第10話 トラブル

思いがけない遭遇はあったものの、その後の真依とのお出かけは楽しんで、深夜近い時間に帰宅する。


「昔はこんなことくらいで疲れなかったのになぁ。明日は動けなさそう」


「葵もお酒ばかり呑んでないで、食後に走るとかしたら?」


「そんなの絶対無理。ワタシが飽き性なの知ってるでしょ?」


「飽き性だね。まあいいか。そんなことより今日は疲れたし、早くお風呂に入って寝たい」


「一緒に入らない?」


真依のお風呂に入るの言葉に、今日はベッドで触れ合うだけの力はなさそうだしと、一緒にお風呂に入ろうと誘う。


「入るだけだからね」


「ワタシも疲れてるからそのつもり」


先に釘を刺されて、それには頷きを返した。


一緒に住んでいても平日はなかなか時間を合わせ辛くて、真依と一緒にお風呂に入るのも久々だった。


ワタシが先に入って、真依も体を洗い終えると湯船に入ってくる。


少し広めのバスなので、わたしが足を開いた間に真依は体を据えて、重なるようにお風呂を楽しむ。


「車はずっと2人で移動できるから、2人の時間が楽しめて良いね」


「でも、行きも帰りも渋滞に填まっちゃったから、時間はもっと気をつけないとだね」


「それは確かに。気候がいい内に次を計画しよう?」


「葵は仕事の方は大丈夫なの?」


「今の職場は残業はあるけど、今のところ休出とかはよっぽどじゃない限りなさそうだから大丈夫だよ」


「じゃあ、どこがいいか考えておくね」





真依といちゃいちゃして週末を過ごして、リフレッシュできたと思ったら、思わぬ落とし穴が待っていた。


水曜日の午後、カスタマーサービス部が使用している、問合せ管理システムで何らかのシステムトラブルが起きてシステム停止に陥ったのだ。


こういう場合はまずは復旧を優先させるのが普通だ。でも、システム停止に陥る兆候もなく、システムを再起動して問題ないかという判断ができない状況だった。


原因調査は保守開発メンバーを中心に進めている中、ワタシの役割はカスタマーサービス部の窓口なので、そちら側の調整に向かった。


カスタマーサービス部の主要メンバーと打ち合わせをして、暫定対応の方針を決める。


メールでの受付は時間が掛かる告知を出して、いったん停止する。

電話での受付は停止できないので、そのまま継続。

ただし、システムを使わずに管理するしかないので、Excelのフォーマットを急遽作成して直接入力してもらう運用とするで決まった。


今日の電話の受付時間はあと2時間程度。メールの問い合わせ対応がストップした分、そのメンバーにもサポートで入ってもらったので、今日はそれで乗り切れるだろう。


カスタマーサービス部の暫定運用が回り始めたのを確認してから、ワタシはシステム側のフロアに戻る。


今日の目処はついたので、後は朝までにシステムを本格復旧させる必要がある。


対応方針検討の打ち合わせに入ると、過去に問合せ管理システムの開発に関わったメンバーやインフラ担当のメンバーも集まってくれていて、15人は入る会議室がぎゅうぎゅうだった。


保守開発メンバーが、アプリケーションのログの解析結果、システムが落ちた時点でのサーバの負荷状況の確認結果など、一つずつ確認した内容を報告する。


そこからいくつかの考えられる事象が浮かび上がったけど、原因の特定には至らない。


とはいえ、再起動を試すという方向になった。


再起動時の確認ポイントを整理した上で、外部からのデータ連係機能は止めた状態で少しずつサーバを起動していく。


ワタシはサーバ再起動を進めるメンバーの状況を取り纏めて、周囲に連携する役割を務めることに決まった。とはいえ、メンバーからの連絡がないことには動けず、まずは待機だった。


経験上、帰れなさそうなパターンだとは気づいていて、真依にはシステムトラブルで帰れなさそうとメッセージは送っておいた。


真依も同じSEなので、システムトラブルと言うだけで状況を理解してくれるのは助かった。


21時を過ぎたところで、一番初めのポイントになるデータベースの起動までが完了する。次に進む前に、まずデータベースのデータやエラーのチェックに入る。


少し時間が掛かると聞いて、この隙に同じビル内にあるコンビニに買い出しに向かった。


コンビニは22時までだったはずなので、これが最後の買い出しチャンスだろうと少しは空腹を満たせるものを選ぶ。ついでに対応してくれているメンバーへの差し入れとしてお菓子もカゴに入れた。


レジをしているところで、後ろに並んだのが佳澄だった。


「佳澄、まだ残っていたんだ」


佳澄が支払いを済ませるのを待って、2人で10階のフロアに向かう。


佳澄の手にも食料があって、それは佳澄がまだ残ることを示している。


カスタマーサポート部から、今日の業務は終了したと1時間ほど前に連絡は受けていた。何か対応が必要だった場合を見越して、リーダが誰か残るとは聞いていたけど、それが佳澄だということだろう。


「わたし以外は解散してます。わたしは今日は午後から出勤だったので、復旧確認するために残ることになりました。明日の朝は麻倉さんが早めに出勤してくれることになっています」


「ご迷惑をおかけしています」


暫定の運用で今日は逃げたとはいえ、明日は正常に業務を行いたいのはカスタマーサービス部の本音だろう。だからこそ、システムに付き合って体制を残してくれているのだ。


「どこのシステムでも、時々障害は起きるものなので、気にしないでください」


「じゃあ、状況が変わったら佳澄にも連絡する。広い部屋で一人でいるのが淋しかったら、システムの方に来る?」


「一人での仕事には慣れてます」


あっさり佳澄に断られて、ワタシは自席に戻った。


委員長気質っぽいところが昔から佳澄にはあって、自分のテリトリーはきっちり管理をするタイプだったけど、今も変わらないらしい。

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