第31話 長谷川 智樹②

 俺は全てを失った……。

金も……力も……そして、愛するメイさえ……。

かつては金持ち王子とみんなにもてはやされていた俺が、汚いボロアパートに住んでコンビニバイトでギリ食いつないでいる。

どうしてこうなった?

誰のせいでこうなったんだ?

俺か?……いや違う!俺は悪くない! 悪いのは豪だ!

あの野郎が托卵ゲームなんか提案しなかったら……ドジ踏んでバレたりしなかったら……。


「ふざけやがって……」


 豪の野郎……ブチ殺す!……いや、そんな生ぬるいことで許す気はない。

俺をこんな地獄に堕としたんだ……あいつにはそれ以上の地獄を味合わせてやる。


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 俺は托卵ゲームに関わった友人達をネットで集った。

あいつらも豪のせいで人生をめちゃくちゃにされ、奴に強い恨みを抱いていたようだ。

一言声を掛けただけですぐにみんな集まった。


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 人が集まったとはいえ、俺達は何の力も金もない烏合の衆だ。

復讐するには情報が必要になる。

俺達は各自で豪に関する情報を集めた。

豪は元婚約者にストーカーしたことで1度警察にパクられたらしく、その後はゲームの駒にしていた香帆に寄生しているみたいだ。

実にクズらしい惨めな生活だ。

生活の要となっている香帆だが、あの女は復讐の材料にはなりえない。

香帆のことは昔、豪から色々聞いたことがあるが、あの口ぶりから香帆は豪にとって都合の良い道具でしかない。

現に今も寄生されている訳だしな。

香帆がいなくなれば豪は経済面で苦しむだろうが、それだとつまらない。

やるなら心をえぐるような……死んだ方がマシなレベルの屈辱を与えてやりたい。


 その可能性が一番ある人物は、豪のかつての婚約者である栄子だ。

プライドが人一倍高いあの豪がストーカーまでするくらいだ……相当あの女に入れ込んでいるみたいだな。

俺にはあんな不細工の何が良いのかわからないがな……。

とはいえ、栄子が豪にとって最も心を苦しめる種となりえるというのは間違いない。

 

