第15話

 両親は子どもたちが気づく少し前からよりを戻し始めて、外泊をした日を境に子どもたちもそれを察した。


「それで、その日にセックスしたのかなあ」


「セッ……」


 姉の逡巡に気づいているのかいないのか、弟は話を続ける。


「元は夫婦だったんだから、好きにすればいいけど」


 離婚した両親が新しいパートナーを得る。姉弟にとって、義理の父母ができるのとは違う。


 別れたとは言え、親が別のパートナーと肉体関係を結ぶのは、ちょっと煩わしい出来事だ。もちろん、親がいつまでも独身でいるのなら、子育ての苦労もねぎらって新しいパートナーを迎えることも祝福するのにやぶさかではない。そのパートナーを義理でも自分の親として認められるからはまた別の問題もある。


 一度は男女の関係を構築した二人だから、そうしようと思えば段取りは早いだろう。一から男女の階段を登るわけではないから。


「それ以前は、お母さんと会う時、妙にバツの悪そうな顔して私に告げてから出かけて行ったけど、それ以来、気楽に会いに行くようになったわね」


 子どもと両親、姉弟同士の面会は不定期だけれど決まりごとだからメッセージを送るだけですぐに決まった。特に智樹は姉からの呼びかけに都合が悪いと日時をずらすことは一度も無かった。弟は姉との面会を何よりも優先事項にしていたが、あまりにも淡々として毎回彼が現れるので、姉は気づかなかった。


「あっけらかんとして言ってくれたほうがいいわ。こそこそされるとこっちも気をつかうし」


 智佐から見てデートに出掛けて行く父は楽しそうだった。それでも帰りが遅くなると1時間毎に電話をかけてきたり、年頃の娘を一人家に残すのは心配だったようだ。


 智樹に母はどうだったか尋ねると、「帰りの時間だけ連絡があったよ」と言っていた。男の子だから滅多なこともあるまいと安心しているのだろう。


「智樹はどう思ったの?」


「え、何が?」


「お父さんとお母さんがよりを戻したことよ。思うところはなかったの」


「別に、好きにすればいいと思ったかな」


「ドライね、あなた」


「悪い意味じゃないよ。母さんもいつまでも一人で仕事と俺の世話ばかりしているのもかわいそうだし、楽しいことはたくさんあったほうがいいよ」


 自分も大人になるのはすぐとわかっているのだろう。そうすればますます母は孤独になるかもしれない。


「その相手が父さんなら、それが一番いいんじゃないかな。それとも、母さんもいろんな男と関係を持った方が世界が広がるかもな」




 

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