壊れたオルゴール

月井 忠

第1話

「今あそこで光ったよ」

 ボクには何も見えない。


「どこだい?」

「ほら、あそこ」


 キミの示す座標を望遠レンズで見る。

 やっぱり見えない。


「キミは目が良いね」

「それだけだよ」


「行ってみるかい」

「お願いするよ」


 ボクたちは荒れた大地をゆく。


 キミの代わりに、ボクは落ちていたソレを手にする。


「コレはなんだろう」

 キミにソレを見せる。


「コレはオルゴールというものだよ」

「キミは物知りだなあ」


「横にハンドルがついているだろう? ソレを回してくれないか」


 ボクはうなづいて、キミの言う通りにする。

 ボクは手先が器用なんだ。


 ハンドルを持ってくるくる回す。


「これ以上回らないよ?」

「手を離してみて」


 中にある筒がゆっくり回る。


「ドラムは回っているかい」

「ドラム? この筒のようなものだね? 回っているよ」


「音はしているかい」

「いいや」


「そうか。壊れているんだね」

「どうしてわかるの」


「オルゴールというものは音楽を奏でるものなのさ」

「キミは物知りだなあ」


「それだけだよ」


 ボクはオルゴールの仕組みをキミに聞いた。

 やっぱりキミは物知りだなあ。


「そういえば、右足の調子が悪いと言っていただろう」

「うん」

 ボクは右足を隠す。


「これを使えないかな? ゼンマイだけど動力だよ」

「そうだね。後で試してみるよ」


 ボクの右足は動かなくなって何年も経っている。

 キミは優しいから、いつも気にしてくれる。


 ボクは夜のうちに部品を集めてオルゴールを直した。

 鉄板を櫛のように切って、ドラムにあたるようにする。


「ほら、コレ見て」

 次の朝、キミにオルゴールを見せる。


「コレはオルゴールだね。どこで見つけたんだい?」

「昨日、拾ったのさ」


 ボクはハンドルを回して離す。

 オルゴールから音が聞こえてくる。


「綺麗な音だね」

 キミは言った。


 ボクには、よくわからない。

 このオルゴールが正しく直っているのかもわからない。


「喜んでくれて嬉しいよ」

 オルゴールみたいに、キミのことを直せたらいいのにな。


 キミは新しい記憶を保存できない。

 元々保存していたデータを消せないからとキミは言った。


 キミには手も足もない。

 ボクがこうして台車に乗せて運ぶしかない。


 この星に人間はいない。

 ボクたち二人しかいない。


 旅には音楽が必要だって昔、キミが言っていた。

 だから、このオルゴールがボクたちには必要だ。

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