第四話 学食で二外のクラスメイトと遭遇したんだが

 自分の分とへレザの分の会計を済ませ、俺たちは空いている席を探す。ちょうど並んで二席の空白があって、俺とへレザはそれぞれ腰掛けた。


「かっ、要じゃない!」


 聞き覚えのある声がして、顔を上げる。


 目の前に、知り合いがいた。鈴鹿朝妃すずかあさひ――赤茶色に染まった長髪を金色の髪飾りでポニーテールにした、つり目がちの美人。服の上からでもわかるくらいに豊満な胸が、正直目に毒だ。彼女はどこか不機嫌そうに、俺のことを見つめていた。


「朝妃か。偶然だな」

「そ、そうね」

「んー、カナメさんのご友人ですか?」


 既にばくばくと昼食を食べているへレザが、口元にタルタルソースを付けながら、首を傾げた。


「そうだよ。第二外国語のクラスが一緒の、鈴鹿朝妃」

「そうなんですね〜! わたくしはへレザ=ティールアノンです。へレザとお呼びください、アサヒさん!」


 ぺこっと頭を下げたへレザに、朝妃は呆然とした顔をしながら、


「う、嘘でしょ……!? 割とぼっちで大学には私以外に友達がいないはずの要が、可愛い女の子と二人でご飯……!? どっ、どうしよう! もしかして、ライバル登場ってことなの!?」


 とぶつぶつ言っている。ちょいちょい聞き取れなかったが、なんか様子がおかしい気がした。


「あ、朝妃? 大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ! ええと、貴女、へレザって言うのね。よろしくお願いするわ」

「はーい、よろしくお願いします、アサヒさん!」


 二人は笑顔で握手し合う。へレザが「ちょ、ちょっとアサヒさん、握る力が強いような、いたたたたた」と口にしている。……大丈夫か?


「と、ところで、要とへレザはどういう関係なの? もしかして親子?」

「どっちが親でどっちが子なんだよ」

「あはは、違いますよ〜! 実はわたくしは異世界ストルむぐっ」


 正直に話し始めようとするへレザの口を咄嗟に右手で塞ぎながら、俺は微笑んだ。


「実はへレザは、俺のなんだ! 北欧の方からこっちに遊びに来ている。まだまだ日本に不慣れなところが多いから、色々教えてやってくれよな!」


 親指を立てた俺に、朝妃は「はとこ。そっか、親戚だったのね……」と安堵したような微笑みを浮かべる。


「というか、それにしても。要の服装って、相変わらずダサいわよね!」

「ええ!? いや、パーカーにジーンズは確かにラフだけど!」

「いいえ、ダサいわ。その、今度……私が服選びに付き合ってあげるわよ」


「うーん、まあそれはありがたいっちゃありがたいが……」

「ふん、感謝しなさいよね。か、勘違いしないでよ! 別に貴方と買い物に行きたいとかじゃなくて、貴方の服装が余りにも残念だから、選んであげるだけなんだから!」

「あはは、助かるよ。いつもありがとな、朝妃」


 笑いながらお礼を言った俺に、朝妃は顔を真っ赤に染めると、「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってくるわ!」と言って、席を立つ。


 隣でもぐもぐとご飯を食べていたへレザが、すっと俺の方を見た。


「……あの、カナメさん」

「どうした?」

「わたくし、結構人間関係の機微に聡いんですけれど、もしかするとアサヒさんは……」

「ああ、やっぱりへレザもそう思うか?」


 へレザはこくりと頷いて、人差し指を立てる。



「めちゃめちゃ、カナメさんのこと嫌いみたいですね……」

「いやそうなんだよ、あいつ俺のこと嫌いみたいなんだよな……」



 俺たちは肩を落とす。


 戻ってきた朝妃が、「ど、どうしたのよ二人とも、なんか落ち込んでるみたいだけど!」と言っているのを聞きながら、俺とへレザは溜め息をついた。

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