 だがあの女は今、豪がゲームの駒にした真人の嫁となっている。

2人が住んでいるマンションはセキュリティがすごく、素人がどうにかできるレベルじゃない。

その上、豪のストーカーの件で栄子自身も防衛に関して機敏になっているらしいから、簡単に拉致ることもできねぇ……。


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 復讐を決意してから数ヶ月の時間が過ぎた……。


「あれは……」


 俺は偶然、栄子が豪が寄生している香帆のアパートに入って行くのを目撃した。

まさかと思い、こっそりドア越しに聞き耳を立ててみると……栄子は豪と浮気してやがった。


「マジ?」


 それからも栄子は週に4日ほど豪の元を尋ね、その都度浮気を楽しんでいた。

俺は見よう見まねで浮気写真をカメラに収めた。

この写真を真人に突きつけてやれば、離婚は免れないだろう……その上、真人は2度の裏切りに会う。

あいつも俺達を地獄に追いやった悪魔だ。

あの野郎も地獄に堕ちるべきだ。


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 ある日……ネットカフェに泊まっている真人を見かけた。

どうしてそんなところにいるかは知らないが、コンタクトを取るチャンスではあるな。

証拠もだいぶ集まってきたし、そろそろ浮気をぶちまけるか。


「よぉ……」


「あんたは誰だ?」


「俺? 俺は長谷川智樹。 西岡豪と一緒に托卵ゲームを楽しんだ男って言えばいいか?」


「俺に何の用だ?」


「そう邪見にするなよ……お前に協力してほしいことがあるんだ」


 俺は栄子の浮気を暴露し、証拠と引き換えに栄子を引き渡すように取引を持ち掛けるつもりだった。


「それは知っている……ほんの少し前にだけど……」


 意外だったが、真人は浮気を知ってやがった。

取引ができなくなったが、俺の目は奴の目の奥にある黒いモヤを捕えた。

真人は豪と栄子を恨んでいる……復讐を望んでいる。

同じ復讐者である俺だからこそわかる。


「そうか……だったら話は早い。 俺と一緒に復讐しないか?」


 俺は賭けに出ることにした。

真人を俺の協力者に引きずり込めば、栄子を手に入れるための餌になれるかもしれない。

そうなったら俺の復讐はやりやすくなる。


「……わかった、協力する」


 俺は……賭けに勝った。

真人は俺達と同じところに堕ちたんだ。


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 翌日、俺達は行動を起こした。

俺は復讐の場として適当な倉庫を選び、そこに豪と栄子を連れてくる手筈を取った。

真人が病院でくすねた睡眠薬を使って豪を拉致し、栄子は真人自身が連れてきた。

拉致を担当している連中が香帆まで拉致してきたのは驚いたが……まあどうでもいい。


「よし、豪を吊るすぞ」


 俺は睡眠薬で眠っている豪をつるし上げ、そのくせぇ口に俺が愛用している媚薬を放り込んでやった。

経験のない童貞野郎でも、1錠飲めば飢えた野獣と化すくらいきつい。

俺なりのせめてものプレゼントだ……受け取ってくれや、親友。


「智樹?」


「久しぶりだな……豪」


 久々に会うかつての親友……今見ればブチ殺したほどイラつく顔だが、今は我慢だ。


「智樹テメェ……マジで俺に何をする気だよ!」


「何をって決まってんだろ? 復讐だよ」


 俺は豪にはっきりと復讐を告げた。

そう……いよいよ始まるんだ。

俺を地獄のどん底に堕としたこのゲスに天誅を下す時がな!!


「ルールは簡単……これから栄子に体で俺達を鬱憤を下げてもらう……お前のせいでこんなことになったんだから、それくらいいいよな?

まあガキを仕込むのはやめといてやる。

それで俺やみんなが満足すればお前の勝ち。

栄子がお前や真人を捨てて俺達の奴隷として生きると誓うか…お前が栄子を俺達に譲ると言えば、俺達の勝ちだ。

お前が勝てばお前も栄子も自由にしてやる……だが俺達が勝ったらお前は自由にしてやるが、栄子は俺達専用の奴隷としてもらうぜ?

あぁ……安心しろ。 ゲーム中はお前に危害を加えるようなことはしねぇって約束してやるよ」


「いや……お願いやめて……やめてぇぇぇ!!」


 待ちに待った復讐が今始まった……俺達は豪の目の前で、奴の愛する女を犯す。

こんなに気持ちが高ぶったことはないぜ!!

あまりの興奮に脳みそがショートしそうだ!!


※※※


 勢いよく栄子を犯し始めたのは良かったが、これがまたつらい。

栄子は顔もブスな上、スタイルもひどいなんてもんじゃねぇ。

この女を商品として査定すれば不良品……というよりもガラクタやゴミの領域だ。

これなら自分で処理した方が100倍マシなレベル。

ガチで豪はこの女の何に惹かれたのか理解できねぇ……。


「つーか、あの香帆って女……マジ良い女だよな?

俺もうあっちでヤるわ」


「おいずりぃぞ! 俺だけ貧乏くじ引かせる気か?」


 栄子に不満を抱いていたのはやっぱ俺ばかりじゃないみたいだな。

俺の協力者達も復讐とはいえ、ゴミを喰うのはつらいだろうな。

だからまあ……顔もスタイルも抜群な香帆に行くのは当たり前と言えば当たり前だな。

現に俺も香帆で慰めてるし……。

もう栄子は性を捨てるだけの掃きだめでしかなくなった。

性欲に塗れた男達に女とすら見られねぇとかウケる!!


