第七章 強制捜査

 それから数時間が経過し、場所は再び榊原の事務所に移る。時刻は間もなく十七時を迎えようかというところであった。

 二人はすでに約束の時間に間に合うように事務所に戻っていた。榊原はデスクに座り、瑞穂はその近くでちらちら時計を見ながら緊張した表情をしている。

「そろそろ時間ですね」

「果たして、鬼が出るか蛇が出るか……」

 やがて、事務所の時計が十七時を告げる。その瞬間、事務所のドアがノックされた。

「不気味なほどに時間ぴったりですね」

「ある程度私たちの事も見張っていたんだろう。どうぞ」

 榊原が呼び掛けると、ゆっくりとドアが開き、スーツ姿の一人の初老の男が中に入ってきた。

「どうも、榊原さん。時間通りですな」

 男は実直に頭を下げる。一方、榊原は意外そうな表情をしていた。

「誰が来るかと思ったら、草原さん、あなたですか」

「先生、知り合いですか?」

「私が警視庁にいたときに刑事部捜査二課にいた男だ。階級は警部で、私から見ると先輩筋に当たる。組対に異動していたとは知らなかったが」

「捜査二課って、確か経済犯とか知能犯罪の担当ですよね。殺人担当の先生と繋がりがある事自体がびっくりですけど」

「まぁ、色々あったんだ」

 と、榊原と瑞穂の会話を遮るように、草原が大きく咳払いした。

「すみませんが、時間もあまりないものでしてな。本題に入っても?」

「あぁ、すみませんね」

「そちらの子は……」

「一応、ここの人間です。外せというなら出て行ってもいますが」

「いえ、結構です。榊原さんがいいというなら問題ないでしょう」

 そう言うと、草原はデスクの前に立った。

「さて、今回は協定を結んでもらって感謝しています。現在我々が調べている事については当然知っていますね?」

「シャルル・アベール商会に関する世界的な麻薬密売疑惑。現在世界規模の共同捜査が行われていて、日本の捜査本部は同商会の日本支社と、パリ本社との連絡役と思われているミシェル・ロランの捜査を担当しており、そのため彼が拠点としているあのマンションの自室が捜査対象となっている、でしたね」

「その通りです」

「単刀直入に聞きます。私は国民中央新聞社政治部の尾崎記者から全世界一斉強制捜査の実施が検討されている旨の噂を聞いています。それは具体的にいつ行われるのでしょうか?」

「……なるほど、情報ソースはあの『マムシ』の尾崎ですか」

 草原は皮肉めいた笑みを浮かべた。どうやら、尾崎にはそんな物騒な異名が付けられているらしい。らしいと言えばらしい異名なので、瑞穂は納得したように深く頷いていた。

「いいでしょう。それを提示する事が協定の条件だそうですからな。それに、もとよりそのつもりで今ここにいるわけですから」

「という事は、やはり……」

 榊原はある程度予想がついていた様子だった。対して、草原も大きく頷く。

「はい。全世界一斉捜査は中核となるパリ本社へのパリ警視庁強制捜査に合わせて実施されます。時刻はパリ現地時間で本日正午。日本時刻では今から三時間後……二十時ジャストを予定しています。ここへは、その打ち合わせも兼ねてきています」

 瑞穂にしてみれば予想外に早い実施だった。

「捜査対象は?」

「渋谷にあるシャルル・アベール日本支社及びその関係者の自宅。榊原さんが興味を持っているであろうミシェルの自宅もその中に入っています。それと、彼らが麻薬を横流ししていたと思われている新興暴力団の事務所数ヶ所、及び実際に麻薬取引が行われていると思しき取引場所もです。うまくいけば、顧客リストが手に入るかもしれませんので、そこから麻薬常習者の摘発に持っていけるかもしれません」

「予想以上の大規模摘発になりそうですね」

「えぇ。組対の連中も張り切っています。もしかしたら、現在内偵中のいくつかの麻薬売買ルートを潰せるかもしれないと」

「例えば、女優・野安アリスを中心とする芸能界の麻薬汚染について、ですか」

 明らかに狙って言った榊原の言葉に、草原も一瞬驚いた表情をしたが、すぐに小さな笑みを浮かべた。

「やりますね……やはりニュースソースは『マムシ』ですか?」

「ご想像にお任せします」

「……確かに、芸能界の麻薬汚染に関して、我々は野安アリスの関与を疑っています。ですが、その野安がどこから麻薬を仕入れているのかが不明瞭です。この摘発でそれを解明できないかと考えているのですがね」

 どうやら、組対も夕凪哀の件まではたどり着けていないようである。とはいえ、現段階ではこれは証拠のない話である。榊原もあえて言うような事はしなかった。

「さて、そう言うわけですが、榊原さんはどうしますか?」

「……その言い方だと、その強制捜査に参加させてもらえるような口ぶりですね」

 草原は肩をすくめた。

「あくまで特例です。こうでもしないとあなたはあのマンションの捜査を進めたでしょうから」

「それなら、ミシェルの部屋の捜査に同行したいですね。強制捜査そのものに参加させてもらう必要はありませんが、一段落すんだら部屋の中を少し調べさせてもらいたいです」

「理由を聞きましょうか?」

「……草原さんはミシェルの上の部屋の住人についてはご存知ですか?」

 唐突な問いに対しても、草原は落ち着いて答えた。

「石渡美津子。失踪中の奥村議員の秘書でしょう。あの汚職は地検特捜部の管轄だが……それが何か?」

「私の予想が正しければ、石渡美津子が麻薬密売に関与している疑いがあります」

 その言葉に、さすがの草原も驚いたような表情をした。

「何ですって?」

「あくまで現段階では疑惑にすぎません。その疑惑を確実なものにするには、あの部屋の捜索が必要なんです。詳しくは後ほど話しますが、やり方次第ではとんでもない大物が釣れるかもしれません。それ如何によっては、私の捜査も進展する可能性もある。そんな理由で駄目でしょうか」

「……いいでしょう。やはり、榊原さんを引き入れたのは間違いではなかったようです」

 そう言うと、草原はドアの方へ体を向けた。

「あとは現地で打ち合わせするとしましょう。近くにライトバンを待たせてあります」

「準備は万端、という事ですか」

 榊原も立ち上がった。と、その視線が瑞穂に向く。

「瑞穂ちゃん、すまないが……」

「はいはい。さすがに私がそこに行くわけにはいきませんよね。それに、午後九時じゃいくらなんでも門限ですし。結果は明日聞かせてもらいます」

「悪いね。ついでに、事務所の後片付けをしておいてくれると助かる」

「はーい。じゃ、気を付けて行ってください」

 瑞穂が苦笑しながら手を振る。それを背景に、榊原と草原は厳しい表情で事務所を後にしたのだった。


 同日夜二十時前。世田谷のあのマンションの近くに、一台のライトバンが静かに停車していた。だが、その中には何人もの男たちが静かに息を押し殺している。その視線は、ジッと問題のマンションに向けられていた。

 マンション周辺に人影はない。住人のほとんどはすでに帰宅しているようだ。それでも入口にはいつものように警備員が詰めていて、警備は万全である。いつもと変わらない静かな夜だった。

