では……そう呼ばれていた様な?


『アタシを異世界の魔法みたいに言うな!? 年中爆発してるのかい!?』

「おほっwww 四六時中しろくじちゅうボンバーしてますの? お疲れちゃんwww」


 甲斐かい学園長。やりますわね!


 危うく吹き出す所を必死に……こらえましたわ! 


月姫つきひめこそ。毎日が正月だろ? いや、パン屋でも始めたのかい? くくっwww 存在が、もっちりしてるwww』

「だから誰なんだよ!? もっちり野郎って!? がるるる! ばうばう!」


 とあるライトノベルの令嬢キャラクターに。


 わたくしが似ていて。


 しかも、ふともものもっちり感までも。そっくりらしいのです!


 わたくしは納得してませんのに! 


 世間が受け入れ始めていますの!


野太のぶとい声!? しかも、警察犬も一緒にいるのかい!?』

「おほほ!? 暴力団担当の刑事と。鑑識かんしきのワンちゃんの抗議ですわ!? お気になさらず!?」


 言い訳として。苦しいでしょうか!?


 月夜野つきよの家の品位ひんいが!?


「それで!? ご用件は!?」

『……学園内で事件が起きた。が、起きていない事になった』


 軽口かるくちから一転。


 深刻そうな雰囲気が。


 電話口からにじみ出て来ました。


 経験上――吉報では無い事。


 それだけは瞬時に理解しましたわ。




 


 


 


 


 


 


 






 

 

 


 


 


 


 

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