第5話 佐山 琴美②
「ハァ……ハァ……ハァ……」
私はお風呂場で1人、湧きだす興奮を静めていた。
何度体をまさぐっても興奮は収まらず、発作が始まってからどれだけ時間が経ったのかわからない……。
ただただ……もう終わってと神に祈るばかり……。
「苦しそうだね~琴美ちゃん」
「!!!」
そう言って突然風呂場に入ってきたのは西岡豪だった。
生まれたままの姿で風呂場に入り、私をいやらしい目で見降ろしてくる。
「なっ!……なんでここに……出ていって……」
大声を出そうとしてけど、興奮しきって上手く声が出ない。
それでも無理やり絞り出そうとすると、西岡がいきなり私の体を嘗め回すように触ってきた。
「!!!」
その時、体中を電流が流れたような快楽に襲われた。
大声を上げて追い払おうとする気持ちが一変し、この快楽に身をゆだねたいという甘い誘惑に屈してしまった。
「はっ離しなさい……この変態! 警察を呼ぶわよ?」
「呼べば? その分楽しませてもらうからさ……」
必死に抵抗しようとするが、鍛え抜かれた西岡の腕からは逃れられない。
そうでなくても、西岡の手から伝わる快楽が私の思考回路を狂わせる。
さらに西岡は、私の首筋をアイスのように嘗め回す。
こんな気持ち悪いことをされても、私の体はそれを快楽として認識してしまう。
「やっやめろ……」
「うるさい口だなぁ……」
「!!!」
西岡は私の唇を、自らの唇で塞いだ。
それは私にとって生涯1度しかないファーストキスだった。
「ひっひどい……」
「何? そんなによかったの?」
私は悔しさと後悔から涙を流した。
真人のためにとっておいたものが、こんな男に風呂場で奪われた……こんなこと信じられる訳がない!!
「さて……そろそろ頂くとしますか…‥」
西岡はその場で立ちあがり、私に下腹部を見せつけてきた。
この後何をされるかは明白だった。
「いっいや!」
ファーストキスを奪われた上、初夜まで奪われるなんて絶対に嫌だ!!
私は最後の力を振り絞って風呂場からの逃走を試みた。
「ダーメ!」 ここまで来て逃げることはないだろ?」
「はっ離して!」
私を抱きしめるように西岡は私の体を拘束する。
その手を必死に払おうとするも、やはりそれは叶わない。
「いや!お願い! それだけはやめて!これ以上、私から何も奪わないで!」
「なんだよ。 俺を悪者みたいに言って……俺はただお前を気持ちよくしてやってるだけだろ?」
「お願いやめて! 許してぇぇぇ!!」
私の懇願もむなしく、西岡に純潔を汚されてしまった。
行為の最中、西岡が動画や写真を取っていた。
私を脅すための材料にするつもりだ。
※※※
「……」
すべてが終わり、西岡が満足そうな顔で帰って行った。
どうしてあいつがここにいたのか、私の体に何が起こったのか、それは私にもわからない。
ただ1つわかることは……私の純潔は全て失ってしまったということ……真人はこんな女でも愛してくれるのかな?
汚された私の体を抱いてくれるのかな?
もう私には何もわからない……。
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その後……私は気丈にふるまって両親と真人を見送った。
風呂場で体を何度も洗ったけど、あいつの体液が付着した感触が今もなお残っている。
髪の毛も少しベタついていて気持ち悪い。
「琴美、どうかしたの? なんだか元気がないみたいだけど……」
「えっ? ううん……なんでもない。 それより車を待たせてるんでしょ? 早く行って」
「う……うん。 じゃあお休み」
「お休み……」
真人の笑顔に少し心の傷が癒えたように感じた。
それと同時に、体を汚してしまった自分を心の底から恥じた。
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あの件から数日後……新作ドラマの打ち合わせをしていた私の携帯にショートメールが届いた。
”電話してくれない? この間の思い出話がしたいんだ。 できれば無視しないでほしいな。 西岡豪”
「西岡!」
メールを送ってきたのは西岡だった。
文面にはあいつの電話番号まで書かれている。
こんな奴に電話なんて御免だけど、もし無視したらあの時の画像や動画をネットにバラまく気でいるのは、文面から伝わって来る。
私は嫌々ながらも、西岡に電話を掛けた。
「もしもし……」
『やぁ琴美。 元気かい? この間は最高だったね~……あんなに魅力的な体を味わったのは久しぶりだよ。 さすが、有名女優!』
私を辱めておいて、まるで彼氏のように話しかけてくる西岡に心底吐き気がした。
「ふざけないで! そんなくだらないことを言いたかったの!?」
『いや、また琴美の体を味わいたくなってさ。 今度の休日にホテル行かない?』
「何を言ってるの!? 行くわけないでしょ!!」
『へぇ~……嫌なんだ。 じゃあこの前の動画や画像で我慢するか……でも俺だけ琴美の裸体を独占するのは琴美のファンに悪いな~……みんなにもこの幸せを分けようかな~』
「あ……あんた……」
回りくどく脅しをかけてくるその姿勢に、人間としての嫌悪感を感じる。
警察にこのことを相談すれば解決できるかもしれない。
でもそれは、この件が世間に露見するということ……女優としてのイメージはダウンするかもしれないけど、そんなことはどうでもいい。
私が不安に思っているのは真人のこと。
西岡の件を聞いた真人が私を受け入れてくれる自信が私にはない。
その理由は、真人の両親。
真人の両親は、彼が中学生の頃に離婚している。
離婚した理由は、真人のお母さんの浮気。
なんでも若い男にナンパされて遊び感覚で関係を持ったみたい。
それがトラウマになった真人は浮気や不倫に関して強い嫌悪感を抱くようになった。
無理やりとはいえ、私が西岡と関係を持ってしまったのは事実。
真人からすれば、浮気となんら変わりない衝撃を受けると思う。
そうなったら、彼はきっと私との婚約を解消する……私には真人のいない人生なんて考えられない!
