日記
むきむきあかちゃん
泥酔した男
今日私は、泥酔した男を見た。
その男はビール缶が数本入ったビニール袋を右手に提げて、ヒヨコのようによちよちと踵を上げて走っている。
進行のあらましもまるで鹿の子供のようで、5秒に1度は左右によたよたと傾いている。
服装はというと、薄いパーカー1枚にスリムジーンズで、見ているこちらが寒くなってしまう。
それでも速度は一般的なものより速いようで、すでに彼の前の歩行者に常にぶつかろうとしていた。
前の歩行者は2人の女性で、のんびりと道を歩いている。
男が2人にぶつかった。
男は何か、汚い言葉を罵った。
だが、2人は何も言わない。平然と前への進行を進めている。
男も、抜かそうとしたり殴ったりはせずに、子鹿式進行を続行している。
そうやって、2、3回ほど彼らの肩での接触が済んだ頃だった。
3人の融合が始まった。
3人は肩から溶けてゆき混ざり合い始め、混ざった部分は茶色い固形物へと凝固する。
それでも足は、それぞれ同じ歩調を保って進行をやめない。
足先までしっかり溶けきり凝固した3人だった物質は、見事な木へと姿を変えた。
道のど真ん中に堂々と立つ、プラタナスの木。
ついには誰かの指だったところから枝が生え、葉が生えてきた。
私はその木に近づき、指を近づけた。
木は心なしか、ヒトの息づかいを感じる。木の皮を剥げば、血がでてきそうだ。
だが、私の爪が木の枝に触れた途端のことだった。
私の爪までも、茶色に溶けて木への融合を始めたのだ。
私は変な声をあげながら指を木から離した。
溶けた爪はシュウシュウ音を立てながら木と融合し、芽を出し始めた。
私はそれを最後まで見届けることなく、必死な足取りで家路についた。
次の朝、もう一度あの道を通ってみたのだが、その頃もう木は撤去されていた。
そこには深い穴があき、数本の細い根が辺りに散らばっていた。
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