※※※


「どっどうなってんだよ……」


 復讐の最中、豪の汚ねぇブツが活気付いてきた。

俺のプレゼントが気に入ったのか……それとも寝取られ趣味があるのか……少なくとも爆笑ものだ。

周囲の男達も腹を抱えて笑いこけている、実に愉快だ。

豪のブツはどんどん膨張していき……いよいよ臨界点にまで達する。

だが奴が性を吐き出すことはできねぇ……なんせブツに拘束具を付けているからな。

手で簡単に外せるものだが、豪の手は縛られているから自分ではどうにもできねぇ。

性を発散できないっていうのは、男女問わずつらい。

特に豪のような寝取りクズ野郎からすれば、死んだ方がマシなレベルかもしれない。

俺ですら想像するだけで身震いがする。


「た……頼む……これを外してくれ」


 当然耐えきれるはずもなく、豪は俺に助けを求めてきた。

体中からあふれ出る体液で汚らしくなった顔で懇願するその姿は、かつて自信にあふれていた豪とは別人のように惨めで情けないものだった。

俺は拘束具を外す代わりに、栄子を俺達に明け渡すことを提案する。


「あぁ!! 好きにしてくれていい!! だからこいつを外してくれぇぇぇ!!」


 アハハハ!! マジで言いやがった!! 

あれだけ入れ込んでいた栄子を自分の性欲のために売りやがった!!


「外してやったぜ?」


 優しい俺は手の拘束具を外してやった。

豪はすぐさまブツの拘束具を外す……すると。


「ありゃぼりゃべたとのりもともあただあぁぁぁ!」


 訳の分からないことを叫びながら、くっせぇ体液をぶちまけやがった。

その時の奴の顔はマジで傑作だった。

ここまで来たらもう芸術の域じゃね?

俺は自分のスマホでその一部始終を記念に撮ってやった。

まあ元々ネットにばらまいてやろうと、カメラは仕込んでいるがな。

無論、撮った動画はネットに即アップした。

みんなこの芸術に涙を流しているぜ……。

アハハハ!! ざまぁ!! 


「よかったな? 豪。 お前はこれからネットのみんなにおもちゃとして愛されてるぜ?」


「あっ……わぁぁぁぁ!!!」


 ところが余韻に浸かっていた俺に豪が殴り掛かってきやがった。

まあクズの拳が当たるようなマヌケじゃねぇがな。

だが、逆ギレしてこの俺様に歯向かうとかざけんな!!

俺は床に放置していた自分のズボンからナイフを取り出し、刃先を豪に向ける。

もう十分映像はとれたし、こいつを生かす理由もなくなった。

こんな人の心も持たない悪魔のようなクズ、殺したって誰も損しないだろ?


「ひぃ!!」


 ところが豪は怖気づいて逃げ出しやがった。

すぐさま後を追いかけようとするが……。


キキーン!!


 窓から外に逃げた豪は車にはねられ、血まみれで倒れちまった。

しかもパニった俺の協力者達がビビッて逃げて行きやがった。

腰抜け野郎どもが!!

だが、俺1人残った所でどうしようもできねぇ!

中途半端だが、俺はその場から逃げ出すことにした。


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 だが、逃げ出したのは全くの無意味に終わった。

後日、警察が俺を含めた全員を逮捕した。

自首した真人の証言と俺がネットに上げた動画が決めてになったみたいだ。

動画は俺の独断だ。

豪の痴態を全国に広めるために。

もちろん逮捕されるリスクを考えていなかった訳じゃない。

でも全てを失った俺にはもうどうでもいい……豪への復讐さえ達成されたら……。


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 それから数年の時が流れた……俺は主犯としてしばらくムショ暮らしを余儀なくされたが特に苦にならなかった。