女優としての立場も財産も失っても構わない!
でも真人を失うのは死ぬよりつらい!!
『……で? どうする?』
「……わかった。 相手をすれば良いんでしょ?」
私は西岡を受け入れることを選んだ。
あんな男に抱かれるなんて嫌だけど……真人との幸せを失うくらいなら、耐えることができる。
それでも西岡に抱かれるのは屈辱でしかない。
当日、ホテルで何時間も西岡の相手をさせられ、翌朝まで意識が飛んでいた。
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それ以降も、西岡は電話で何度も呼び出しては、何度も私をホテルで汚した。
真人を裏切ってしまった罪悪感と西岡への憎しみで心が張り裂けそうになった。
でも私の体は西岡が与える快楽を徐々に受け入れてしまっていた。
それがさらに私の心に痛みとしてフィードバックする。
そんな毎日を続けて行く内に、私の心の傷が表面に出るようになっていった。
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「なあ琴美、最近ちょっとやつれているように見えるけど、何かあったのか?」
「えっ? ううん、なんでもない。 ちょっと仕事で疲れているだけ。 少し休めば元気になるよ!」
「そっそうか? だったらいいけど、何か悩みがあるなら言ってくれよ? 相談に乗るから」
「うん、ありがとう……真人」
久しぶりの真人とのデートで、真人は私を気遣ってくれた。
その気持ちは嬉しかったけど、彼を欺いてしまっているこの罪悪感が胸を締め付ける。
それが原因で、彼と過ごす時間を心から楽しむことができない。
何度も彼に本当のことを話そうと考えたけど、そのたびに口が固く閉じてしまう。
それは真人だけでなく、私の異変に薄々気づき始めた両親や友人達、マネージャーや共演者までも私を気遣う言葉を掛けてくれた。
嬉しいはずの言葉が、いつしか心を痛めつけるトゲのように感じていってしまった自分がいた。
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「いやっ! ここでそんなこと……できるわけ……」
「大丈夫。 外っていっても軽くヤルだけだからさ」
「せっせめて場所を変えて!」
「いいじゃないか。 もうホテルでヤルのにも飽きてきたんだ。 そろそろ新しい刺激が欲しいじゃん?」
この日……西岡は私と真人が結婚式を行う教会の裏に呼び出し、その場で行為に及ぶと言い出した。
夜で人気はほとんどないから、見られる心配はあまりないかもしれないけど、神聖な教会でこんなことをするなんて、神への侮辱に他ならない。
何よりも、真人と愛を誓う場所で他の男と行為をするなんて、できるわけがない!!」
「嫌なら良いよ? お前のヌードが全世界に広まるだけだからさ……」
冷たい口調なのに笑顔でそういう西岡が、同じ人間なのか疑いたくなる。
ううん……常識ある人間なら、こんな非道なことができるわけがない。
「さあどうする? 俺はどっちでもいいぜ?」
「うっ……」
私は神聖なる神の場を汚してしまった。
こんなこと人間として絶対にやってはいけないとはわかっていたけど……度重なる屈辱で、私の心はもう限界だった。
……でもその結果、私は神から天罰を受けることになった。
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「うっ!……何これ?」
教会を汚した数週間後、私は体調不良に悩まされていた。
吐き気がひどく、めまいでふらつくこともたびたびあった。
「まさか!」
私はこの症状に心当たりがあった。
それは妊娠による初期症状。
でもそんなことはありえない!!……いや、あってはいけない!!
「まだ決めつけるのは早いわ……想像妊娠なんて言葉もあるんだから、希望はある」
私は神に祈りを捧げながら、こっそり購入した妊娠検査薬を使った。
「そ……そんな……」
その結果は……陽性。
私のお腹には新しい命が宿っていた。
真人とは行為そのものをしたことがないから可能性はゼロ……あるのは、何度も私を汚した西岡だけ。
でも行為の際は必ず避妊をしていたから、妊娠なんてありえない……でも、それ以外、この結果の原因は考えられない。
精密な検査をするまでもなく、私のお腹にいるのは西岡の子だ……。
心が認めたくないと思っても、頭が冷静にそう理解してしまう。
「いや……いやぁぁぁぁぁぁ!!」
私は取り返しのつかないところまで来てしまっていた……。
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