第34話 釘崎 真人⑧

 あれから数年の時が流れた……刑務所での生活は快適ではなかったけど、そこまで苦でもなかった。

ただただ心のない機械のように動いて眠る……毎日それを繰り返すだけ……。

いっそ死ぬまでこのままにいる方が良いのかもしれないとすら思った。

でも……時は待ってくれない。


「お世話になりました……」


 刑期を終え……俺は刑務所を出る日を迎えた。

正直……嬉しくない。

このまま刑務所を出た所で……俺には居場所なんてない。

俺は復讐のために全てを捨てたんだ。

家族も……医者も……人間としての誇りすら……。

俺……これからどうしよう……。


--------------------------------------


「おかえり、真人」


「とっ父さん……」


 刑務所を出た俺を笑顔で出迎えてくれたのは父さんだった。

父さんと最後に会ったのは逮捕された直後の面会だった……。

俺はみんなと合わせる顔がないからと父さん以外の人間とは面会謝絶にしていた。


--------------------------------------


 数年前の面会室……。


『真人……』


『父さん……ごめん。 父さんの名前に泥を塗ってしまって……』


『そんなもの気にするな。 今は自分の罪を償うことを考えなさい』


『医師免許は返上するよ……なんて言わなくても、医師会がはく奪するだろうけど……』


『……すまん』


『父さんが謝る必要なんてないよ。 俺の身勝手な行動が招いたことだから』


『真人……お前は人として許されないことをした。 でも私は……お前のしたことを否定することができない』


『……』


『母さんが浮気して出て行ったことは話しただろ?』


『うん……』


『私はあの時ほど他人に対して怒りを覚えたことはない……神が許してくれるのなら、この手であいつを殺してやりたいとすら思ったよ。

だが私にはできなかった……これまで積み上げてきたものやお前を捨てて復讐に走ることが恐ろしくてな。

結局、法律に従って制裁を下したよ』


『それが当然だよ』


『そうだな……でも時々思うんだ。 私を裏切り……お前まで捨てた女の罪がどうして金を払ったくらいで償われたことになるんだ?ってな。 

裏切りというのは心の殺人だ……まして愛する家族を裏切るなんて……良識のある人間ができることじゃない』


『……』


『良識のない加害者相手に、なぜ我々被害者が良識を持って接しないといけないんだ?

私達は永遠に癒えない傷を負わされたのに……不公平じゃないか』


『……』


『真人、私は……』


『父さん、それ以上は言わないで!』


『真人……』


『俺は犯罪者だ……どんな理由があっても、それが事実だよ』


『……』


『もう俺のことは忘れてくれ……さよなら……』


 俺はそう言って父さんの口を閉ざしてしまった。

父さんなりに俺を励ましてくれようとしたことはわかっていた。

だけど……あれ以上何か聞くと、俺は父さんの言葉に甘えてしまう。

今更そんな都合の良いことが許される訳がない!!

こんな俺に……父さんの子でいる資格なんてないんだ!!

……そう思っていた。


--------------------------------------


 現在……。


「どうして……ここに?」


「親が子供を迎えに来ることがそんなに意外か?」


「迎えにって俺は……」


「いいから……ちょっと付き合え」


「え? ちょっちょっと!」


 父さんは俺の言葉を遮ると……近くに止めていた車に俺を押し込み、車を発進させてしまった。

道中どこに行くのか尋ねても、父さんは答えてくれなかった。

一体どういうつもりなんだ?


--------------------------------------


「着いたぞ?」


「ここって……釘崎病院じゃないか!」


 父さんが俺を連れてきたのは俺にとってもう1つの実家である釘崎病院だった。

何年も時が流れたと言うのに……この病院は何も変わらないな。


「いくぞ」


「ちょっちょっと! 父さん!」


 父さんに腕を掴まれ、強制的に病院内にひきずり込まれる。

あの温厚な父さんがどうしてこんなことを……一体何だっていうんだ?


--------------------------------------


 訳もわからないまま父さんに引きずられてきたのは釘崎病院の待合室……俺が足を踏み入れた瞬間!!


 パーン!!


