マイ・グッド・タイミング

そうざ

My Good Timing

 会社から駅に向かう道には幾つか信号機があるが、私は一箇所として立ち止まらずに通過出来た。そう言えば、今朝も青信号ばかりでスムーズに会社まで辿り着けたのだった。

 思い返してみるに、今日はずっと

 会社のエレベーターも全く待たず、途中で止まりもせずオフィスに行けた。昼時は満席が常のレストランは丁度先客が帰る瞬間に入れた。トイレも一つだけ個室が空いていたし、コピー機を使う時も前の人が使い終わった直後だった。

 あれこれと一日を振り返りながらホームまで上がると、最寄り駅まで直通の急行列車が滑り込んで来るところだった。

 気持ち良く帰宅し、先に入浴を済ませてテレビを点けると、朝から楽しみにしていた番組が始まる時刻ぴったり。いつもこんな風であれば、時間も手間隙てまひまも掛からず、ストレスが大幅に軽減される。明日は田舎から母が上京して来るから、今日と同じように過ごせたら最高だ。

 その夜、私は夢を見た。目抜き通りに出るや否やタクシーが通り掛かり、渋滞に巻き込まれる事なく目的地の墓地に到着した。折好おりよく暑くも寒くもない日和で、偶さかその場に居た僧侶が直ぐに念仏を唱えてくれた――。

 翌日、偶々たまたま玄関の鍵を掛け忘れたまま突然死していた私は、腐敗が始まる前のグッド・タイミングで母に発見された。

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