第26話 魔法と能力
「あの話……?」
アッシュは首を捻った。何か実現できそうなことを話していただろうか、と。
ジャックは傷付いたように胸を抑えてみせた。
「前に話していたじゃないか。リアちゃんと一緒にハート公爵領に店を出すこと」
「……は? あれを本当に実現させるってこと?」
「そうだよ」
ジャックはニッコリと微笑む。一方、アッシュは露骨に嫌な顔をした。
「だってさ、このままアーネスト侯爵領の一角に、リアちゃんを置いておくわけにいかないでしょ? そのうち必ず彼らはリアちゃんのところに来るよ」
アーネスト侯爵はともかく、あの妹が押しかけてきてはたまらない。
確かにそうだ、とアッシュは賛同しかけたのだが続けてジャックが言ったことに言葉を失った。
「それに、リアちゃん。もう少ししたら、店を出ていこうとしているみたいだし」
「え……?」
(――そんなの、初めて知った。ジャックには話していたのか、そんな大切なこと……)
思いがけずリアの考えを聞いてしまい、アッシュが瞳を揺らす。それに気がついたジャックが大げさに手を振り慌てて否定した。
「あ、いや……! 本人から聞いたわけじゃないから確実ではないけど! きっとそうだろうなって、さ……」
取り繕ってみたものの、あまり効果がなさそうな表情のアッシュに、ジャックは自身の額を抑えた。
アッシュにはすでに話していると思っていたからジャックは話を切り出したのだが、どうやらそれは違ったらしい。
何とかしてアッシュの気持ちを立て直そうと別の話題を提供してみる。
「そういえば……なんで王城では『変幻の魔法』を遣わなかったの? 学園では遣っていたでしょ? リアちゃんにかけていたのは君の魔法だよね?」
ジャックはニヤリと笑うと「君の色だったし」と付け加えた。
アッシュは「――やっぱりね」と一息吐き出す。予想通りの展開に沈みかけていた心が戻ってきた。
「それが……かけていたのに、解けてたんだよ」
「え? ――ああ、そうか!」
何かに気づいたジャックが納得したように頷く。アッシュは片眉を上げた。
「なに? 理由が分かったの?」
「うん、まあ……」
「教えろ。
赤髪をさらりと靡かせる見目麗しい青年の腕を、茶髪をふわりと揺らす人懐っこい顔した青年が掴むと、そのヘーゼルの瞳をキラリと光らせた。
辺りはすでに真っ暗で、夜空には月と星がきらめいている。彼の瞳を光らせるものなど周囲に何一つないというのに――まるでその瞳自体が光を放っているかのようだ。
ジャックは息を呑んだ。
「……それ、やめてって言ってるでしょ?」
心を読まれるような感覚に眉をひそめると、両手を上げてギブアップする。
「はいはい、参りました。言えるところまでは言うから、それ、やめてね。あのコの“能力”もヤバいけど……君もある意味、ほんっと、ヤバいよね」
やれやれ、と肩をすくめると、ジャックはすでに光を失ったヘーゼルに真っ赤な瞳を合わせ、声色を変えた。
「あれは、あのコのせいだと思うよ」
「アーネスト侯爵令嬢の?」
「そう。あのコの能力は多分――『魔法の無効化』だよ」
「何だよ……それ……」
(僕の魔法も『無効化』されたってこと? クレメンタイン教授の教員室の花にかけた保存魔法もそれが原因で朽ちていた、と?)
今度はアッシュが息を呑んだ。
「でも、本人は気づいていないみたいだね。自分の能力に」
「え? そんなこと、あるの?」
「うん、時々あるみたいだよ。僕は魔力がないから魔法については分からないけれど、能力については『迷子』たちにいろいろと教えてもらうから」
「それは……『異世界の迷子』?」
ジャックは静かに頷いた。
「能力者は『迷子』に多いんだ」
「は? そんなの……初耳だよ?」
ジャックはいつもの苦笑いを浮かべ「だろうね」と肩を上げた。
しかし、アッシュは、ふと疑問を感じる。
――
ジャックは気づいていたようで、すぐに答えた。
「もちろん、この世界にも能力者はいるよ。魔法が遣えなくても能力があったり、元から両方とも遣えたり……それは、人それぞれ。だって、アッシュ。君も、だろう?」
(気づかれていたのか……)
「君がその瞳で遣うのが――“能力”でしょ?」
ジャックは静かに口角を上げた。
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