 だが、その静寂も今まさに破られようとしていた。

「……時間です」

 ライトバンの車内にいた男の一人がそう告げると、全員の表情に緊張が走る。

「よし、これより強制捜査を始める、行くぞ!」

 その言葉が発せられた瞬間、何人もの男たちが一斉に車を飛び出してマンションの警備員室に向かって行った。驚いたのは警備員の方である。さすがに今日の担当は榊原が今まで話を聞いていたあの警備員とは別人だったが、それだけに彼はパニック状態だった。

「あ、あなたたちは何なんですか!」

 そう言って抵抗しようとする警備員の目の前に、先頭に立っていた草原が令状を突き付ける。

「警視庁組織犯罪対策部だ。五一二号室、ミシェル・ロラン宅に対する家宅捜索令状が出ている。ここを通してもらうぞ」

 警備員は呆然とした表情でその令状を眺めている。

「み、ミシェルさんは今留守ですが……」

「わかっている。だから、あなたに部屋の鍵を開けてもらいたい」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 警備員はそう言うと受話器を取ってどこかに電話し始めた。どうやら、本社に確認を取っているらしい。と、タイミングよく草原の携帯電話が鳴った。相手は別の場所の強制捜査に入っている草原の部下である。

「俺だ」

『シャルル・アベール日本支社への強制捜査に入りました。こちらは順調です。それと、中杉組、大町組、鳩間組の事務所の強制捜査も開始されたそうです』

 すべてがシャルル・アベール商会と繋がっている可能性があるとして草原たちが監視していた新興暴力団だった。

「こちらも間もなく捜査に入る」

『了解』

 と、そこでようやく警備員の電話が終わったようだった。

「上司の許可が出ました。ご案内します。おい、ここ頼むぞ」

 もう一人の警備員にそう呼びかけると、その警備員はマスターキーを手にエレベーターへ向かった。草原たちも後に続く。そのまま五階に上がると、一行は廊下の一番奥の部屋……五一二号室へ向かった。深夜の騒ぎに、マンションの住人たちが驚いて顔を出すが、草原たちは気に留める様子もなく歩みを進める。やがて、一行は部屋の前に到着した。

「では、開けますが……もう一度令状の確認を」

 警備員の要請に、草原は再度令状を見せる。それを確認した上で、警備員は部屋の鍵を開けた。それと同時に、捜査員たちが一斉に部屋の中に踏み込んでいく。

「いいか、部屋の隅々まで調べつくすぞ!」

 草原の声に、捜査員たちが部屋の隅々まで調べていく。構造そのものは他の部屋と同一であるが、定期的にしかいないためか家具そのものが圧倒的に少ない。だが、そこはプロの捜査員である。しばらく部屋の捜索をしていると、一人の捜査員が声を上げた。

「ありました!」

 キッチンの冷蔵庫。そのパーシャルスペースにいくつか冷凍食品の袋があった。一見すると何でもない袋だが、捜査員たちはその袋を遠慮なく破いていく。案の定、その中からいくつもに袋分けされた白い粉らしきものが見つかった。早速簡易式の検査キットで粉を調べると、薬物の陽性反応が出る。

「ビンゴだ」

 草原がホッとしたように呟いた。と、その時別の捜査員が草原を呼んだ。

「警部、これを見てください」

 そこはベランダに通じるサッシだった。草原がそちらへ向かうと、その窓ガラスのちょうど鍵の辺りのガラスが小さく割られていた。ちょうど手が入るくらいの大きさである。

「こっちも当たりか……榊原さんの言った通りだ」

 そう呟くと、草原は携帯を取り出してどこかへかけた。相手は、ライトバンで待機している榊原である。

「草原です。榊原さんの言うように、ベランダのガラスに割った形跡がありました。誰かがここから出入りしていたのは間違いないようですね」

『ベランダの様子はどうですか?』

「待ってください」

 草原はざっとベランダを見回した。

「……ベランダの手すりに靴跡のようなものがありますね。上からロープなりでここへ降りてきたって事でしょうな。となると、真上が怪しいか」

 草原はそう呟くと、真上の部屋……石渡美津子の自室である六一二号室を見上げる。

「どうやら、榊原さんの予想が大当たりのようですね。この部屋に侵入する動機なんか、一つしか考えられませんから」

『上の階の令状、下りますか?』

「状況証拠は充分です。ただし、上の住人があの石渡美津子だとすると、地検の特捜本部との兼ね合いが必要になってきます。奥村議員の汚職と石渡美津子の失踪は、特捜の管轄ですから」

『そちらのシャルル・アベール社の特別捜査本部にも、特捜が関与していると聞いていますが』

 その言葉で、草原は榊原の思惑を正確にくみ取っていた。

「なるほど、麻薬密売の容疑で六一二号室の令状を取って、ついでに汚職疑惑も調べてしまえという事ですか。特捜にとっては渡りに船という事ですね。いいでしょう、早速特捜にこの事を知らせます。向こうも令状を取りあぐねていたはずですから、喜んでやってくるでしょう」

『よろしくお願いします』

「一段落ついたらお呼びしますよ」

 電話を切ると、草原は続けざまに東京地検特捜部へと電話をかけ、一度マンションの玄関に出た。

 事態はいつの間にかマスコミに知られる事になっていたようで、すでにマンションの表にはマスコミが何人か集まりつつあった。もっとも、その先頭には当然のように尾崎と土田の姿もあった。榊原はもちろん知らせていないので、独自の情報網で一番乗りを果たしたのだろう。

 そんな中、しばらくして一台の高級車がそれらのマスコミをかき分けるようにマンションの前に到着した。中から飛び出したのは少し太った感じの初老の男……疑惑の渦中にいる衆議院議員・奥村義三だった。

「やぁ、奥村さん」

 入口で待ち受けていた草原が気さくな様子で話しかける。一方、奥村は血相を変えた表情で草原に怒鳴りつけた。

「君! 石渡君の自室に強制捜査に入るというのは本当かね!」

「情報が早いですね。まだ令状は届いていないのに」

 草原はのらりくらりとかわそうとする。

「ふざけるな! 何の理由があってそんな事をするんだ! 汚職に関する何か決定的な証拠でも出たというのかね?」

「いえいえ、とんでもない。我々は我々の捜査をしているだけです」

「これは警察の横暴だ! 証拠もないのに家宅捜索をするなど、言語道断! この件は厳重に抗議させてもらうぞ」

 怒り心頭の奥村に対し、しかし草原は動じなかった。

「あー、奥村さん。何やら勘違いされているようですね。私たちは別に汚職の捜査をしているわけではありませんよ」

「何だと?」

「実は、今日は麻薬密売に関する強制捜査をしていたのですが、その過程でどうもお宅の石渡美津子さんがこの麻薬密売の片棒を担いでいた疑いが浮上したのです。なので、今回の家宅捜索は、汚職ではなく麻薬密売に関する強制捜査です」

 思わぬ話に、奥村は一瞬呆気にとられた表情をした。その表情を観察しながら、草原は言葉を続ける。

「こちらには明白な証拠があります。麻薬の売人と思しき人物の自宅に彼女が侵入した痕跡があり、なおかつその室内から発見された麻薬の袋からは、部屋の住人以外の指紋も検出されました。現在鑑定中ですが、十中八九石渡さんのものと思われます」