「なっ!!」


『おかえりなさい!!』


 突然部屋中に響き渡るクラッカーの破裂音と迎えの言葉……。


「みっみんな……」


 待合室にいたのは……かつて俺と共に大勢の命を救ってきた医師や看護婦達……そして、学生時代の友人や恩師たちだった。

中には俺が診ていた患者達の姿もある。

壁には折り紙で作られたのれんが飾られ、そこには【釘崎 真人先生 おかえりなさい!!】の文字がきれいに並べられている。


「こっこれって一体……」


 状況が飲み込めない俺の肩に父さんが優しく手を置く。


「今日お前が出所すると聞いてな? みんなお前をここで出迎えたいと言って聞かないんだ」


「俺を?……」


「釘崎先生!」


 1人の少年が俺の元に花束を持って駆け寄ってきた。

この子はたしか……俺が初めて執刀した翼君だ。

当時7歳だった翼君が重い病を患い、俺が彼の担当となったのが縁だ。

まだ幼い翼君は手術をするのが怖いと手術を拒否していた。

俺はそんな彼に、『先生も手術が怖い……でも翼君に元気になってほしいから、勇気を出して手術する。 だから翼君も勇気を出して手術を受けてくれ』と何度も彼を説得した。

俺の気持ちを理解してくれた翼君は手術を受け……無事に退院することができた。


「おかえりなさい先生!」


「俺はもう先生じゃないよ、医師免許もはく奪されたし……」


「そんなの関係ないよ! 先生が僕に勇気をくれたから……僕、夢だったプロサッカーチームに入ることができたんだ。 

先生は俺のヒーローなんだ。

だから……はい! おかえり」


 感謝の言葉と共に彼から花束を手渡された。


「……ありがとう、翼君」


パチパチパチ!


 花束を受け取った瞬間、周囲から祝福の拍手が鳴り響いた。


『おかえりなさい! 釘崎先生!』


『待ちくたびれたぜ! 真人!』


『真人ー! 今日は俺のおごりだ! 明日飲もうぜ!』


『ちょっと田中先生! 嬉しいのはわかりますけど、病院内で酒の話なんてやめてくださいよ!』


『今日くらい無礼講でいいじゃないか! 固すぎるぞ!小林!』


『釘崎先生ー! みんなでクッキー作ってきたから一緒に食べませんか?』


 みんなが温かな言葉を掛けてくれる……医者でもない前科者の俺なんかに……みんなの期待や信頼を裏切ってしまった俺なんかに……。

どうしてみんな俺を見限らないんだ?

どうして何年も俺を待っていてくれたんだ?


「真人……」


 迷う俺に父さんが再び声を掛けてきた。


「よく見ろ……お前が築き上げた光景だ。

お前が積み上げてきた場所だ……」


「……」


「これからお前が何を考え、何をするのかはわからん。

だがこれだけは覚えていなさい。

”お前は1人ではないんだ”」


「父さん……」


「みんなはお前が医者だから集まってくれたんじゃない。

お前が真人だから集まってくれたんだ」


 俺はここにいて良いのか?

父さんやみんなと一緒にいて……良いのか?

俺は……俺は……。


「ふごっ!」


「いつまでしけたツラをぶら下げてやがる! こちとらせっかくの休みを潰してまできてやったんだぜ?

もうちょっと笑えっつーの!」


「いたたた……福山、顔ひっぱるな! 痛いよ!」


「何やってんだよ福山。 真人を笑わせるならこの辺を……」


「アハハハ!! 谷川やめろ! くすぐったいよ!!」


「先生達子供みたい……」


『アハハハ!!』


 すっかり忘れてたな……笑うなんて……。

みんなで一緒に大声で笑うのがこんなに気持ちの良いものだったなんて……知らなかった。

今まで心にくすぶっていた冷たい何かが、笑い声と共に吹っ飛んで行ったみたいだ。

なんだか心が軽い……。

俺はバカだ……大バカだ……。

1人で悩んで……1人で苦しんで……1人で先走って……。

いつから俺はこんな大バカになったんだ?

いつからこんな当たり前のことを忘れていたんだ?

