いきなりの10日目の午前の部。

「ご心配お掛けしました」

『いえ、大丈夫ですか?』


 えぇ、唸って意識が朦朧としたまま、約1週間程過ごしました。


「すまん、勉強は進んだ?」

『はい、かなり。それこそ衣食住が揃ってるので』


「そっか、じゃあ教えて貰って良いかな」

『それよりローシュさんがどうだったのか教えてくれませんか?ずっと心配だったんです』


「いや、もうココまで酷いのは無いらしいし」

『でも、後学の為にもお願いします』


「お聞き苦しいしか無いが」

『是非、お願いします』


「まぁ、先ずは……」


 全身の血や細胞が入れ替わったのかって位に、色んな意味でトイレから出られ無い日が3日続いた。

 もう、飲んでトイレ、寝てトイレ。


 夜は長く寝られたけど、基本的にはトイレか寝るか水分補給か。

 そんで痛みが軽くなった4日目に、やっと入浴したのは覚えてるけど、もうフラフラで。


 何とかルツに爪切りをお願いして、また眠って。

 今度は起きてメシ、トイレ、寝るの無限ループが昨日の夜まで続いて。


 今朝風呂に入って、ビックリ。


『凄い伸びてますもんね、髪』

「そうなのよ、折角バッサリ切ったのに」


《痩せてしまった事には言及しないんですね》

『あ、いや、それは』

「痩せてる方がモテんの、向こうは。つかコレ位はまだデブですし」


《だそうですが貧困国と同じ体重は流石にどうかと、脳や生殖期の発育に問題が出るのでは?》


『ルツさん、もしかして僕の事そんな風に見てたんですか?』

《はい》


『はいって、詳しい検査はしてないですけど、知能指数に問題は無い筈です』

《今なら分かりますが、どう考えても未成年に見えましたし、それこそ発育に問題が有るのかと疑ったのは、最初だけですよ》


『じゃあ今はどう思ってるんですか?』


《まぁ、ヤれば出来る子、なのかなと》

「イジメられてた?」

『あ、いえ、それは大丈夫です。前までは僕が言わな過ぎただけなので』


《全くその通りです。意志薄弱と呼ばれる分類の子供かと思っていましたけど、ちゃんとした大人ではありましたから》


「ソコを疑うワケじゃないんだが、本当に大丈夫だった?」

『はい。けど、僕がそこまで心配される様に、そう弱く見られてしまってたって事ですよね。ごめんなさい』


「いや、うん、いえいえ」




 それから今度は、僕が今まで勉強して来た事を話す事に。

 ちゃんと理解しているかの確認も兼ねている。


『なので、もう常識を如何に広めるか、だと思いました』


「成程。それで作戦としては?」

『僕としては、王様に連れて来られた中流の移民って事で、ある程度の地位を得てから地方を巡業すべきかなと思います』


「ルツさんは」

《ルツと呼んで下さい》


「ルツ」

《妥当かと、なので同意、賛成します。ですがより良い案が有れば、ソチラに移行すべきだとも考えます》


「地位って、どの位?」

『あ、爵位は分かります?』


「全く分かりません」

『えーっと、ココです、前の世界とは違うんですけど。逆にその方が覚え易いかもですね』


「うい、熟読しますが」

《侯爵ですね》

『大臣職です。かなり高位になりますけど、僕らの様に移民の方も居るそうなので、問題無いそうです』


《ですが本来の出生国とはかなり地理的には離れていますので、遠征の際にキャラバンで流れて来た者を王が気に入って連れて来た。と言う事にします》

「します」


《好きにしろと言われてますし、既に許可も得ていますので、明日にでもトルコから戻る遠征隊と合流する予定です》

「遠征」

『遠征と言っても会談に近いらしく、聖地についての協力要請が有ったそうで』


《聖地の有る地域を近隣国で共有している状態なので、定期的に第三国が公平性が保たれているか視察に行くんです。今回はトルコが指定されたのですが、前回は我が国が選ばれたので、良ければ付き添いに来てくれないか、程度だったんですが。アナタ達を加入させる予定も加わったので、敢えて参加し、ついでに恩も売って来た。のが実情でしょうね》


