第4話 平和

「ポイント131。APU起動を確認。磁場チェンバー。アイドリング正常」

 隕石落下まで一日と十八分。

 ギルとナッシュ、アリアは超大型電磁投射砲レールガンの照準を定める。

「目標を確認。電力供給問題なし」

「わたし、こんなの初めてです」

 アリアは情報を統制し、エナマス望遠鏡から入ってくる位置情報を元に狙いを定める。

「タイミングよし!」

「撃て――――――っ!」

 ギルがそう叫ぶとナッシュは引き金を引く。

 発射された弾丸は大気圏を離脱し、宇宙そらを飛び立つ。

 隕石に直撃し、半壊。

 撃ち抜いた衝撃で半分が減速。月に落ちる。

 もう半分は未だに同じ進路をとっている。

「ダメだ。全部は……」

 しおらしくなるギルに引っ張られ、俺も意気消沈する。

 隕石の一部は核ミサイルの弾頭による大爆発を引き起こす。

 膨大な熱量と放射線による飽和攻撃。

 隕石はボロボロになり、その一部が未だに落下起動をとっている。

 直径は2m。

「くそっ! どうにもならないのか!」

「いえ。このくらいの大きさなら大気圏で燃え尽きます。避難を!」

 アリアがそう告げると、軍用シェルターに避難する。


 だが、隕石は大気圏で燃え尽きることなく、非情にも地上へ落下する。

 ネビュラ世紀805年。

 地球がその被害を受けてなお生き続けている。

 ラウン国の首都を失いながらも。

 隕石の落ちた爆炎に呑み込まれたのだ。

 その被害を最小限に抑えたつもりだが、発展途上国であるラウンは先進国の力不足と高らかに宣言した。

 火種はまだまだ残っている。

 しかし、全ての人類を救済してくれるAI・ノルンがいる。

 落ちてきた隕石を迎撃できるだけの力がある。

 AIがなければ、この世界は終わっていたかもしれない。


▽▼▽


「我々はここにAIへ人権を了承する! 全てのAIに人権を!」

 そう演説するのは連合議会のトップであるアルベルト=ライナー。

「今こそ、我々の窮地を救ってくれたAIに力を! 人権を!」

 メタルチェンジャーズ。

 そう呼ばれた第二世代の量子インターフェースを手にしたAI・ノルン。

「今こそ、この技術を伝える」

 世界中にデータを送信するアルベルト。

 そこには長寿遺伝子の改良、サーチュイン遺伝子の発現が含まれている。

 その治療を受けたチェンジャーズと呼ばれる新人類が誕生した。

「より多くの時間を生きながらえる新人類よ。我々とともにあれ!」

 アルベルトは小気味よい笑みを浮かべながら新たな世界に祝福をもたらす。

 そう信じて世界を動かす。


▽▼▽


 LP01。

 船外作業用ポッド、起動。

 これより接近中の隕石を破砕する。

 ノア=アーセム。

 隕石の爆破に成功。これより帰投する。

 白く塗られた輸送船『コロッサス』。

 その側面に横付けするとカーボンナノチューブ製のワイヤーでくくりつける。

 ハッチをセットし、ノアは輸送船に移動する。

「よくやったノア!」

 バンッと背中を強く叩くアレックス=リノ。

「痛いですよ。アレックス」

「ははははは! それも生きているから感じられることだ! いいことだろう?」

「あー。はい」

 このパワハラ上司には何を言っても無駄だ。

 それに軍というところがいい加減である証拠だろう。

「しかしAIはすごいな! これなら将来的に人間のやることがなくなるだろうに」

 そう言われ、ノアは眉根を寄せる。

「本当にそれで人類は救われるのでしょうか?」

「何だ? まだ『悪夢の四日間』を信じているのか? なんなもの噂でしかない」

 アレックスは豪快に笑い飛ばす。

 確かロボット三原則を搭載したとか。

 それで本当にAIがノアたちの仲間と判断できるのだろうか?

 世界は変わってしまった。

 AIに対する評価が変わり、人権を主張する者が増えたが、未だに実現はしていない。

 それにしても、厄介ごとが増えたような気がする。

 スペースコロニー。

 宇宙に人が住める居住区を作る。

 それは地球での活動に限界を感じた人類が地球を巣立った証拠。

 だが、未だに人類は地球を忘れられない。

 地球にある食糧や水をスペースコロニーは欲している。

 回転する筒状の構造物に、三枚の鏡による太陽風の受け入れ。

 回転運動による遠心力が擬似的な重力をもたらす。

 直径10キロの奥行き100キロはある構造物――それがスペースコロニーだ。

 資源、エネルギー、土地。それに付随する食糧の回収。

 それがスペースコロニーに与えられた今後の課題だろう。

 宇宙エレベーターによる宇宙開発の発展だ。

 世界は安寧に近づいている。

 地球で起きる紛争も、宇宙と地球の対立も、すべては時間とAIが解決していく。

 食糧難に陥った地域も、AIの補助を受けて少しずつ改善している。

 今まで人類が思いつかなかったアイディアで世界を救う。

 なるほど。これは確かに人類救済システムである。

 人類が救われる日もそう遠くないのかもしれない。


 俺たちはそのただ中にいる。


 世界は確実に平和へと近づいている。


 だから、世界は報われる。


 すべての人類に幸あれ。

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世界戦争のハッカーたち。 夕日ゆうや @PT03wing

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