「そ、そんな馬鹿な! 彼女がまさか……」

 奥村の驚きは尋常ではなかった。どうやら、奥村は本当に麻薬に関しては何も知らないらしい。もしかしたら政界をも巻き込んだ麻薬スキャンダルに発展するかもしれないと考えていたのだが、この様子では石渡美津子個人の犯行という事になるだろう。

「まぁ、そういうわけでして、今回の捜査は麻薬密売に関するものです。もっとも、その捜査過程で何か別のものが出てきたら、それはしかるべき部署に引き渡される事になるでしょう。例えば、東京地検特捜部とか」

 奥村が口をパクパクさせていると、ようやく令状を持った地検の検察官が到着した。

「どうも、お知らせして頂いて」

「いえ。それでは、これから六一二号室、石渡美津子の自室の家宅捜索を行います。文句はありませんね、奥村議員」

 奥村はもう答える事もしなかった。それを尻目に、草原たちは、今度は六階に向かう。再び警備員に鍵を開けてもらって、草原たちは六一二号室に突入した。

「確かこの部屋、石渡美津子の失踪直後も一応地元警察が調べているんですよね」

「とはいえ、あくまで失踪扱いだったから、調度品などをそこまで詳しく突っ込んで調べたわけじゃないはずだ。だが今回は令状があるから、遠慮なく隅々まで調べてくれ」

 草原の言葉に、捜査員たちは勢い込んで部屋を調べていく。結果は予想以上に早く出た。

「ありました!」

 寝室のタンスの奥。そこに大量のファイルが隠されていたのである。ベテランの捜査員たちには、それが汚職の証拠であると一目見てわかった。

「表の奥村さんに任意同行を。こうなった以上、向こうもこうなる事はある程度覚悟しているだろう」

 同行した検察官の言葉に、捜査員の何人かが飛び出していく。一方、草原の目的はまた別にあった。

「薬は見つかったか?」

「待ってください……ありました!」

 それは、五一二号室同様に冷蔵庫の中にあった。明らかに不自然な量の冷凍食品の山。その中に、袋詰めされた白い粉が入っている。

「決定的だな。おい、石渡美津子の逮捕令状取れ! 必要なら指名手配してもいい!」

「了解!」

 捜査員の一人が再度部屋から飛び出していく。この騒ぎに、今やマンション全体が喧騒に包まれつつあった。そんな中、草原は電話をかける。相手は、シャルル・アベール日本支社への捜査を行っている先程の部下である。

「どうだ?」

『捜索は大成功です。かなりの証拠が収集できました。この分なら立件まで持っていけそうです。支社にいた幹部社員の身柄も全員確保しました。それと、パリ警視庁からからパリ本社の上層部が根こそぎ逮捕されたとの知らせが。各国の支社でも同様の戦果が上がっているようです』

「ミシェルはどうした?」

『こちらもパリ本社ビルにいたところをパリ警視庁に逮捕されたそうです。必要に応じて、日本の捜査員による取り調べも受け入れると先方は言ってきています』

「わかった。その点に関しては今後上とも協議する。引き続き頼むぞ」

 そう言うと、草原はいったん電話を切って、今度は別のところに電話を掛け直した。

「榊原さんですか。そろそろ来てもらっても結構です。入口で待っています」

『わかりました』

 強制捜査開始から数時間、いよいよ真打が重い腰を上げようとしていた。


「やぁ、榊原氏」

 マンションの入口に入ろうとする榊原にそう声をかけてきたのは尾崎だった。

「私が知らせていないのに、随分早いご出勤だな」

「いえいえ、元々この辺で強制捜査があるものと考えていましてな。何人かを張り込ませていたんですよ。これに榊原氏の情報を加えれば、他社に先駆けた特大スクープの完成というわけです」

「それで土田もいるのか」

「えぇ。榊原さんの情報で、石渡美津子が麻薬に関与している可能性が強まりましたので、僕の担当している汚職捜査も尾崎さんの麻薬捜査と同時に動くものと踏んだんです。予想通り、検察は麻薬捜査にかこつけて石渡美津子の部屋の強制捜査に踏み切ったようですし、奥村議員が先程検察に連行されていく様子も確認できました。いやぁ、僕にとっては大スクープですよ。他社よりも先に石渡美津子の麻薬疑惑や議員の取り調べを報道できます」

 二人ともそう言ってそれぞれ笑みを浮かべた。

「それは良かった。それはそうと、夕凪哀の麻薬疑惑に関しては何かつかめたか?」

 榊原が声を潜めて言う。こちらに関しては石渡美津子と違ってまだ決定的な証拠が出たわけではない。それゆえに極秘の話であった。尾崎達もそれはわかっているようである。

「あれから軽く調べてみましたが、どうも臭いですな。こちらとしてもまだ全容がつかみ切れていないので、当面この件は報道するつもりはありませんが」

「今、島原さんが張り切って調べていますが、疑惑の女優である野安アリスとの接点が本格的に浮かんでいます。夕凪哀は女優に転向した後も野安アリスと付き合いがあったようで、一緒にいるところを何度か目撃されているんです。これが事実なら、今まで不明瞭だった野安アリスの麻薬供給元が判明し、我々三人全員がかかわる一大スクープになる可能性もあります」

 榊原も、薄々はその可能性を考えていた。

「直接麻薬を日本に持ち込んでいたのがミシェルなのは確実だな。そのミシェルから麻薬を受け渡されていたのが同じマンションに住む石渡美津子。彼女とミシェルがつながった理由は不明確だが、これも調べればすぐにわかるはずだ。そして、石渡美津子は大学の友人である夕凪哀に麻薬を託し、さらに夕凪哀はかつて同じ事務所だった野安アリスに麻薬を供給。野安を通じて芸能界の麻薬汚染へとつながった。おそらく、こんな流れなんだろう」

「つまり、石渡美津子と夕凪哀は麻薬の売人の役割を担っていたという事ですか?」

「純粋な売人なのか、もしくは彼女たち自身が麻薬常習者だったのか、それはわからないが、こんなルートが存在したのは確実だろう。もっとも、これはこれ以降の捜査次第だし、夕凪哀に関してはまだ確固たる証拠は存在していない」

 榊原はそう言うと、二人に背を向けた。

「とにかく、私の目的は北町奈々子の死の真相だ。この麻薬疑惑が北町奈々子の死にどう絡んでくるか、それはこれからの調査次第だ。そっちも、夕凪哀の事をよろしく頼む」

「もちろんですよ。うまくいけば、こちらの利益にもなりますしな」

 そんな言葉に見送られて、榊原はマンションの中に入っていく。入口には草原が立っていた。

「榊原さんの予想、大当たりですよ」

「何か他にわかりましたか?」

「石渡美津子の部屋から何本か彼女のものと思しき毛髪を採取しました。詳しい鑑定はこれからですが、簡易検査では薬物の反応は見られません。つまり、彼女自身は麻薬に手を出していないと考えていいでしょう」