『隣国とは国交はしてないそうなんですが、隣国の隣国は味方理論なんだそうです』

「あぁ、でも鎖国は鎖国状態なのか、成程」

《黒海を渡って来るので、港街で合流し、王城までの移動中に市井を知って頂ければと》


「それで、クリーナはどうすんの?」


 そう、選ばないって事を選ぶべきじゃない。

 どれか、どっちかを選ぶしかない。




『男子として、動こうかと』

「えー、勿体無い、生かそうよ」


『けど、それこそどっちかを選ぶべきなので』

「何で」


『ローシュさんにご迷惑を掛ける事になるかもだし』

「例えば」


『それこそ、何か、戦う様な事が有れば』

「有る?」

《いえ、殆ど無いかと、ズメウ達は強いので》


「ほれ」


『けど』

「君、ワシより小さいのに?」


『ぅう、でも』

「格闘技のご経験は?」


『無い、ですけど』

「じゃあケンカ」


『無い、です、でも』

「女を殴れるか?」


『それはちょっと』

「ワシは殴れるぞ、いざとなったら女子供でも殴れないなら女子してた方が良い。それこそ性別逆転させた方が、誤魔化しとか攪乱出来そうで、良くない?」


『でも、ローシュさんは女性ですし』

「まぁ、この胸が潰せる限界が、それこそ魔道具で何とかならん?」


《可能だとは思いますが、この国は女性が強いので、それこそお2人が女性でらっしゃる方が楽かと》

「じゃあソレで」

『けど』


「何でそんな結論になったのかを、話してくれんだろうか」


『それは、僕が中途半端だから……』


 ざっと言うと、選ばないのが卑怯に思えたから。

 守られるだけになるのは嫌だ、とか色々言ってるけど。


 要は女装に引け目を感じてるとしか思えんのよな、別に女装位、それこそ似合うんだから問題無いのに。


「うん、個性を無視する作戦なら立て直し、やり直しを要求します。ストレスは人を殺す事も有るんだ、楽しく改革しましょうや、ね?」


《ですね》

『良いんですか?』


《私は1度も、アナタの外見に関して文句を言った覚えは無い筈ですが》


 固まって悩んでる。


「アレじゃない、コンプレックス故に、そう聞こえてしまうとかは良く有ると思うが」

『そう、だと思います、ごめんなさい』

《いえ、言葉数を敢えて少なく絞った時期も確かに有りますが。先ずは聞いて、尋ねてくれませんか。でなければ考えは共有不可なんですから》


「開き直りにも聞こえるが、ルツは見極める立場でも有るんだし、どっちもどっちって事にしない?」


『はい』

《では、少し休憩しましょうか》

「おう」


《アナタはコッチですよローシュ、もう少し調節が必要だそうですから》


 何かと思えば、コルセット。


「何でや」

《姿勢の悪さを矯正する為と、キャラバン先での流行を取り入れた結果と、他国から見て高貴な身分だとした方が安全だからだそうです》


「キツいの嫌いなんだが」

『最初だけよ、はい真っ直ぐ立って、深呼吸』


「アリアドネさん」

『大丈夫、折ったりはしないから』


 あぁ、そんだけ締め上げるって事ね。


《じゃあいきますよ》




『はい、お疲れ様』


「はい、どうも、ありがとうございました」

『いえいえ』

《自分でしておいて何ですが、気に食わないですね、コレ》


「何故」

《胸も女性らしさも強調されて、凄く嫌です》

『あらあら、私は退散するわ、じゃあね』


「あの、まだ体力が戻ってないので、疲れてるんだが」

《どうしたら結婚してくれますか?》


「君がゲテモノ好きなのかどうか等を、見極めさせてくれんかね」


《婚姻歴が有るなら》

「それはあくまでも利用に耐えられる程度のブス、又は何かしらの利益にはなる程度のブスだと思われていた。と言う証明にはなるでしょうけど、だからと言って性格が良いか悪いか、マトモかどうかは別。それこそ世間的に褒められた容姿では無い犯罪者でも刑務所に居ながらにして結婚してる様な世界だったんです、運や巡り合わせも有るとは思いますが、問題は大事にされたかどうかで。止めましょう、もう少し落ち着いてからでお願いします」


