名前決定

生きたゾンビの手足を切断して四肢欠損状態にする。

この状態で、俺は早々にゾンビの腕を切断面に添えると、ゾンビの腕が接着した。

次に、俺はそこらへんで拾ったゾンビの足を、先程手足を切断したゾンビに向けて近づけてみる。

が、ゾンビの足は接着する事は無かった。


「(やっぱ、自分の肉体じゃないとダメだよな)」


俺はある実験をしていた。

不意に思った事だ、俺の足が繋がったと言う事は、他の手足でも代用出来るのでは無いのかと言う事だ。

ゾンビと言えども、元々はナノマシンによる流用、人類の手助けをするものだ。

だから、ゾンビを使って、他のゾンビの肉体に引っ付くか試していたのだが、それは出来なかった。


「(俺は俺の体だからナノマシンを応用した結合が可能だったが、普通は出来ない事だ、遺伝子情報の違い、言うなれば血液がA型の人間にB型の血液を流す事は出来ない様に…)」


それが普通な事だ。

俺が記事で見た医療用ナノマシンの話も、個人の肉体からナノマシンを使用して適合率100%に近い機械細胞の結成をする、と言うもの。


だから、千幸が人体を癒す…いや、ナノマシンを人体に適合させる事は本来は有り得ない偉業であるのだ。

そして、本当なら、ナノマシンを肉体に流せば、機械細胞の命令信号によって増殖をする様に動かすのだが…。


「(あれから三日程、柊はゾンビでも無い人間だ、ゾンビはナノマシンの暴走によって、ゾンビになる筈だ…)」


今では柊の体には異常が見られない。

人間に噛み付くと言った行為すら見られなかった。

だとするのであれば…。


「(だったら…千幸は、正常なナノマシンを所持しているのか?)」


だとしたら話は通る。

俺がナノマシンに適合しているのも、元々は千幸に噛まれた事から始まった。

千幸だけは、ナノマシンが正常に働いているのだろう。

が、それであるならば、当の本人、千幸の意識が戻らず、ゾンビ…いや、今は犬みたいな感じか、…どちらにせよ、意識が戻らない、と言う言い方が正しいか。

何時か、千幸も意識が戻って、人間になる日でもあるのだろうか…。


「…もっと情報が必要だな」


俺はそう思いながら、実験に使ったゾンビを殺す。

流石にゾンビ一体では、レベルアップはしなかった。

ミノタウロスが死んで、学校には、外からのゾンビが流れて来た。


なんだかアレだな。

あのミノタウロス、もしかすれば、この学校に部外者が来ない様に守護していたのかも知れない。

そんな事を考えながら、俺は校庭から校舎へと戻るのだった。



校舎の方へと戻り、屋上を昇っていき、屋上に到着する。


「あ、お疲れ様です」「…」


俺の方を見て挨拶をする奴や、顔を見ない奴がいる。

柊を殺すと言う選択をした俺に対する言動に、何かしら不信感を得たらしいが、どうでもいい。

俺はすぐ、近くで眠っている千幸の方に向かうと、頭を撫でた。


「戻ったぞ、千幸」


頭を撫でると、千幸はゆっくりと顔を上げて俺の方を見る。

俺は胡坐を掻くと、千幸は俺の太腿に頭を乗せた。

こうすると、時折、二人で遊んだ時の事を思い出す。

俺が胡坐を掻くと、千幸は決まって、俺の方に頭を乗せて、マンガとかを読んでいた。

その事を思い出すと、俺は少し懐かしくなって、いつか意識が戻って欲しいと、俺は思った。


「ひらくん」


そして、俺の方にやってくるのは、裸足で、男子生徒のブレザーを着込んだ柊だった。

男子生徒のブレザー服はブカブカで、袖が手を覆っている。

俺が殺そうとした柊は何故か俺に懐いていた。


「あの、比良坂さん」


俺に話しかけてくる男子生徒の一人。

その手にはノートが握られている。


「言われた通り、考えて来ました!」


と、そう言われたので俺はノートを開く。

其処には、多くの名前候補が沢山書かれてあった。


「おー、やるじゃねぇか」


それは、俺の武器、その名前候補だった。

黒刀と、新しいアイテムであるスーツ。

この二つを使用しようとする度に、名前を決めて下さいって表示が出てくるからウザッたい。

なので、名前を決める事にしたのだが、俺はレベルアップをすると言う仕事があるので付ける暇が無い。

なので、仕事が無い暇そうな男子生徒と女子生徒を呼んで、武器に名前を付ける事にしたのだ。