「となると、彼女は麻薬常習者ではなく純粋な売人……つまり、組織側の人間ですか。しかし、そうなるとミシェルと彼女がどこでつながったのかが問題になりますが」

「それなんですが、奥村議員に聞いたところ、石渡美津子は議員の秘書になる前は外務省に勤務していたそうなんです。担当は南アメリカで、コロンビアへの渡航経験も複数あります。極めて遺憾ですが、そこで繋がりを持ったものと考えるしかありません」

 草原が厳しい表情をしながら言った。

「つまり、この麻薬取引は最近始まったばかりのものではないという事ですか」

「組織が麻薬密売を円滑にするために、外務省職員である彼女に接触した、という事なのでしょう。彼女が外務省を辞めて議員秘書になったのも、当局の追及から目をそらすためかもしれません」

 何とも頭の痛くなる話である。草原は言葉を続けた。

「問題は、彼女が麻薬をどこに売っていたか、です。麻薬売買を主収入にしているタイプの新興暴力団に対する麻薬売買はシャルル・アベール東京支社が直接行っていましたので彼女の出る幕はありません。かといって使用の形跡もないから自分で使ったわけでもない。私としては芸能界の麻薬汚染……具体的には個々の芸能人や芸能事務所を隠れ蓑にしているタイプの新興暴力団との取引に関与していると思ったのですが、石渡美津子には芸能界に対する繋がりもない。正直、さっぱりですよ」

 その言葉に、榊原は複雑な表情をした。夕凪哀の事をこの場で話すわけにもいかない。状況証拠は限りなくクロだが、まだ彼女が麻薬を使用していたという決定的な証拠はないのだ。しかも相手は魔女っ娘アニメの主役声優である。下手な行動をとると、世間からとんでもないしっぺ返しが来るのは榊原でも容易に予想ができた。世間を黙らせられるだけの証拠がない限り、安易な発言はできない。これに関しては、今後の尾崎達の調査次第である。

「さて、こうなると問題は石渡美津子の行方ですね」

「えぇ。奥村議員もその場所は知らないという事ですが……」

「彼女が失踪したのは十二月十日。一応衆人環視のマンションから失踪した事にはなっていますが、私は本物の石渡美津子がこの時すでにマンションにいなかったと考ています」

 そう言うと、榊原は草原に以前考えた自分の推測を語った。すなわち、彼女が最後に目撃された十二月五日の午前四時半頃にこのマンションに帰宅した人物が『石渡美津子』ではなかった可能性である。

「……その考えだと疑問が三つありますね」

 話を聞くと、草原はすぐに反論した。

「まず、十二月五日にこのマンションに入っていった『石渡美津子』は何者なのか。また、仮にそれが偽者だったとして、その偽者はどこへ消えたのか。そして、現在本物の石渡美津子はどこにいるのか」

「それがわからないので私も行き詰っています。ただ、問題の十二月五日に彼女を見たのはそこの警備員室にいた警備員だけです。彼の証言にすべてがかかっています」

 そう言うと、榊原は警備員室を見やった。こうなった以上、この話を聞かないわけにはいかない。二人は鍵を開けた後警備寝室に戻っていた先程の警備員に詰め寄った。

「十二月五日にここの警備をしていた警備員を呼んでくれ。話を聞きたい」

「そ、そんな前の事を言われても、その時の担当が誰だったかなんて私には……」

「一昨日と昨日、ここの警備をやっていた人です。それならわかるでしょう」

 榊原の助け舟に、その警備員はようやく思い当ったようだった。

「あ、あぁ、澤中さんの事ですか! それならそうと早く言ってくださいよ」

「とにかく早く呼んでください!」

 そう言ってから、榊原はここで初めて、今まで色々な情報を聞いていたあの警備員の名前が『澤中』だと知ったのだった。

 それから二十分ほどして、電話を受けた本名を澤中何某というあの警備員が慌てて姿を見せた。非番だったところをいきなり呼び出されたので今までと違って私服であったが、その顔は間違いなく昨日まで榊原が話をしていた警備員である。

「何事かと思ったら、またあなたですか。しかも、何ですかこの騒ぎは……」

「失礼」

 草原が前に出て警察手帳を示す。この方が話をしやすいと判断したのだろう。榊原も口を挟む事なくそれを見ている。

「警視庁の草原です。実は、ここの六一二号室に住んでいる石渡美津子さんに麻薬密売の疑いがかかっています」

「な、何ですって?」

 いきなりそんな話を聞かされて、澤中も目を白黒させている。

「それで、石渡さんの行方が問題になっているのですが、事実関係を見ていくと、どうも石渡さんを最後に目撃したのはあなたらしいという事になったんです」

「そ、そう言われましても……」

「十二月五日、北町奈々子さんが死んだあの日の午前四時半に石渡さんがマンションに帰宅したと、あなた自身がそう新聞社の人間に言ったはずですが」

 榊原がそう言うと、ようやく澤中も思い出したようだ。

「あー、そう言えばそうでしたね」

「それでですが、今度は正式にお尋ねしたい。十二月五日の午前四時半、このマンションの自室に入っていった人間は、間違いなく石渡美津子さんでしたか? これは捜査上重要な確認ですので、よく思い出してほしいのですが」

 草原がそう尋ねると、澤中は当惑した表情をする。

「思い出すも何も、彼女だと思ったからこそマンションに入れたわけですが……うーん、どうだったかな」

「彼女が帰宅したのは間違いなく四時半でしたか?」

「それは間違いないです。人の出入りはすべて帳簿に記録しますから」

 そう言うと、澤中は警備員室のノートを指さした。該当ページを広げると、確かに『十二月五日 午前四時半 石渡美津子、他一名入館』と書いてあって……。

「ちょっと待ってください! 『他一名』」って、これは何ですか?」

 思わず榊原はそう突っ込んだ。

「え、そう書いてありますか?」

「あなたが書いたんですよ! よく思い出してください」

「ええっと……あぁ、そうだ。彼女、ぐでんぐでんに酔っ払っていて、正体がなかったから付き添いの友達が一緒に入ったんですよ」

 本人は何とも思っていないようだったが、榊原にとってはとんでもない重要情報だった。

「詳しく教えてください」

「いえ、彼女すっかり酔っぱらって自分でもまともに歩けない状態でしてね。話す言葉も要領を得なくて……まぁ、声で彼女だってわかったんですけど、とにかくそんな感じだったんで友達だっていう方が体を支えていたんですよ」

「その『友達』も一緒にマンションに通したんですか?」

「そうです。入ってから三十分くらいで出てきたかな。詳しくはそこの記録に書いてあるはずですけど」

 慌ててノートを見やると、確かに『午前五時三分 鈴川由美 出館』とある。

「鈴川由美……と名乗ったんですか?」

「はい。もちろん、入る際には保険証で名前も確認しましたよ」

 だが、保険証となると顔写真がないから偽造の疑いもある。そもそも身元確認に保険証を出す方がおかしいのだ。こうなってくると、その『鈴川由美』が本人かどうかもわからないし、第一石渡美津子の周囲にそんな名前の女性はいなかったはずだ。そう榊原が思った時だった。