いや……もういい。

バカになってしまったのなら……これから学べばいい。

忘れてしまったのなら……これから思い出せばいい。


「みんな……ありがとう……」


 俺には父さんが……俺のことを心から想ってくれる人たちがいる。

過去の傷が消えることは永遠にない……でも俺はみんなと前を見て歩く!

この先どうなるかはわからないけど……それでもいい!

俺はもう後ろを振り返らない!

1人で全てを背負ったりしない!


※※※


 それからみんなにたくさん祝われた……中には『相談くらいしろよ!』と嬉しい怒りをぶつけてくれた友人もいた。

本当……1人で悩んでいた自分が今になって恥ずかしくなる。

みんなに祝われる中、俺の心に”ある想い”が芽生えた。


『俺はもう1度……医者になりたい!』


 こんな俺が医者に戻る資格なんてないのかもしれない……でも俺は……やっぱり医者でいたい。

医者として……医者を待っている患者達の助けになりたい!!

俺を救ってくれたみんなのように……今度は俺が誰か救う人……いや、医者になりたい!!


パチパチパチ……。


 俺の言葉を……みんなはただ黙って応援してくれた。

俺は本当に……幸せ者だ。


-----------------------------------------


 それから俺は……もう1度、医療大学に入り……医学を1から学び直した。

学費は父さんが支払うと言ってくれたが……俺は借金という形で父さんから費用を借りた。

家族だからって甘える訳にはいかないしな。


 事件からそれなりの年月が過ぎているから、俺のことを知っている人はそれほどいなかった。

でも中には根強く記憶に残っている人もいる。


”お前のような犯罪者が医者を目指すな!”