《分かりました。ですが嫌な部分が有るなら教えて下さい、出来るだけ直しますので》


「追々、分かり次第、追って連絡させて頂きます」


 そう言って、部屋から追い出されてしまった。

 利用される事に怯える程、利用されたと感じる経験が有る、それだけ有能であったかも知れない証拠でも有ると思うんですが。


『ふふふ、一筋縄ではいかない子で助かるわ』

『あぁ、実に面白い』

《私は全く面白くないんですが》


『今まで愛だ恋だと言う事に疎かった、疎かにしていた対価よ、ねぇ?』

『何事も人生は学び、経験だ、と彼が言っていただろう』


《自分に無関係だと思う様な事柄について、学習意欲を如何に湧かせるか、大変難しい事だとは理解しましたが》

『心のままに動く事や、例え愚かしいと思える人の習慣でも、時には理にかなっている事も有る』

『真に無価値な者等、実は殆ど居ない、何事も資源としての価値は有る』


《人もまた資源、後は如何に使うか》

『そうそう、ただ使われるのでは無くて使う気で居れば、少しは価値を見出せるでしょ?』

『だが、それでも見い出せないとしても、誰かの為の道具にはなる。だが、余りにも酷い扱いをすれば、人は離れる』


《その線引きを明示し、コントロールするのが、人権》

『とも言えるわね、ふふふ』

『人が決める部分だと思える事に関しては、僕らも干渉は控えるよ、外の神々の怒りに触れても面倒だからね』


《そこも我々に考えさせる、ですか》

『そうね、ふふふ』

『まぁ、精々頑張りなさい。人類としての特異点、人と精霊とエルフの子よ』


《もしかして、アナタ達は》

『さぁ?どうかしらね』

『そう思って行動しても面白いかも知れないね』




 ローシュさんに手酷くフラれたのか。

 ルツさんが今までに無い落ち込み方をしながら、相談が有る、と。


『構いませんけど、何か有ったんですか?』


《迂闊でした、浅はかだったと反省しています》


『あの、もう少し、具体的にお願いします』


 本当に、こんなに言い出し難そうなルツさんを見るのも初めてかも。

 何だろ、どんな、どの事なんだろう。


《私の為に、彼女を呼んだのかも知れない。そうした側面を、全く、考えていませんでした》


『え、あの』

《多様性、希少性の面から私の子を神々が欲する可能性について、一切考えて無かったんです》


『あぁ』

《しかもアナタ方の血も混ざれば、より多様性の幅は広がる。果ては国益になるだろう、と》


『あの、ちょっと質問なんですが』

《はい、何でしょうか》


『好き、興味が有ると思ってるのは、操作されての事なんですか?』

《私には操られている自覚は無いですし、論拠も根拠も明示出来ますが、否定は難しいかと》


 証明出来無いなら。

 じゃあ、逆説的に証明する、とか?


 何だろうか、どう、証明を。


『あ、僕の浅知恵でも良いですかね』

《聞くだけ聞かせて下さい》


『えーっと、神様にも結界って』

《有効な筈です、彼らの説明が本当なら、ですが》


『じゃあ、ちょっとお願いします』

《分かりました、では……》



 そうして僕らは、未経験、疎いなりに計画を立てた。

 稚拙で、浅はかで、それこそ童貞丸出しの案。


 それでも、好転を望んでいたのは確か。


 ただ、僕らの価値観がローシュさんに合うかどうかを。

 その時は考えていなかったと思う。

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