「榊原氏、今『鈴川由美』と言いましたか?」

 尾崎だった。いつの間にか話を聞いていたらしい。榊原が振り返って問い詰めた。

「知っているのか」

「知っているも何も……『鈴川由美』は『夕凪哀』の本名ですよ」

 その言葉に、榊原の顔に緊張が走る。

「夕凪哀は芸名だったのか」

「らしいですな。私はもちろん、島原でさえちゃんと調べるまで知りませんでした。彼女が声優になったのは中学卒業直後の事で、そこから本名を捨ててずっと芸名で通していたみたいです。普段からそっちの名前ばかり使っているんでそれが本名だと思っている人が大半なんですが、さすがに公的な書類なんかは本名が使われています」

 もしその話が本当なら、夕凪哀は北町奈々子の死の一時間半後とはいえ、このマンションに訪れている事になる。榊原は念のためにホームページ上で手に入れた夕凪哀の写真を澤中に見せた。

「その友人というのは、もしかしてこの人物ですか?」

 だが、澤中の態度ははっきりしなかった。

「どうでしょう……二人とも風邪を引いたとかでマスクをしていましたし。雰囲気はよく似ているんですけど」

「マスク、か」

 明らかに自分の顔を隠す気満々である。しかも、その「夕凪哀」らしき人物のみならず、石渡美津子の方もマスクをしていたというのが意味深である。

「その時の防犯カメラの映像はありますか?」

「一ヶ月も前ですよ。さすがに残っていません」

 澤中はそう言って首を振る。ある意味当然の話ではある。

「榊原さん、夕凪哀、というのは?」

 草原が当然の疑問を聞いてきた。ここまで話が出てきた以上、もう隠す意味合いもない。榊原はそう判断した。

「いいでしょう。これである程度状況証拠はそろったと判断します。お話ししましょう」

 榊原は、覚悟を決めて夕凪哀の疑惑を話し始めたのだった。


「何か、大変な事になりましたねぇ」

 翌日、すなわち十二月二十五日の朝。朝一番にやって来た瑞穂が事務所でニュースを見ながらそんな感想を述べた。テレビの画面ではシャルル・アベール社に対する全世界一斉捜査の事が大々的に報じられている。榊原はデスクに座りながら眠そうな表情をしている。

「それで、結局今のところどうなっているんですか?」

「石渡美津子には麻薬使用容疑で逮捕状が出た。ミシェルの部屋に侵入したのが間違いない上に、部屋の中から麻薬が見つかっているから言い逃れは不可能だ。本人が失踪中なので指名手配になるかもしれない」

「夕凪哀は?」

「そこが問題だ。彼女が石渡美津子と一緒にマンションに行った可能性があるのは見逃せない話だが、それは澤中警備員の曖昧な一証言にすぎない上に、直接的に麻薬売買に関与したという証拠がまだはっきりしていない。決定的な証拠が出るまで、警視庁は慎重に極秘捜査をするようだ」

「もどかしいですね」

「相手が相手だ。下手に扱うと日本中のその手のファンが冗談抜きで暴動を起こしかねない。それだけに警察も必死だ。ここをうまく処理すれば、芸能界の麻薬汚染も一挙に解決できるだけにね」

「まぁ、向こうは向こうで大変そうですけど……結局、北町奈々子さんの密室の謎は解けないままなんですよねぇ」

 瑞穂は重い息を吐く。だが、榊原の表情は何かをつかんでいるようでもあった。

「そうでもない。少なくとも、密室だった五階に侵入する方法が一つだけ見つかった」

「何ですか?」

「今回の捜査で、石渡美津子が六階の自室から五階のミシェルの部屋へベランダを通じて侵入していた事実が判明した。そして、あのマンションの部屋は当然ながら内側からなら鍵がなくても開く。つまり、石渡美津子のいた六一二号室に侵入さえできれば、五一二号室を経由してエレベーターホールの監視カメラに映る事なく五階に侵入できるという事になる」

 だが、瑞穂の表情は難しいままだった。

「でも、それもそれで難しいと思います。要するに、それって五階が六階になっただけで根本的に変化ありませんよね。六階に入るにしても警備員室やエレベーターホールのカメラの前を通らないといけないのは変わらないし、六階に侵入したとしても今度は六一二号室に入らないといけません。石渡さんと一緒に入ったらしい夕凪哀さんならそれもできるかもしれませんけど、そもそも彼女たちの帰宅時間って午前四時半ですよね。北町奈々子さんの死亡推定時刻は午前二時から三時。犯行なんかとっくに終わっているじゃないですか」

「即座にそれだけ疑問が出てくるとは感心だね」

「からかわないでください」

「……だがまぁ、概ねその通りだ。君が言うように、死亡推定時刻の一時間半後というのが痛い。これがあるから石渡美津子と北町奈々子を結び付けられないと言っても過言ではない」

 そう言いながら、榊原は何かをデスクの上に放り投げた。それは何枚かの写真だった。

「昨日の捜査時に撮ったものだ。ついでだから警察権限で屋上にも入れてもらった」

「屋上って……あぁ、あの」

 瑞穂は何日か前に行った屋上を思い出した。非常階段を上った先にある監視カメラに映らずに入れる場所で、あの時は警備上の理由から捜査を拒否されたはずだった。

「何かありました?」

「屋上は周囲を金属製の手すりで囲われていたんだが、案の定、その一角に塗装のはがれた場所があった。これがその写真だ」

 榊原が差し出した写真には、確かに何かで手すりの塗装がはがれた形跡があった。

「これ……紐かロープか、そういう何かでこすった跡みたいですね」

「君にもそう見えるか」

「この跡、具体的に屋上のどこにあったんですか?」

「逆に聞くが、どこだったと思う?」

 意味ありげな榊原の問いに、瑞穂は息を飲んだ。

「まさか……」

「そのまさかだ。各階の八号室に当たる部屋の真上の手すり。そこにその跡があった。端的に言えば、北町奈々子の住居である五〇八号室の真上という事になる」

 さり気に事件そのものの構図を覆しかねないような重大情報だった。瑞穂が興奮した様子で尋ねる。

「そ、それってそこにロープか何かが結びつけられたって事ですか? だったら、そこからロープ伝いに壁を降りていくっていうあまりに肩すかしな方法が考えられますけど」

「落ち着きなさい。跡があったのはベランダのある位置ではなく、北町奈々子の部屋で言えば寝室の窓の地点……すなわちベランダとベランダの間の空間に当たる場所だった。もし君の言うようにロープか何かを手すりに結び付けて地面に向って垂らし、レスキューの要領で壁伝いに降りたとしても、ベランダからは侵入できない。侵入できるとすれば寝室の窓という事になる。ところが……」

「あっ、北町さんの寝室の窓って、確かベランダと違って鍵がかかっていましたよね?」

 瑞穂の問いに、榊原は頷く。

「その通りだ。ゆえに窓からの出入りは不可能となる。大体、そんなところから人が現れたら、いくら知り合いだったとしても普通は窓を開けたりしない。また、仮に窓が開いていて侵入できたとしても、今度は脱出する際に外から窓を閉める手段がない。つまり、ロープを伝って屋上から降りて、寝室の窓から侵入するというのはあまりにも荒唐無稽なんだ」