その理由は2つ。

1つは豪の末路。

あいつはどうにか一命を取り留めたらしいが、後遺症を患ったことで一生ベッドから起き上がれない体になったらしい。

出所後にブチ殺そうと思っていたが、それじゃあ豪を救うことになる。

それに殺すよりも、こっちの方が遥かに苦しむはずだ。


 そしてもう1つ……実は俺が流した動画がバズリ、世界中の目が集まった。

最初こそ悲惨な犯罪現場として見られていたらしいが、後に豪と栄子の過去がネットに晒されたことで神が与えた処刑場と呼ばれるようになった。


 俺達の人生をめちゃくちゃにした豪の痴態と浮気嫁である栄子の哀れな末路……クズの不幸に飢えている世界にがこれに飛びつかない訳がない。

いろんな暇人共がこの動画をコント風に編集し、ネットで流すのがちょっとしたブームになった。

そのブームに乗っかった動画配信者達が、豪の入院している病院や栄子が務めている病院に突撃インタビューと称して面白半分に首を突っ込んでいったらしい。


 ネット……動画サイト……映画……豪の痴態はどんどんエンタメ業界に広がって行き、今じゃ小学生のガキすらコメディとして認識しているほど世間に浸透している。


 そこへさらに拍車が掛かり……動画を元にコメディ映画やドラマまで作られた。

豪をモデルにした男と栄子をモデルにした女が偽善者ぶった主人公にブチのめされるという王道でつまらなねぇ話だが、興行収入ランキングでも上位に食い込むほどの人気を博した。


 豪はもはやネットのおもちゃではなく、世界の道化へと進化していた。

ククク……良かったな、豪。

今のお前は世界の人気者だぜ?

せいぜいベッドの上で残りの人生を生きるんだな。


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 俺が何もしなくても、世界中の人間によって豪には耐え難い屈辱を与えられる。

だが俺の復讐はまだ終わっていない……俺の次のターゲットは真人だ。

奴も俺を地獄に堕とした悪魔の1人だ。

豪への復讐をスムーズに行うためにあの時は協力したが、今となっては憎い相手でしかない。

真人の心は2度の浮気によってすでにボロボロなはず……その上経歴には傷がつき、医者ですらない。

もうすでにあいつには何もない……出所した所で人生終わっている。

だがあんな野郎がのうのうと生きていると思うと癪に障る。

この世に悪魔が生きて良い場所なんてねぇんだよ!

ムショから出てきたら……即殺す。

ムショ生活にはそれなりに慣れたしな……今さら1人殺した所でどうってことはない。


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「ようやく出られたぜ……」


 臭いムショをようやく出ることができた俺は、生活費を稼ぐためのバイトを探すために町を歩いた。

真人をぶっ殺したらまたムショ生活に戻るだろうから、またいつでもやめられるコンビニバイトにでも……。


グサッ!


「え……」


 なっなんだ?

背中がすげぇ痛い……熱い……。

なんだ? なんか俺の体から垂れている……これって……血?

俺は膝を付き……ゆっくりと背後を振り返った。


「てっテメェは……」


 そこに立っていたのは、俺と共に豪への復讐を企てた協力者の1人だった。

そいつは血まみれの包丁を手に、俺を見下ろしてやがる。


「お前のせいだ……お前があんな動画を撮ったせいで……俺はまともに就活もできなくなったんだ!!」


 なっ何を言ってんだ? こいつ。


「お前の撮った動画に俺の顔が映っていたんだ! そのせいで周りからレイプ野郎って罵られた挙句、嫁にも逃げられた! しかも嫁はもう別の男と結婚しちまった……これなら復讐しない方がずっとよかった!」


 は?……知るかよそんなこと。

だいたいお前は自分で俺の復讐に加わったんだろうが!!

それでお前がどうなろうが、俺には関係ねぇよ!!


「ふっふざけんな……」


 腹に力が入らなくて声が出ねぇ……。


「お前が復讐なんてくだらないことを言い出したせいだ……」


 奴が包丁を振り上げやがった……。


「お前さえいなかったら……」


 やめろ……。

そんなの逆恨みだろうが!!


「俺の人生を返せぇぇぇ!!」


「やめろぉぉぉ!!」


 無慈悲に振り下ろされた包丁が俺の体を何度も突き刺した……これはもう助からないな。

……ちくしょう!!

なんで俺が死なないといけないんだ?

俺は俺の人生を奪った奴らに復讐しようとしただけだぜ?

やられたらやり返すのが人間だろ?

クズを地獄に送るのが人間だろ?

そんな全く非がない俺が、こんなふざけた逆恨みで命を奪われる?

笑えねぇよ!!

ありえねぇよ!!

マジで最悪……。


 はぁ……死ぬならせめて、メイのいる天国に行きてぇよ……。

メイ……。


【次はベッドの上で一生を終えることになった豪の様子を少し書きたいと思います】

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