第4話 勇者と研究者

 南の魔王、サイエンとの戦闘は…驚くほどあっけなく終わった。


(あの勇者たちが挑戦しても敵わないという魔王サイエンの動きが、俺には止まって見えた…)

 一瞬で勝負が決まり、サンは自分の成し遂げたことに驚きが隠せなかった。

(やっぱりは……)



「お疲れ様です、勇者様。素晴らしい戦いでした」

 魔王を倒し帰還する途中、シスター・プラチナがねぎらいの言葉をかけながらサンに紅茶を手渡す。

 サンはその紅茶を受け取らず、じっと見つめた後…口を開く。

「この茶だって…どうせ何か入ってるんだろ? シスター…アルカ?」

 プラチナとニッケルは驚いた様子で同時にサンを見る。そしてお互い顔を見合わせた後、プラチナが口を開く。

「…ばれた?」

 シスター・プラチナ…ではなく、シスターに変装した研究者のアルカは、ぺろりと舌を出す。

「何でだろ。声も薬で変えて、シスターの格好して瞳の色も薬で青から水色に変えて、見た目随分変えのに…」

「確かに…ずっと気づかなかったし、変装は完璧だったよ。でもお前…薬品の匂いがぷんぷんするんだよ。そんなシスターいるわけねぇだろ? 」

 サンはそう言った後、ニッケルを見る。

「それに女好きのお前が、初対面で美少女シスターに無反応なんておかしいだろ。 それもあって、こいつら何かあるなと思った」

「なんだ…俺も怪しまれてたのかよ」

 ニッケルはそう言ってやれやれと両手を上に挙げる。

「変装したあたし、そんなに美少女だったんだ? ふふっ。サンがいつもと違ってあたしにメロメロだったから面白かったよ?」

 笑ってそう言うアルカを見て、自分が憧れたあの可憐なシスターの存在は幻だったのだと改めて気付かされ…サンは大きな溜息をつく。


「じゃあ、あの洞窟で使った光の魔法はどうしたんだよ」

「あれはサンの取ってきた発光石を磨いて杖にめたの。衝撃を加えれば光を放つ石なんだけど…あの時はちょっと強く叩きすぎたわね」

「じゃ、ナメクジのモンスター倒してたのは…」

「ああ、あんなの塩撒いときゃ大丈夫だったわよ」

 たき火を囲みながら今までの冒険の真相を聞いて、サンは魔法が使えなくてもたくましく冒険を乗り越えてきたアルカに思わず脱帽する。



 その後リトマス村に帰った一行は、村の人々から祝福を受ける。

 そして勇者サン一行の名は王都にまで広まり、三人は南地域の危機を救った英雄として国王に招かれることになった。


 王都からの迎えの馬車に乗りながら道中、爆睡するニッケルの隣でサンはアルカに尋ねる。

「お前に渡された祈りの結晶だとかいう以外にも、俺、魔王討伐の旅の中でだんだん強くなってる気がしたけど…それもお前が紅茶に薬でも混ぜてたんだろ?」

 サンがそう言うと、アルカはバツの悪そうな様子で目をそらす。

「…ごめん。でも、そうでもしないとサンが死んじゃうと思って…」

 そう呟いた後、アルカはサンを真っ直ぐに見る。

「それにサンはあたしの薬を嫌がるけど、正直パーティー組んで他の魔道士とかの力を借りるのと変わらないよ。つまり…サンは同じパーティーの中の『研究者』のあたしの力を使っただけ」

「…………」

「あたしだって薬を作るのに魔法が必要な時は、よく魔導士に手伝ってもらってるの。だから…人の力を借りるのって普通のことなんだよ?」

 サンはアルカの言い分を聞いて、これまでのかたくなだった自分に気付く。

(人の力を借りる…か。確かにそれは皆当たり前にやってることだよな…)

「それに、あたしが応援したいと思えるのもサンの能力だよ。サンがこれまで自分自身で努力して、薬も簡単に頼ったりせずに頑張る姿を見てるから…。何も剣の実力だけじゃなくて、そういうのもサンの『勇者』の能力だよ。だから、その能力で手に入れたあたしの薬の力もサンの実力だから…!」

「…お前には負けたよ」

 一生懸命説得するアルカに、サンはついに折れる。

「正直薬には助けられたし、もう飲んじまったからあれこれ言うつもりはないけど、でも…この薬の力を俺だけのものにするのは公平フェアじゃないと思う」

「じゃあ、薬のことは公表するし、販売もするわ」

 アルカはぽつりとそう言った後、にんまりと笑みを見せる。

「…ただし、高額でね。サンには先に渡したから…その分のお金も請求する。一生かけてお金稼いでね?」

「げ。じゃあ俺、またギルドの仕事したり、冒険に出て魔王討伐しなきゃな…」

「頑張ってね、勇者サン=メスシリンダー?」

 アルカはそう言ってウインクした後、うーんと伸びをする。

「まだ他の地方の魔王は残ってることだし、サンが討伐しに行くなら…あたしまたサンのパーティーに入ろうかな。外に出て冒険するのも案外楽しかったし?」

「え…もしかして、また修道女シスターの姿になるのか?」

 サンは見惚れる程の可憐な姿を思い出し内心ドキリとする。その様子を見てアルカが笑う。

「残念でしたー。サンがデレる顔もまた見たいけど、あたしの本当の姿…研究者でもパーティーで出来ることがあると思うの」

 アルカはそう言って、自分の着ている白衣の襟元を握る。

「だから次は、いつもの白衣姿で…職業ジョブ『研究者』として冒険に出るわ!」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者と研究者 ほのなえ @honokanaeko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