鴉 3

 夕飯を作った。




 天狗は夜はホストの仕事で居ないから、自分の分だけど、ついでに光の分も。


 食べないだろうなとは思ったけど、一応。






 カラスに言われて、天狗に言われて、でも最終的に拾ったのは俺だから。



 世話、しないと。






 でも、予想通り光は要らないって。






 ………何で。






 光が力なく小さく呟いた声がいつまでも耳に残った。






 俺は天狗以外知らない。



 正確には、話す相手は天狗以外にもたまに居るけど、それはみんな『人』ではない。



『人』は俺以外ここには、この天狗山には居ない。






 だから、どうしていいのか分からなくて、光のことはカラスに任せた。






 カラスはカラスの中でも一番賢いボスガラス。






 気に入ったんだろう。何故かは分からないが、光のことが。



 山のねぐらに帰らず、光から離れず部屋に居るということはそういうこと。



 もし何かあれば知らせるだろう。






 なかなかの年代物の冠水瓶に水を入れて、それをお盆に乗せて、光が居る部屋に持って行った。






「水置いとく」






 カラスから身を隠してるのか、布団に潜って、光は何も言わなかった。



 カラスはそんな光の横に、布団の上からだけどぴったりとくっついてた。






 ここは、この山は、人が居ない。基本人は入って来ない。



 それはこの山が天狗の住む天狗山で、入れば二度と出られないと言われているから。………って、天狗が言ってた。昔は普通に居たっつーのって。






 でも時々居る。



 自ら光のように入って来るやつが。






 何でって、何をしにって。






 死にに。命を絶つために。






 天狗は倒れてる光を見て言った。






『ほっとけばすぐ死ぬよ?だって刺さってるよ?首んとこ。矢が3本』






 それは、その矢は、本当に刺さってる矢じゃない。俺には見えない。



 それは。



 その矢は………。






『連れて帰っても同じだよ〜、カラス。その矢を抜かないならその子は死ぬ。その首のとこからどんどん腐ってく。その矢にどんどん、この山の『陰』が集まって行く。その子は腐りながらヘドロだらけになってそして………』






 カアアアアアアッ


 カアアアアアアッ


 カアアアアアアッ


 カアアアアアアッ






 天狗が話してる間、カラスは鳴いた。4回。天狗に向かって。



 そして黒い羽をばさばさと広げた。ばさばさして、尾をふるふると。






『怒るなよカラス〜。っていうかさ〜?お前はオスで、その子は男。っていうかそもそもお前はカラスでその子は人間だよ〜?』






 カラスは軽い口調で容赦ない言葉を吐き続ける天狗を威嚇して、光にしてみせた。『求愛』を。






『一目惚れ?カラスもやるねぇ』






 ピクリとも動かない光に、カラスはしてた。求愛行動を。






 それを見て俺は。



 見てて。俺は。






『こっちの鴉もかよ』






 しょうがないカラスたちだねぇ。






 笑う天狗の声が、背中に聞こえた。






 起きているのか本当に寝ているのか。






 見つけたときと同じようにピクリとも動かない布団の塊を見て、どうしたもんかと頭を掻いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る