第11話
「馬鹿クソゴミ屑虫野郎様、僭越ながらあなたへの処分を決めさせていただきました。」
「はあ!?というか、その馬鹿クソなんちゃらっていうのはまさかこの偉大なる王太子様である俺様のことを言っているのではなかろうな?」
「そうですが何か?」
「貴様あああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
無表情で言い切った華奢なメアリーに、ガイセルが拳を振り上げた。
「うがっ!!ごほっ!がはっ!!」
「メアリーに手を出そうとするなんて、そんなに死にたかったんだね、ゴミムシゲスクソ野郎が。」
が、その拳は当然のことながらメアリーに届く前にギルバートによって掴まれることとなり、お返しとばかりに床にゴロンと転がされて馬鹿スカと蹴られる羽目になってしまった。
「ギル、私は大丈夫だからそれくらいにして。私、もっとコイツに赤っ恥かかせないと満足できないから。」
「はぁー、分かったよ。でも、次手を出したら瀕死にするからね?」
「良いわよ、流石にないと思うから。」
メアリーはにっこりと微笑んだ。
「アリーは2度あることは3度あるっていうことわざを知ってるのかな?」
「ここまで蹴られたら流石にしないんじゃないのかしら?」
「この馬鹿じゃなかったらそうだろうね。」
「前科がありそうね。」
「あるよ。」
メアリーはギルバートの言葉に絶句し、ギルバートは苦虫を噛み潰したかのような表情をし、額を押さえてやれやれと肩をすくめた。
「一応王族の人間だからと気をつかっていたけれど、この馬鹿クソゴミ屑虫クソ野郎に様付けと敬語を使う必要は無さそうね。」
「ははは、私もそう思うよ。」
早いうちから敬語を使うのをやめていたギルバートは楽しそうに笑った。
「さっさと起き上がってくれる?馬鹿クソゴミ屑虫野郎。」
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「ねぇ、あなたはこの世でお金で買えないものってなんだと思う?」
無表情で問うた質問は、商人であり守銭奴のメアリーらしいものだった。
「…………。」
「ねぇ、さっさと答えてくれる?」
「馬鹿には分からないと思うよ?アリー。」
「………そうね。馬鹿には分からないわよね。
この世でお金で買えないもの、………それは時間よ。」
「気持ちの間違いだろう!?」
ビシッと人差し指を指しながら真面目に言ったメアリーに、ガイセルがキレキッレのツッコミを入れた。
「気持ちは、………誠意を持ってお金を使えば買えるわ!!それに、お金持ちの人間の方がモテるわ!!」
「アリー、それは男からすると悲しい言葉だよ。」
「うっ、わ、私はちゃんとお金抜きでギルのことが好きよ。でも、そこにいるカロリーナ様はどうなのかしら?」
ギルバートに胡乱な視線を向けられたメアリーは、あたふたと慌てながら、カロリーナを自信なさげに指さした。
「………そりゃあ、こんなドクズ、地位とお金がなかったら近寄ろうとは思わないわよ。」
カロリーナはその整った顔をプイッと横に向けながらぼそっと呟いた。
「身も蓋もないわね。」
「あなたには言われたくないわ、この守銭奴が………!!」
「あら、嬉しいわ。私、守銭奴を目指しているのだもの。」
「うぇー、私、あなた嫌い。」
「嫌いで結構。私もあなたのことあんまり好きではないのだもの。」
「ふーん、そういうところは好みかも。」
メアリーは薄っすらと笑みを浮かべて、悪い笑みを浮かべて床に座り込んでいるカロリーナを見つめた。
「だ、そうよ、馬鹿クソゴミ屑虫野郎。あなたの魅力はその王太子っていうあなたには全くもって見合わない高ーい地位とそれによって手に入るお金だけだってよ。」
「…………。」
メアリーがにっこりと笑って言った嫌味たっぷりな言葉に、ガイセルは絶句した。今までモテていたのは自分の魅力によるものだと思い込んでいた彼からすれば、自分には地位と財しか魅力がないと言われれば当然の反応だろう。
「う~ん、顔もまあまあ良いんじゃない?」
「そう?整ってはいると思うけれど、私には全くもっていいようには見えないのだけれど。」
「あはは、それはあなたが婚約者様にゾッコンだからでしょう?」
「当たり前じゃない、この世で最もかっこいい男性はギルだもの。」
メアリーの口から当たり前のように紡がれる惚気にカロリーナは苦笑し、ギルバートは顔を耳まで赤く染めた。
「そうよ!私、ずっとギルに悪い虫がつかないか心配で心配で仕方がなかったのだけれど、あなたから見てギルは虫に媚びられていなかったかしら?」
「クラディッシュ小公爵様は人気は高いけれど、それはあくまで鑑賞対象としてだったわよ。さっきの凄まじい危険な笑顔は今日が初めてだったからね。」
メアリーはふむふむと頷いて先程のギルバートの輝かんばかりの最高の笑顔を思い出して頬を赤く緩めた。
「あなたがギルに手を出そうとしたあの笑顔ね。」
「えぇ。まぁ、虫についてだけれど、さっきので鑑賞対象から恋する相手に変わったご令嬢は多いと思うわよ?」
「潰すわ。」
「うん、可哀想だからやめてあげようね。恋するのは自由なはずだから。」
「うぐっ、」
メアリーは両思いになる前の自分の恋する乙女時代を思い出し、私のギルに恋するのを許すのは今回だけよ、と呟いた。
ガイセルは2人の不穏な会話を横目に、ギルバートに蹴られた腹を押さえて憎々しげにふらふらと立ち上がった。
「衛兵!!こいつらを牢にぶちこめ!!」
そして、あろうことか自分自身での解決を諦め、権力に物を言わすことにした。
困った衛兵たちは国王に視線を向け、やがて首を横に振った国王の意思に従い、なにもしなかった。
「衛兵、衛兵、衛兵衛兵衛兵衛兵衛兵!!!!」
自分の言うことを全く聞かない衛兵の様子に焦ったガイセルは地団駄を踏みながら怒鳴り散らした。
「5歳児?」
「3歳児で十分なんじゃないの?」
メアリーの言葉に、カロリーナが鼻で笑いながら言った。
あぁこの2人は絶対にくっつけてはいけない人種だった、ということに今更ながらに気がついたギルバートとその他大勢は、口を閉ざして固まってしまった。そして、その他大勢は解決できる可能性がある唯一の人間、ギルバートをじっと見つめた。が、ギルバートは申し訳なさそうに横を向いた。解決不可能ということだろう。
「ふふふ、いい性格してるわね、カロリーナ様。」
「そっちこそ、もう本当に最高だわ、コレット様」
「………メアリー、メアリーでいいわ、カロリーナ様。」
「あら、ありがとう、メアリー様。」
不穏な空気をばら撒きながら、ご機嫌に笑い合った2人を誰が止めることができようか。もし止めようとすれば返り討ち、というか、ガイセルへの怒りの巻き込みに遭うことなど目に見えているのにも関わらずだ。
だが、勇者は存在した。皆の期待に応えた勇者はやはりギルバートだった。メアリーの耳元に唇を持っていき、掠れた声で呟いた。
「アリー、私は早く君と2人きりになりたいよ。」
「ふひゃっ!!」
勇者ギルバートはこうしてこともなげに勝利を収めた。
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