第14話

「ら、ラブホ……」


 智佐の顔がボッと赤くなる。こともなげに弟は言うが、智佐はそっち方面のワードに免疫が少なかった。


 ギョッとするのにも二つの理由がある。自分の身近な人間がそういう施設を利用することの想像自体がギョッとする。クラスメイトにも彼氏彼女のいる者はいたが、ホテルに行ったとかそこまであけすけに話をする人間がまだ智佐の周囲にいない。もう一つは、自分の両親の性交渉などなかなか想像したくないものだ。


「うう、考えたくない」


「おれたちだってそういう行為の結果、生まれたんだぜ」


 そりゃ、両親だってやることはやっているにキマっているのだ。両親が夫婦の営みをしていなければ自分も弟も産まれてきてはいない。


 忌避すべき話題ではないが、智佐は美人に生まれたせいもあって子どもの頃から異性のねっとりした視線に晒されてきたことがあり、自分が性的な対象として見られることへの警戒心があった。男性不信とまでは言わないが学校で幾人もから付き合ってほしいと申し込まれても前向きな姿勢は示せなかった。


「お試しもだめなのか?」


 そう言って落胆する男子もいた。そう言うことを言ってくるのは大抵、女慣れした男子だった。


「お試しなんてますますだめでしよ!」


 別に自分のことを潔癖と思っているわけではない。


 試しに付き合ってみて、本当に好きになることもあるだろう。若い学生の恋愛の入り口はそんな始まり方が多いのかもしれない。


 最初から相思相愛の大恋愛もあるだろうが、それだって多くは勘違いだったとわかることになる。


 きっと付き合っているうちに愛が深まる人間関係もあるのだろうし、夫婦関係などもそうして熟成されていくものなのだろう。


 しかしながら、1番身近な人間の夫婦関係と恋愛関係が破綻するのをまのあたりにして大いに傷ついた経験がトラウマになっていた。


 小学生にとって、両親の離婚はありふれた出来事にはなった。しかし、当事者、親同士は好きでそうするのだし、夫婦関係以外の世界もあってそうするのだから構わないだろうが、世界の変化に耐性の無い子どもにとってはたまったものじゃない。


 そうは言っても、今日日、親の離婚など珍しくもないのだが、そして傷ついた子供たちが大勢の中におり、子供たちはそのぽっかり空いた心の穴を抱えたまま大人になっていく。


 一度は壊れてバラバラになった家族が元の状態に戻ると言うのは、智佐にとって奇跡のような出来事だった。だからこれからの家庭を大事にしたい。



 


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