第3話

 数分後。慌てて夜の外へと二人して駆け出していた。


「光! 朝食は優しい兄である俺のトーストだ!」

「ほりがとう! ほひいちゃん!」


 もぐもぐと俺のフレンチトーストを走りながら瞬時に食べる妹を置いて、ひとまず公園に様子を見に行くことにした。


 そこに現れたのは、気象予報士や子供たちの姿はなく。

 満開の桜に覆われたこじんまりとした比水公園だった。いつもここには老人しか訪れない。おまけに噴水が中央にあるだけの公園だ。ただ単の……鳥たちの水飲み場でもある。


「ナニコレ? 異常気象? え? なんで、今、7月よ!」

 俺に追いついた光るが目を回して言うのだが……。


「ああ、寒いのになあ。桜くん。ご苦労様です! ちょっと、お尋ねしてもよろしいでしょうか、ここでテレビ中継とかされていましたか?」

「何言ってるの? おにいちゃん! いつも通り変よ!」


 なんだか……変だ!

 今日に限って……。


 その時、ズシンという地面からの揺れと衝撃と共に俺と光の身体がグラついた。咄嗟に地震だと思ったのは、勿論今朝の天気予報のせいだ。


「光! 伏せろ!」

「え! 何! 地震?! 伏せていいの?」


 比水公園を囲むかのように建つ住宅街がグラグラと激しく踊りだした。地鳴りは耳を塞ぎたくなるほどに大きくなった。桜の木々はこの上なく右へ左へと揺れ動く。

 

 そして、俺と光の影を消し去った。


…………


「やっと、地震が収まったぜーーー! 光! 無事か?! それにしても、なんだったんだろ?」

「おにいちゃんこそ……無事? それよりおにいちゃんと私の影が消えちゃった……影の世界だから? ねえ、おにいちゃん?」

「おう! なんだかそんな感じだな!」

 俺は未だカクカクとした足と腰を安定させる。

 今は自分の影と光の影のことはまったく気にしなくてもいい。

 それよりも、周囲の建造物や桜の木々はグラついただけでなんともなかった。桜の花弁もひらひらと普通に舞い落ちている。ほんとに有難いや。けど……。


「おにいちゃん。何か変よ? 避難勧告もないし……」

「あれ? そういや、なんで誰も外へ逃げてないんだ? 大きな地震なのにー! おーい、町民ーー! みんなまだ寝てるのかーーー?? おはようございますーー! 夜だけど朝の7時ッスよーーー!!」


 俺は比水公園から近くの住宅街に走っていくと、すぐそこの民家のドアをドンドンと叩いた。


 パリッとした背広姿のおじさんが平然とでてきた。こちらを不思議そうに見つめている

「なんですか? あなたたち?」

「ええと、酷い揺れが。いや、地震だったので、大丈夫かなーと……避難勧告はでていませんが、まだ余震の可能性もあるかと……避難した方がいいかなと……」

「え、地震? そんな揺れはなかったな。おーい、裕子。今、地震なんて起きたか?」

 おじさんは後ろを向いて、多分この人の奥さんに地震のことを聞いたようだ。

「え、地震? 何も起きてないわよーーー! きっと、小さい揺れだったのよ!」

 家の奥にいる奥さんも、平然とした声を返してきた。


「大丈夫だよ。何も起きていないよ」

「ええ?! あ、すいませんでした!」

「お騒がせしましたー!」


 俺と光は急いで踵を返すと、一旦家に戻ろうと光が言った。


「あれ? ここって? 確かついさっきまで俺の家があったよな……なあ、光?」

「うん……へ?」


 俺と光はその場で立ち竦んだ。

 二階建てで赤い屋根。築15年で庭が広い俺と光の実家が消えていた。元はおじいちゃんとおばあちゃんが買った新築の家だったけど、去年に二人共隠居生活をするため田舎に引っ越してしまっていた。以後、俺と光の二人暮らしだ。


「うん。さっぱりわからないよな光……」

「家がなくなってる? て、言うか。これからどこに住むのおにいちゃん?」 


 消えた俺の家。

 だけど、地面に落ちている郵便箱の中にある封筒だけが嫌でも目を引いた。郵便箱から飛び出だしている大きな白い封筒だった。

 なにかなと思って取り出そうとすると、あることに気が付いた。

 近所の寺田さんに、橋本さん。向井さんとかの家は無事だった。

 普通に立ち並んでいる。

 なんで、俺の家だけが?!


「あれ?」


 それぞれの近所の家には、郵便箱にこれと同じ封筒が箱に入り切らずに飛び出していた。

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