 語らずとも、俺に否定的な気持ちを抱いている人間はちらほらいた。

ネット上でも俺を誹謗中傷するコメントは少なくなかった。


『ゴミが夢みてんじゃねぇ! 大人しく地獄へ行け!!』


『こんな犯罪者に診られる患者が可哀そうすぎる!』


『絶対レイプ目的でしょ? これ』


 世間からの風当たりを受けるたびに……過去の傷が胸をえぐろうとする。

何度もくじけそうになった……何度も諦めようかなと思った……。

でもそのたびに、俺はみんなに自分の正直な気持ちを打ち明けた。


『何も知らない人達の言葉なんか聞く必要ありませんよ! 』


『世間が何を言おうと、真人は真人の思うようにすればいい。

それでもごちゃごちゃ言う連中がいるなら俺達が相手になってやるよ!!』


 みんなの温かな言葉が俺に勇気をくれた……。

だから俺は頑張ることができた。


 そして俺は……再び医者としての人生を取り戻すことができた。


-----------------------------------------


 医者となった俺の行き先は……もちろん釘崎病院だ。

多少スタッフは入れ替わったが、相変わらず温かな人ばかりだ。

気が付けば俺も50代後半を過ぎようとしている。

時間が流れるのは本当に早いな……。

未だに独り身だが、特別不便なことはない。

友人達や病院スタッフ達と交流を深めるのは楽しいし……俺を必要としてくれる患者達もいる。

このままでも俺は十分幸せものだ。



 光輝とは年に数回のペースで会いに行っている。

短い間だったけど、俺達は親子だったんだから……多少は情というものが芽生える。

光輝はあれから栄子の両親の元ですくすくと育っている。

過去のことは光輝が大人になったら、栄子の両親から話すらしい。

これから光輝がどう生きていくかはわからないが……少なくとも父親のような人間にはなってほしくない。

かつての父親として……1人の人間として……光輝の人生が幸せに満ちることを祈るばかりだ。



 栄子はあれから光輝のために、身を粉にして働いているらしい。

稼いだお金をほとんど光輝の養育費にしているため、栄子本人はお世辞にも裕福とは言えないようだ。

栄子の両親に現在の彼女の写真を見せてもらったことがある。

写真の中の彼女はかつて俺の妻だった頃とは別人だった。

白髪だらけの頭にシミやシワだらけの顔……瞳の奥には生気が宿っていない。

服もボロボロで俺と同世代とは思えない……まるでおとぎ話に出てくる悪い老婆みたいだ。

自分への戒めか……単純に出会いの場がないのか、未だに俺と同じく未婚らしい。

俺自信は栄子本人と直接顔を合わせていないし、連絡も取っていない。

どれだけの月日が流れても、彼女を拒絶する自分の心が抑えきれないからだ。

今後彼女と言葉を交わすことは……多分一生ないだろう。



 西岡はあれからずっとあのベッドの上だと聞く。

天命か……神の赦しか……体を病魔が浸食し、かなり危ない状態らしい。

ベッドからの旅立ちもそう遠くはないだろう……。

あいつがどこへ逝くかは知らないが……琴美や優と同じ場所には行ってほしくない。

万が一生まれ変わるようなことがあったとしても、今度こそ真っ当に生きて欲しいものだ。


 長谷川は出所後まもなく、殺されたそうだ。

犯人はあの復讐の現場にいた共犯者の1人だ。

なんでも逮捕されたことで家族に逃げられ、その腹いせに長谷川を殺したとか……。

勝手な話だ……復讐を望んだのは自分なのに……全てを捨てる覚悟であの場に集まったはずのに……。

でもその点で言えば、長谷川も強くは言えないだろう。

あいつの人生が地に堕ちたのはあいつの自業自得なのに……その責任を西岡に背負わせようとしたんだから……。

類は友を呼ぶとはよくいったもんだ。


 香帆……彼女の死が正直一番驚いた。

香帆はあの事件からまもなく、彼女の母校で首を吊ったようだ。

遺書も何もないが、警察の発表では自殺の線が濃厚だという。

俺もそうだと思う。

あの復讐の現場で……西岡は栄子のことだけを見ていた。

香帆を想う気持ちがほんの少しでもあれば、香帆にも何かしら言葉を掛けたはずだ。

でも西岡が香帆に投げたのは”栄子を助けろ”という命令だけ。

その様子を見ただけの俺ですら理解できた……西岡は香帆のことなど微塵も愛していないと……。

いや……そんなことは離婚調停の場でわかったはずだ。

それでもなお、香帆が再び西岡とよりを戻した……俺には理解できない。

これが愛ゆえって奴なのかな?

愛などないと理解した上で西岡と一緒になったはず香帆……そんな彼女がどうして死を選んだのか……。

それは彼女にしかわからない。

十中八九、西岡がらみだろうけど……。


 そんな香帆は今、優の隣で眠っている。

火葬や墓の手配をしたのは俺だ……。

彼女には弔ってくれる家族や友人がいなかったからだ。

正直、ざまあみろと思う気持ちがあったことは否定できない。

でもさ……死んでもなお、1人ぼっちなんて悲しすぎるよ。

それに優だって……お母さんと一緒にいた方が嬉しいだろうし。

これは香帆の元夫としての情けであり……優を幸せにできなかったせめてもの償いだ。

まあ……単なる自己満足かもしれないけどな。


-----------------------------------------


 そして俺は今……釘崎病院の院長と言う肩書きを持っている。

俺は院長の椅子なんかに興味はなかったけど……病院スタッフのみんなが俺を院長として推薦してくれたから、その座に収まることにした。

とはいえ、偉そうに椅子で踏ん反り帰るつもりは毛頭ない。

肩書きがどうなろうと俺のやることは変わらない。


”医者として患者達を助ける”