「じゃあ、この手すりの跡は何なんですか!」

「さぁね。まぁ、一つ考えている事はあるが……」

 榊原が言った聞き捨てならない発言に、瑞穂は食いついた。

「考えている事って……あの密室を破る方法を先生は何か考えているって事ですか?」

「一応ね。ただし、まだピースがすべてそろってはいない。あと少し材料があれば完璧なんだが……。それに、犯人が誰かまでたどり着けているわけでもないしな」

 と、そこへ榊原の携帯電話に着信が入った。

「誰ですか?」

「草原さんだ。一つ頼み事をしていた」

 榊原はそう言いながら電話に出る。

『調べましたよ。こちらも麻薬密売の捜査で大変なんですがね』

「感謝します。それで?」

『ご指示の通り、北町奈々子の自室にあったノートパソコンを調べました』

 その言葉に、隣で聞いていた瑞穂が驚いた表情をする。

「調べてもらったんですか?」

「気になる事があったからね。で、どうでした?」

 電話口で草原は真剣な表情で言った。

『またしても榊原さんの言うとおりでしたよ。寝室にあったノートパソコンですが……検査の結果、ウィルスに感染している事がわかりました』

 その知らせに、榊原の表情も険しくなる。

「ウィルス、というと?」

『内部情報を抜き出したり、あるいはノートパソコンそのものを遠隔操作したり、かなりの事ができるみたいですね。内部のセキュリティソフトを突破していますから、かなり高性能のウィルスです』

「感染経路はわかりますか?」

『そこまではまだ……ネット上のサイトから感染したか、あるいはメールか何かに添付されたかです』

 榊原は質問を変える。

「遠隔操作と言いましたが、それはノートパソコンの付属品を遠隔で操作できるという事ですね」

『そうです』

「あのパソコンには、チャットや動画サイトで自分を撮影するために使用するミニカメラが設置されていましたね。そのカメラの操作や盗撮も可能ですか?」

 思わぬ質問に草原も少し訝しげに思ったようだが、返答は明確だった。

『結論から言えば、可能です』

「ありがとうございます。それで充分です」

『……それともう一点。実は、昨日の証言を受けて十二月五日における夕凪哀のアリバイ調べが行われました。もちろん、本人にも極秘でです。それでその結果なんですが……意外なところで彼女の名前が出てきました』

「というと?」

『昨日の強制捜査で、シャルル・アベール商会からの麻薬密売の売り先だったいくつかの新興暴力団にもメスが入りました。その際、ある小規模芸能事務所をフロント企業にしていた新興暴力団の事務所から顧客や麻薬供給先の売人のリストも押収されたんですが……その売人リストの中に夕凪哀と思しき名前があるんです』

 榊原の表情が険しくなった。

「本当ですか?」

『もちろん本名の鈴川由美や芸名の夕凪哀ではなく全くの別名で記されていて、実際の取引の際も売人たちは素顔を仮面などで隠していたそうですが、売買状況や逮捕した組員の証言から彼女の可能性が非常に高くなっています。まだ確定的とは言えないので、逮捕には更なる証拠収集が必要になりますがね。ただ、そうなると売人である彼女は取引当日には取引現場にいなければならない。そして、問題の新興暴力団に対する麻薬取引の日付を帳簿から調べた結果、問題の十二月五日もその中に入っている事が判明したんです。取引の時刻は毎回決まっていて、午前三時から五時の間になっていました』

 それが意味するところを榊原は瞬時に悟っていた。

「……それが本当なら、夕凪哀は石渡美津子と別れた後で、麻薬の売人として取引を行っていた事になりますね」

『大方、石渡美津子から麻薬を受け取って、その足で取引に出かけたんでしょう。ですが、そうなると同日午前四時半に問題のマンションに出現する事は不可能になります』

「でしょうね」

『もちろん、先程も言ったようにその売人が彼女であるかは現時点では不明瞭です。また、本当にその日のその時間に取引があったのかも今後の捜査が待たれます。現段階ではデータ上のアリバイに過ぎないんです。ですが、これがもし本当だとすれば、厄介な事になるでしょう。そんなわけで、一応お知らせしました』

「……わかりました。また何かあったら連絡します」

 電話を切った榊原は何かをつかんだような表情をしていた。

「夕凪哀さんにアリバイがあったんですか?」

「らしいな。とはいえ、かなり不明瞭なアリバイだ。あくまでデータ上はそうなっているというに過ぎない。だが、彼女が実は売人だったとすれば、不自然にアリバイを隠そうとした事にも頷ける」

「でも、それだとマンションに現れた夕凪哀さんはどうなるんですか? 警備員さんは彼女だと証言していますけど」

「そこが問題だ。現段階ではデータ上のアリバイよりも、彼女を直接見たというマンションの証言の方が強い。ここをどう考えるかだが……」

 そう言いながらも、榊原はこの情報から何か得るものがあった様子だった。一方、瑞穂も話題を別のものに移す。

「それより、あの寝室のパソコンにウィルスが入っていたんですか?」

「あぁ、そうらしい。肝心なのは中身じゃなかったって事だ」

「でもあのパソコンがあったのは寝室ですよ。それに、カメラって何なんですか」

 混乱気味の瑞穂に対し、榊原はあえて断定するように言った。

「屋上の問題の傷跡も、木村有希が目撃したあの幽霊も、そしてパソコンも、すべてが寝室を指し示している。密室を解くカギは、遺体が見つかったベランダじゃなくて寝室にあった。私はそう考える」

 だが、瑞穂は納得できなかった。

「不可能です! さっきも言いましたけど、あの寝室の窓の鍵は閉まっていたんですよ。しかも窓の外は地上まで何もない空間。ベランダから入るよりも難易度が高すぎます。というか、さっきそう言ってここからの出入りを否定したのは先生自身じゃないですか」

「あぁ。私も犯人があの窓から出入りしたとは全く思っていない。だが、あの部屋が密室に関係しているのも間違いないんだ」

 そう言うと、榊原は立ち上がった。

「残る問題は、あと一つ。それが解ければ、この面倒な密室に対する私の推論は充分に帰結する」

「私には何が何だか……」

「密室に関しては私に任せろ。君にはそれ以外に一つ、調べてほしい事がある」

 唐突に榊原はそんな事を言った。

「この際何でもいいですけど、何を調べるんですか?」

「なぁに、ちょっと犯人を絞り込んでほしいだけだ」

「……はい?」

 瑞穂は思わず聞き返した。だが、榊原は少し笑いながらこう言ったのだった。

「密室の謎は私が解く。君には、犯人を明らかにしてもらおうという事だ」

 榊原は本気だった。


 それから数時間後、練馬区にある桜森学園高等部の校舎から、一人の人影が姿を見せた。その人物……瑞穂は校門から外に出ると、すぐに携帯でどこかに連絡を取った。

「先生、言われた通りに調べました」

 瑞穂は真剣な表情で、電話の向こうにいる榊原にそう報告する。

 桜森学園である事を調べろ。それが、榊原が瑞穂に出した指示だった。それを受け、瑞穂は単独で再びこの学校を訪れていたのである。

『どうだった?』

「ビンゴです。でも先生、よくこんな事がわかりましたね」

『例の三年前の台本を見て、少し気になっていた事があった。もし私の想像が正しければ、三年前の一件や今回の事件にも説明がつくと考えたが……どうやら、大当たりのようだ』

