彼のにおい

結騎 了

#365日ショートショート 351

 主人が最近、臭う。

 でも仕方がないのかもしれない。彼もいい歳だし、こういうの、加齢臭っていうんだっけ。

 初めて出会ったのはもう随分と前のことだ。先に好きになったのは私の方だった。懸命にアプローチして恋人になったっけ。結婚してからも、私からの矢印の方がいっつも太かったけど。でも、それでも。主人は私を愛してくれている。そうに決まってる。

 会社の若い女の子に色目を使われたり、行きつけの小料理屋のママから誘われたり、主人はとにかくモテる。歯がゆいくらい、モテる。でもね、今はもう私だけの男。この家でふたりで過ごすの。これから、髪も抜け落ちて、体も痩せ細って、力尽きていくと思うけど。ずっと一緒にいようね。ふたりで、ずっと、一緒に。

 あっ、もう。いつまで寝てるの。ほら、眼球にハエがとまってるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼のにおい 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説