第19話  使命コンプリート

今月もミッションをコンプリートした

しかしそのあとに後悔の想いが

怒涛のように押し寄せるのは

毎回のことだった



濃い緑茶を入れ

投句した句につかった

語句の一つ一つをまた

見直す



ミッションをこなす間は

全体を作るのに精いっぱいで

一つ一つの語句について吟味

などという余裕はシャーペンの芯

の太さほどもない (0.3mmから0.5mmほど)




今回のミッションは「鳥雲に入る」

という何とも大自然の中において

ダイナミックに季節の変わり目を

象徴する風景を表す季語であった



かもめさんまだ川にゐる鳥雲に入る

          こひのむ


*かもめは冬の季語である、春になってもまだいることも

あります、ということで季語の自然の重なりで表現





日本で春まで過ごした鳥たちがまた

群れをつくり故郷の北を目指して帰る

その姿が雲の間に入ってゆくといった場面



鳥の群れが北を目指す



実際の風景を見てみたいけれど

近所にいる水鳥のゆりかもめさんはまだ

川岸で過ごしているようだった



群れが移動する映像をみた

青空の見えるビルの間を鳥の群れが

飛ぶさまを撮影したものがあった



「アレは何?」ビルの谷間に鳥雲に入る

                こひのむ


これが最初に頭に浮かんだ句だった



目に見えた映像を言葉に間髪いれず写したもの

だけれどそこには見えない罠があることが多い



それは「るいそう」という罠である

人間というものはすべて深層意識という部分では

人類みな兄弟のような状態なのではないかという「説」

もあったりなかったりするそうで



確かにそれは目に見えない部分で繋がっていて

大勢の人が無意識的に共有しやすいイメージというものが

言葉となってでてくること



同じような発想で作られた俳句を「類そう句」

という


この鳥の群れをなんと言い表そうか!


V字はどうだろうか


V字しかしこの段階でもまだ一段階


俳句という文芸にふさわしい「詩」が感じられるかと

いわれれば首を横に振るしかなかった



元気回復するようなイメージが「V字」で

北に向かって長距離を飛ぶ鳥たちへのエールには

ならないだろうか




マグカップにたっぶりとあった緑茶はいつのまにか

なくなっていた



シャー芯の折れて粉々鳥雲に入る

              こひのむ

           




真知子の歌人への道のりはまだはじまったばかりだった



          




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