そうして、候補が上がったらしいので俺は確認する。


『マグネットソード』いやダサイ。

『ライトニング・ライジング(双極電磁武剣)』おー、良いじゃねぇか。

『アルケミストキング(錬金王)』捻りがねぇな。

『トリスメギストス(大偉大錬金大秘術)』漢字が気に入らねぇけど、ルビは良いな。



「このトリスメギニスってなんだよ?」


名前の由来を聞く。


「トリスメギストスです…錬金術師、ですね、磁力を操ると聞いてたので、鉄を支配するもの、錬金術師、から連想しました」


はぁん。

ついでに、スーツの方の候補を見ると、一発で決まった。


「うし、この名前とこの名前を組み合わせて…そんで漢字はこれにする…」


完成した名前を入力する事にする。

俺が決めた名前に、奴らは嫌そうな表情をしていた。


「えぇ…」「昭和の不良…」「俺が考えた方が絶対良い」


黙れ。

もう決めた、つか入力した。

そうして、俺は二つのアイテムの名前を確認した。


雷磁玖釖臨皇崇討帥ライジング・トリスメギストス

磁力を操る能力を持つ武器。

基本的にこれを使って戦闘する事が多くなるだろう。

略称は『黒刀』。


在巣輝牡牛破湧動守通アステリオス・パワードスーツ

肉体強化をしてくれる補助機能武器。

これ一つで俺は絶大な能力値を上昇してくれる優れもの。

略称は『牛革』。


今日からこれが武器の名前だった。


大方、一週間程が経過した。

相変わらず、街は混沌としていて、騒ぎ声は無くなったものの、時折聞こえてくる破壊音と人の悲鳴が、僅かばかりの恐怖を刺激しつつあった。


俺は、校庭に毎日やって来るゾンビを倒す作業に専念していた。

ミノタウロスが居なくなった今、外に出ると言う目的は勿論あったが、最近は考えが変わっている。

ゾンビは出るが、少なからず平穏な毎日を過ごしている。


生徒共と一緒に生活するなんざ嫌だと思ったが、最近はそれでも悪くはないとすら思っていた。


「やっぱスゲぇな、このスーツはよォ」


俺の持つスーツ、通称『牛革』、コイツは着用者に対して十倍の力を引き出す事が出来る特殊性能を持つ。

これによって、そこら辺のゾンビならば、万力の様に潰してサッカーボール程の大きさにする事すら可能となった。


「…はあ、まあ片付いたな」


俺がゾンビどもで遊んでも、大して面白味を感じなくなりつつあった。

それは、単純作業になってしまうからと、レベルアップが見込めなくなってしまう、と言う二点であった。


そう、俺はこの一週間でかなりレベルアップした。

だが、そのレベルアップは、ゾンビを倒せば倒す程に上がり難くなっていたのだ。


だから、達成感と言うものが遠く感じてしまって、俺は単純作業を酷使している様な気分になって、面白くなくなっていたのだ。


「ちなみに…」


俺は、現在のレベルを確認した。



LV【43】

【肉体情報】

筋肉強化率/891.43%

骨格強化率/801.93%

神経強化率/844.78%

皮膚強化率/789.12%

器官強化率/631.92%

脳髄強化率/301.70%


【取得因子】

狼の因子/11.78%

蜘蛛の因子/20.11%

牛の因子/30.46%


これが俺のレベル。

この一週間で良くここまで成長出来たものだ。

だが、流石にレベルが上がり続けると、雑魚ゾンビだけでレベルを上げるのも一苦労だ。

やはり、ボス級にも該当するモンスターを倒すくらいしか、今後の大幅なレベルアップは見込めないだろうな。


日課を終わらせた所で、俺は屋上へと戻ろうとした。

すると、正面玄関口前で俺の事を待っている女の姿があった。


「ひらしゃん」


手を振って、袖が左右に揺れる。

柊が俺の戦いが終わるのを待っていたらしい。


「何してんだよ」


校舎のゾンビは粗方殺したからと言って、一人で居るには危険すぎる。

俺の方へとやってくる柊は、両手を広げて俺の体へと飛び込んで来た。


「えへへ」


何故、こんなにも俺に懐くのかが分からない。

俺は、そう思いながら柊の行動を受け入れていた時。

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