「やっぱり、三年前の羽川の死が絡んでいたんですか?」

『そうらしい』

 榊原は意味深な事を言う。一方、瑞穂も緊張した様子で問い返した。

「それじゃあ、先生。今回の事件の犯人は……」

『あぁ。十中八九、あの人物で間違いないだろう。これで犯人も特定できた。君のおかげだ、瑞穂ちゃん』

 それは、榊原がすべての謎に決着をつけたという宣言に間違いなかった。

「それで、そっちはどうなんですか?」

『上々だ。密室の謎も何とかなると思う。後は、どうやって犯人を追いつめるかだ』

「どうするつもりですか?」

『とりあえずそっちに合流して最後の詰めを仕込む。その後だが……中木さんに聞いた話では、今日の夜が「ジャンヌ・ピュア」の収録の最終日となるらしい。主だった声優や制作陣が、全員スタジオに集まるそうだ』

「じゃあ……」

 榊原はしっかりと断言した。

『今回の事件、そこですべての決着をつける。この際だ、何もかもが虚飾に彩られた犯人を、今日限りで現実に引きずり出すぞ』

 事件は、いよいよ終局へと差し掛かろうとしていた。



 二〇〇七年十二月二十五日夜。世間がクリスマスで浮かれているこの時、新宿にあるスタジオ・アニマーズには、「ジャンヌ・ピュア」の最終収録のために、スタッフ一同が集まっていた。

 控室では、主要声優の七人……夕凪哀、野鹿翠、海端香穂子、才原和歌美、三上友代、福島恵梨香、中木悠介がそれぞれ台本の確認や雑談などをしている。すでに最後の収録は終了し、全員の顔には安堵の表情が浮かんでいた。

 とはいえ、今日の仕事はこれで終わりではない。最後の収録かつクリスマスの夜という事で、この後全員がそろってのラジオ生出演が行われる事になっていたのだ。

「はぁ、やっと終わったねぇ」

 恵梨香がそう言って大きく伸びをした。それに対し、香穂子が苦言を呈する。

「気を抜くのはまだ早いよ。これから最後のラジオ収録があるんだから。まったく、クリスマスだからって、わざわざ生放送とはね」

「まぁまぁ、そう言わないで」

 翠がなだめるように言う。それに続くように、哀が全員に呼びかけた。

「とりあえず、これが終わったら一区切りなんだから、あと少しだけ頑張ろう」

「そ、そうですね。色々ありましたけど、ようやくここまで来たんですし……」

 その才原の発言に、全員が一瞬押し黙った。色々……その言葉の中に、途中離脱した北町奈々子の死が入っているのは明白だった。

「……結局、あの探偵、何かつかんだのかな?」

 香穂子がポツリと呟く。

「どうでしょうか? それこそ色々調べていたようですが」

「でも三上さん、和歌美から聞いた話だと、あなたの学校にも行ったらしいわね」

「はい。でも、正直何を調べているのか私にもさっぱりでした」

「全部はぐらかされている感じだったからねぇ。逆に私たちから情報が搾り取られているみたいで、嫌な感じだったなぁ」

 恵梨香がそんな感想を漏らす。それは全員が感じていた事だったので、誰も反論する者はいなかった。何となく重い空気がその場を支配する。

「……そろそろはっきりさせとこうか。あの探偵に今回の件を調べるように依頼したのは誰なのか」

 不意に香穂子がそんな言葉を発した。

「ど、どういう意味ですか?」

「いるんだろ。この中にあの探偵に依頼した奴が」

 重い空気が一気に緊張したものへと変化する。だが、一瞬後に全員の視線がある一人に向いた。

「中木、あんたさっきから何で黙っているんだ?」

「……どういう意味ですか?」

「あんた、奈々子の恋人だったよね。自殺判断された事件を調べ直すよう依頼するなんて、自殺に納得できていないあんたくらいしかしないと思ってね」

 香穂子が中木を鋭く睨む。一方、中木は少し緊張した様子で息を飲んだ。

「それで僕が依頼人だと判断するんですか?」

「私も調べたよ。あの探偵、その筋の業界ではかなり有名らしいね。今までにいくつも有名な事件を解決していて、依頼人の中には警察関係者もいる。再調査を依頼するにはうってつけね。それに、あんただけはあの探偵に探りを入れる事に消極的だったし」

「……仮に僕が依頼人だったとして、だったらどうなんですか? ここで問い詰める事でもないでしょう」

「あんたのせいで私たちの間に余計な疑心暗鬼が生まれたって言いたいのよ。この大事な時期に、変な噂が流れたらどうするの?」

「でも……」

「やめて!」

 叫んだのは哀だった。

「もうたくさん。こんな風に互いに疑い合うなんて嫌よ」

「私もそう思います。少なくとも、最後のラジオ収録の前にする話題じゃないです」

 翠も同調する。それを受けて、香穂子も言いすぎたと思ったようだ。

「……ごめん。ちょっと言い過ぎた」

 何とも気まずい感じがその場に流れる。ちょうどその時、控室のドアが開いて、スタッフの一人が顔を見せた。

「あの、中木さん、監督が呼んでいます。一緒に来てください」

「僕ですか?」

 中木は訝しげな表情を浮かべながらも、部屋を出て行く。

「後の方は先に第二スタジオで準備してください。お願いします」

「……行きましょう。最後の仕事よ」

 哀の号令で全員が無言で立ち上がり、一行は気まずい空気のままスタジオへ向かった。

 今回の収録は、マリリン役の恵梨香がパーソナリティー、他の魔法少女五人がゲストで、サッカキバー役の中木はサプライズゲストとして途中から参加する予定である。内容は最初全員で自己紹介した後、今回のラジオ放送のために用意された簡単な「ジャンヌ・ピュア」のミニドラマを演じ、その後はそのミニドラマの最中にサプライズ登場した中木演じるサッカキバーを交えてのフリートークといった感じである。

 第二スタジオは第一スタジオと隣り合っており、二つの部屋を隔てる壁の窓から互いに互いの部屋を覗けるようになっている。中木はミニドラマまでは隣の第一スタジオで演じる予定であるが、今のところ窓にはカーテンがかかっていて向こうを見る事はできない。一方、二つのスタジオの隣にはを両部屋を見渡せる大部屋があって、そこには音響装置などが設置されている。ここで監督などが指示を出すのだが、今はまだ誰もいない様子だった。

「このスタジオ、昔はラジオのローカル局のスタジオだったみたいね。だから、今でもラジオ放送の設備が整っているんだって」

 哀がそんな豆知識を披露する。

「詳しいんですね」

「昔ラジオに出ていた私の友達が教えてくれたの。野鹿さんは、ラジオ収録は初めて?」

「そうですね。あまりやった事はありませんね」

 そんな話をしているうちに、ガラスの向こうの大部屋に荒切監督と脚本家の京一郎が入ってきた。相変わらず厳しい表情の荒切に対し、京はなにか気に入らない事でもあったのかふてくされた表情をしている。