 それが俺の……永遠の目標だ。


-----------------------------------------


「どうだった?」


「いえ、どこにもいません! あちこち探したんですが……」


 ある日……1人の女性が病院から姿を消した。

その女性はかなり素行が悪く……重い病を患って余命いくばくもない。

なんとかしてやりたい気持ちはあるが、俺にもこればかりはどうにもならない。


「全く……ひどい母親だ」


そんな彼女のお腹には、1つの命が宿っていた。

不特定多数の男性と関係を持っていたらしく、父親の判別は不可能だ。

本人に子供を育てる気は一切ないようで……自ら腹を殴って死産を望むくらいだ。

母体の環境も決して良いとは言えず……多少のリスクを覚悟で帝王切開という手段を取った。

幸い子供に後遺症などはなく……健康に生まれてきてくれたが、それから間もなく母親が姿を消してしまった。

手分けして探すが……痕跡すら見つけることができなかった。

仕方ないが……彼女のことは警察に任せるしかない。

だが医者として……それ以前に人間として、彼女に子育てができるとは到底思えない。

かと言って……独り身で家を留守にすることが多い俺が引き取るというのもあまり良い選択とは言えない。

そうなったらもう……この子の行き先は施設しかない。

申し訳ないが……親に恵まれなかった子供はこの子だけじゃないんだ。


「可哀そう……この子、名前すら付けてもらえなかったんですよ?」


 ベビーベッドで眠る子供の頬を看護婦が優しく撫でている。

名前とは命を得たという証明だ。

この子にはそれすらないのか……。


「院長先生……もしよかったら、この子の名前……院長先生が付けてくれませんか?」


「え? 俺が?」


「だって……子供を取り出したのは院長先生じゃないですよね?

だったら子供の名前を付ける権利はあると思います!」



「そっそうかな?……」


 確かに執刀したのは俺だが……だからって俺に子供の名前を付ける権利なんて……あるのか?


「このまま名前もなく施設に入るなんて……あんまりじゃないですか!

なんだか望まれて生まれた命じゃないみたいに……だからせめて……せめて名前くらいは……」


 このままでも名前なら施設のスタッフが決めてくれるだろう。

でも看護婦の言うことにも一理ある。

親にもなれない俺がこの子の名前を付けるなんて無責任なことかもしれない……だけどやっぱり、このままにはできない。

この子だって誰かに愛されるために……誰かを愛するために生まれてきたんだ。

決して意味もなく生まれてきたわけじゃない。

俺が名前を付けることでそれを証明できるかはわからないけど……できるものなら証明したい。


「……わかった」


 承諾したのはいいが、子供の一生を決めるかもしれない名前を適当に付ける訳にはいかない。

さて……なんて名前を付けよう……。


「……あっ」


 試行錯誤する俺の目に飛び込んできたのは……病院の中庭に生えている1本の大きな桜。

花見好きの父さんが入院患者達にも見えるようにと中庭で育てた桜だ。

院長の座を降りた後も、父さんが世話をしている、

今みたいに暗い夜であっても、周囲のライトが桜を照らしている。

夜に見る桜もまた幻想的で魅力的だ。


 そんな美しい桜を見ていると……無意識に俺の口が開いた。


「……や……こ……う……」


「え?」


「夜光(やこう)って言うのはどうだろう?」


 俺の口から漏れた名前……まるで桜が俺の口を借りて言葉を発したようだ……なんてね。


「あの桜みたいに、暗い夜の中でもみんなを優しく照らす光のような人になってほしい……と思ったんだけど……ダメかな?」


「ダメなんてことないですよ! とっても良い名前だと思います!」


 看護婦は気に入ってくれたようだ。

まあ子供が気に入ってくれるかはわからないけど……俺なりに考えた名前だ。

大切にしてほしい。


「夜光……」


 ベビーベッドで眠る夜光の寝顔はとても可愛らしい。

何時間でも見ていられる不思議な魅力だ。

優と光輝が生まれてきた時も、こんな風だったな。


「夜光……生まれてきてくれてありがとう……」


 俺は……夜光という命に感謝を捧げた。


-----------------------------------------


 後日……夜光は職員によって施設に移って行った。

これから夜光がどんな人生を歩んでいくのかはわからない。

もしかしたら西岡や俺のように、悲惨な運命が待っているかもしれない。

だけど……覚えていてほしい。


「夜光……お前は1人じゃないよ」


 それが夜光を見送った際に俺が送った言葉だ。

たとえ1人になっても、地に堕ちたとしても……必ず彼を想ってくれる人達は現れる。

俺だってこうして医者として頑張れているんだ……きっと君だって頑張れるはずだ。


「院長、そろそろ……」


「おっと、ごめん。 すぐ行くよ」


 さて、次の患者の元に行くとするか!

この命尽きるまで!!


【真人の話はここまでです。 次はとうとう最終話。正直、最終話を読んだら「えっ?」とか「はっ?」とか思われるかもしれませんがそもそも次が書きたくてここまで書いてきた訳ですのでご了承ください。】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る