壊れたオルゴール

星光かける

付喪神(つくもがみ)


    カランカラン


 お客が来た合図のベルが店の中に響き渡る。


「いらっしゃい。どうされましたか?」


 お客は40代くらいの疲れた顔をした男性。


「どうもオルゴールの音の調子が悪いみたいで。治りますか?」

「ひとまず見てみましょう」


 男性はカウンターの上に金色の古いオルゴールを置いた。そのオルゴールは古いながらも丁寧に手入れをされており、大切にされてきたことが一目でわかる。


「ふむ、大丈夫です、すぐ治りますよ。10分程かかりますが、どうされますか?」

「そのくらいなら待っておこうかな」

「かしこまりました」


 店主はそういうと、すぐに修理に取り掛かった。


「このオルゴールとはどこで出会ったんですか?」

「昔出張に行った時にフラッと寄った店で買いまして」


 店主は話をしながらも修理を進めていく


「毎日のように聞かれてたんですね。この子が言っています」

「えぇ、寝る前に聞いて仕事の疲れを取るんです」

「なるほど。お仕事で何かお悩みでもありました?」

「なぜわかるんですか?」


 男性は心底驚いたという顔をして聞き返す。


「それもこの子が。オルゴールはいろいろなことを音で語りますから」


 店主はオルゴールの音を少しずつ鳴らしながら言う


「オルゴールには一つ一つに精霊のような者が憑いているんですよ」

「はは、素敵なご冗談ですね」

「どうでしょう。さて、治りましたよ」


 男性はその話を冗談と受け取ったようだ。店主は治ったオルゴールのゼンマイを巻いて音を奏させる。


「綺麗な声のオルゴールですね」

「えぇ、自慢のオルゴールです」


 男性は代金を払って、満足した表情を浮かべながらオルゴールとともに店から去って行った。店主は笑顔で男性とオルゴールを見送る。


 ありがとう、と微かに聞こえた気がした。




 次のお客はどんなオルゴールを持ってくるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

壊れたオルゴール 星光かける @kakeru_0512

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