「京さん、どうしたのかな?」

 恵梨香が素朴な疑問を発するが、それに誰かが答える前に監督からマイクで指示が出た。

「そろそろ時間だ。最後の収録、頼むぞ」

 それを合図に、声優たちは所定のマイクの前にスタンバイし、やがて時間になったのを見計らって監督がガラスの向こうで手で合図を送る。

 この瞬間、後に伝説となるラジオ放送が始まった。


 それから三十分、収録は順調に進んでいた。最初の自己紹介も無難に終わり、今は全員によるミニドラマを演じているところだった。それももうクライマックスに近づいている。

 しばらくして、演技をしながら全員が軽く目くばせした。そろそろシークレットゲストであるサッカキバーこと中木の出番である。隣の第一スタジオではすでに準備が整っているはずだが、二つの部屋を仕切る窓にかかっているカーテンは閉じられたままだ。彼女たちもこれには疑問に思ったが、生放送なので何かアクションを起こすわけにもいかない。また、監督も特に問題なさそうな表情をしていたので、そのまま続行するしかなかった。

 そうこうしているうちに、当の中木の出番がやって来る。

「さぁ、サッカキバー、出てきなさい! 私たちが相手よ!」

 哀が緊張した様子でセリフを言い、その場に何とも言えない雰囲気が漂う。全員が隣の部屋にいるはずの中木のセリフを待った。

「……ふん、ようやく私の出番か」

 と、唐突にそんな声がスタジオに響いた。どうやら、隣の部屋でちゃんと演技を始めた様子である。声優たちはホッとしたような表情をして、演技を続行する。

「サッカキバー、覚悟しなさい。私たちの力であなたを必ず倒して見せる!」

「ほう、それは随分な言い草だな。お前たち程度にに私が倒せるとでもいうのか」

「そうでなければこんなところにいない! みんな、行くわよ! 力を貸して!」

「はい!」

「もちろんだよ」

「が、頑張ります」

「一緒に、魔王を倒しましょう!」

 だが、その瞬間中木の不敵な声がスタジオに響いた。

「お前たちが私を倒す? これは笑わせるな。たかが五人の力で私に勝てると?」

「もちろんよ。確かに私たちは五人だけど、私たちにはあなたにはないものがある」

「それは?」

「私たち五人の間にある固い友情、そして正義を信じる心よ。それがないあなたに、私たちを倒す事は出来ない!」

 哀のセリフに、しばし沈黙が広がる。台本によれは、この後はサッカキバーがしばらく沈黙した後、「そうか、では試してみるがいい!」というサッカキバーのセリフと同時にいよいよ魔王との戦闘が始まる手はずになっていた。ミニドラマのクライマックスに、その場にいる誰もが緊張した様子になる。

 だが、サッカキバー……否、中木が口にしたセリフは思わぬものだった。

「……果たして、それは本当かな?」

 その瞬間、第二スタジオにいる全員が唖然とした表情をした。そんなセリフは台本にない。完全なアドリブである。しかも生放送中ゆえにやり直しなどきかない。誰もが中木の気がおかしくなったのではないかと思った。思わず全員の視線が荒切の方へ向く。

 だが、荒切は黙ったまま頷くだけだった。続けろという事らしい。何がどうなっているのかわからないまま、哀たちは演技を続けるしかなかった。そこはさすがにプロだけあって、彼女たちもアドリブでセリフをつないでいく。

「そ、それはどういう意味なの!」

「そうです。あなたに私たちの何がわかるというのですか!」

 だが、サッカキバー……否、中木はこう続けた。

「私はすべてを知っているつもりだ。そう、『正義』を称するお前たちの何人かが正義とはかけ離れた存在であるという事もな」

「でたらめ言うな! あたしたちを切り離そうっていう魂胆だろう!」

「そ、そうですね。何を言っているのか……」

「例えば、スノーホワイトの事はどうだ?」

 その言葉に、全員の顔に緊張が走った。なぜこの場でいきなりこんな事を言い始めたのかはわからないが、こうなればとことん付き合うしかない。

「スノーホワイトはあなたが殺した! あなたがスノーホワイトを語るんじゃない!」

「それはどうだろうな」

「何が言いたいの!」

 哀が叫ぶ。だが、中木はその問いに対して衝撃的な言葉を告げた。

「そうだな。例えば、スノーホワイトを殺したのがお前たちの中の一人だった、というのはどうだろう。そして、その真実を私がすべて知っている、としたら。どうだ、なかなか興味深い話だとは思わないかね?」

 直後、誰もが絶句とした。

「な……何を言って……」

 哀がそう言うのが精一杯だった。こんなアドリブはもはや今日の範囲外である。もちろん、現実のアニメの中で五人の中の誰かがスノーホワイトを殺したなどという超展開のストーリーは存在しない。明らかにストーリーに外れた事を中木は勝手に言っているのである。

 にもかかわらず、監督はこの中木の暴走を止めようとしない。中木だけではない。京も憮然とした表情ながら、この異常な生中継を止める様子がないのだ。

 何が何だかわからず誰もが言葉をつなげずにいた、まさにその時だった。突然、二つのスタジオを隔てていた窓のカーテンが取り払われ、第一スタジオの様子が露わになった。

 そして、それを見て声優たちは再度絶句する羽目になった。

「な……」

 マイクの前に立っていたのは中木ではなかった。

 そこに立っていたのは、ここ数日自分たちを嗅ぎまわり続けていたあの中年探偵……榊原恵一その人だったのである。中木自身はその榊原の背後で緊張した表情でこちらを眺めており、傍らには榊原と一緒に行動していた瑞穂の姿もある。

 その瞬間、第二スタジオの声優たちは、自分たちがあの探偵の罠にはまった事を知った。どうやら、中木だけではなく監督や京も一枚噛んでいたらしい。そして、急な展開に焦る声優たちの心情を知ってか知らずか、榊原は全国生中継されているラジオの前で、はっきりと宣言した。

「さて、そろそろこのくだらない茶番はやめにして、始める事にしようか。誰がジャンヌ・スノーホワイト……いや、声優・北町奈々子を殺害したのか。魔法少女の仮面をかぶった悪魔が起こした犯罪、そのすべてを誰も逃れる事ができないこの場で明らかにしてみせよう」

 

 その瞬間、ネット上ではちょっとした騒ぎになっていた。

『ジャンヌ・ピュアのラジオがおかしな事になっている』

 某掲示板にそのような書き込みがあったのを皮切りに、情報は一気にネット中へと拡散していった。

『サッカキバーがジャンヌたちの犯罪を暴くって言ってる』

『魔王が魔法少女を告発した?』

『逆だろう(笑)』

『マジみたい。本当にラジオでやってる』

『北町奈々子って病死じゃなかったの?』

『殺人って、洒落になってねぇよ』

『通報した方がよくね?』

 やがて、この情報を見た誰もがひとりでにラジオの周波数を合わせ、この前代未聞の対決に耳を澄ませた。この先、何が起ころうとしているのか、全く予想もできないまま。


 舞台は整った。

 誰もが注目し、逃れる事のできないこの状況。

 挑むは魔王の皮をかぶった探偵。

 立ちはだかるは殺人犯の本性を隠す魔法少女。

 探偵対魔法少女、ミステリー対ファンタジー、現実対架空。

 本来あり得ないはずの対決の幕が、今、開く。

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