第3話 メリットのある彼女とは。

『ねえ、今日のお昼一緒に食べられるよね?』


 彼女からのLINEが届いた。

 高校に入ってしばらくして告白してきた子と付き合っている。

 確か、名前は日向ヒナタ 未来ミクル

 彼女のことはよくは知らない。

 ただ、普通に可愛くて従順な子だった。


 特に好きでもない女の子と付き合うならば、美少女であることより従順なことの方が大切だ。

 自分の時間や予定を邪魔しない。

 無駄なことに付き合わされてこちらのペースを乱されるのは嫌だ。

 彼女がいるというステータス。

 その彼女がみんなから笑われるほどのブスじゃないことが大切だ。


 正直、美人と付き合ったこともあるがあれは失敗だった。

 美人というのはたいてい子供のころから、『カワイイ』と言われて育っている。そのため、自信もあるし、周りからちやほやされてきているのでわがままだ。

 だから美人よりも、まあまあ可愛くて、ちょっと自分に自信がない女の子の方が付き合うときは楽ができる。


 可愛すぎなければわがままも言わない。

 ちょっと、うざいなと思ったときはそれを少しだけ表にだせば察して、大人しく引っ込んでくれる。

 決して俺の嫌がることは強要しない。

 付き合うならばそういう女の子がよい。


 ミクルはそういうの面で言えば歴代最高の彼女だ。

 いつも俺の顔色を窺っていろんなことを察してくれる。

 先回りして俺の機嫌を取ろうとしてくれるし。

 それでも俺が苛立っているときは、余計なことをせずに静かに距離を取ってくれる。

 そして、顔も悪くない。

 というか、どちらかというとクラスで2番目くらいに可愛いというレベルだ。


 だから、最初はミクルに告白されたときは断った。


 めんどくさいに決まっているから。

 インスタ映えとか、理想の彼氏とか、記念日とかそういうものを求められても手間も時間もかかるから。


「お友達からでいいからお願いします……」


 俺が告白を断っとき、ミクルは消え入りそうな声でそう言った。

 まあ、告白でフラれてあきらめられないときの定番のセリフだし、これを断ったらさすがに人間性を疑われてしまう。

 すぐに飽きるだろうと俺はOKした。


 それから、週に一回のペースでミクルと昼食をとるようになった。

 最初は、なんか空き教室とかで無難な話をしながら一緒に昼食を食べるだけだった。ただ、ある時、ミクルが持ってきた弁当をほめたことがきっかけで俺たちの関係は変わり始めた。

 どうやら、ミクルの弁当はミクル本人の手作りらしい。

 話を聞くと、母親は料理研究家でミクル自身も幼いころから包丁を握らされ料理の腕を磨いてきたらしい。

「あの、もしよければ来週から貴方の分も作っていいかな?」

 ミクルはちょっと心配そうな上目遣いでこちらを見つめた。

 無料飯は大歓迎だ。

 しかも、プロ並みの腕前、プロ仕様の環境でというお墨付きである。

 ミクルの作ってくる弁当は本当においしかった。


 そして、それが週一から週二、週二から週三、週三から週四、週四から学校のある日は毎日となった。

 もちろん、時々都合のつかないときもある。

 それに備えて、ミクルは毎日確認のメッセージをよこす。

 一緒に食べられなくても、弁当だけ必要なら届けてくれたりもする。

 おかげで食費は浮くし、バランスが取れておいしい食事は生活をよりよいものにしてくれた。


 可愛くて、従順なミクルが彼女になるのは悪くないと思った。

 というか、そうやってほぼ毎日お弁当を作ってもらっていたら、いつの間にか周囲からはカップルとして認定されていた。


 俺はまだ、ミクルに付き合おうとは言っていないのにも関わらず。


 だけれど、この関係はちょうどよいのかもしれない。

 彼女がいるというアドバンテージはありつつ、本当には付き合っていない、付き合っているみたいな関係はぬるま湯のように心地よくいつまでもつかっていたかった。

 じんわりとあたたかく、熱すぎない関係。


 ミクルも特別に何か進展を求めたりしてこない。


 もちろん、ときどきはお礼もしている。

 さすがに弁当も毎日となるとそこそこ費用がかかる。

 だから、月に一回くらいはミクルと一緒にショッピングモールにでかけて買い物デートをする。

 一応、ランチとかそういうのは俺のおごりで。

 ちょっと、予算不足なときはフードコートだったりもするけれど。


 でも、ミクルは文句ひとつ言わずにいつも楽しそうだし、楽しみにしてるといってくれる。


 これぞお互いwin-winな関係といえるのではないだろうか。


 人間は打算的だ。

 これは俺だけじゃない。

 ミクルだって俺と付き合うことにメリットがあるから、ああやって献身的な態度をとってくれるのだ。

 俺が彼女にとって、魅力のあるものを提供できているからミクルも俺に従ってくれるのだ。

 メリットがなければミクルだって離れていくだろう。

 ミクルがそばにいるということは、俺にそれだけの価値があるということだ。


 そして、そんな可愛いミクルと付き合っていると周りが認識すれば俺の株はさらに上がる。


 こうやって客観的に自分をみて、考えることができる。

 それが、俺の最大の強みだと思う。


 まあ、それをみて変な美少女に好かれてしまったのも困りものだけれど、この間はうまく対処できた。


 俺はきっとこれからもこうやって上手く人生をやっていくつもりだ。

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大嫌いでブスな幼馴染を池に突き落としたら、聖女で美少女な幼馴染に交換された話 華川とうふ @hayakawa5

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