死に際
俺が片足のままで、動きが鈍くなっている事を知ったのだろう。
八本足を動かして俺の方へと接近してくるアリアドネ。
俺は黒刀を、思い切りアリアドネの方に投げた。
その刀は垂直に飛んでいき、アリアドネの胴体へと突き刺さる。
そして俺は地面を蹴って、その場から退避した。
向かう先は、ミノタウロスの方だ、あいつの遠距離での攻撃はとにかく煩わしい、あれさえ止める事が出来れば、勝率は格段に上昇する。
そういうワケで、俺は片足で走りながらミノタウロスの方へと向かっていく。
背後から詰め寄って来るアリアドネ、ミノタウロスは投擲はしてこない。
どうやら共通の敵として俺を認識したらしい、攻撃をすればアリアドネにも当たると思ったのだろう。
口から白い痰を吐き出そうとするアリアドネ、俺はその隙を突いて振り向き、鞘をアリアドネの方に向ける。
「戻って来い」
そう口に出して念じると、脳内の電気信号が鞘に通じていき、センサーが信号として刀に発信されると、命令によって刀がアリアドネからひとりでに抜かれて、俺の持つ鞘の方へと戻っていく。
刀が鞘に納刀されたと共に、俺は校庭の正門にある校門門扉に刀を向けると。
「引き寄せろ」
刀と、俺の体が金属製の校門門扉の方へと宙を浮いて向かっていく。
落下する様に移動する俺の目の前には、大柄なミノタウロスと、ゾンビの群れがあった。
俺は其処にむかって突っ込んでいくと共に、ミノタウロスの脇腹を斬り付ける。
それと同時に、近くに居たゾンビ複数に、刀で斬っておいた。
門扉前へと移動した俺は武器の力を発揮させる。
この黒刀の能力は、ひとえに言ってしまえば磁力操作だ。
予め磁力を発生させるナノマシンが刀の組織として組み込まれていて、この刀で対象を斬り付けると、ナノマシンの一部が攻撃対象に付加される。
武器にはS極とN極どちらかを任意で定める事が可能であり、それは斬った対象に対しても付加が可能。
アリアドネに突き刺した時にはS極、先程切ったミノタウロスにはN極。
ついでにそこらに転がっているゾンビにもS極を付属させた。
そしてナノマシンは斬った傷口から細胞置換していき、磁力を帯びた生物へと変えていく。
「こっちは片足って言うハンデをくれてやったんだ、そっちも動けなくなるくらいのハンデは必要だよなぁ?」
能力を発動させると共に、ミノタウロスに向けてアリアドネやゾンビたちが引き寄せられていき、密着した。
ゾンビやアリアドネの体積が体に圧し掛かり、思うように動けないミノタウロス。
腕を振り回して攻撃しようとするが、動けなくなったミノタウロスに刀で斬りつけて、磁力を発生、其処らにいたゾンビを切って磁力を与えて、ミノタウロスの腕に集中させて身動きを完全に封じさせる。
その状態で俺はミノタウロスの頭部に向けて黒刀を向ける。
切っ先をミノタウロスの眉間に合わせて、強く黒刀を突き刺すと、ミノタウロスは痛そうに声を漏らし、脳天を貫いた。
「死ね」
俺は黒刀を強く握り、ミノタウロスの頭部にN極を付属、その状態で黒刀自体にS極を付属させる事で、反発力を利用し、ミノタウロスの頭部を粉砕させた。
「ミノは死んだ…次は、テメェらだ」
ミノタウロスが死亡し、残されたアリアドネと校門から入って来るゾンビに黒刀を振りながら近づいていく。
「動けるもんなら動いてみろ、ははッ、経験値がいっぱいだぜ」
そうして、俺は気の済むままに、敵を斬り殺したのだった。
周囲のゾンビを殺しまくって、ようやく少なくなって来た時。
俺は校庭でゾンビの山の上に乗りながら自らのステータス情報を確認した。
【LEVELUP.+14:LV36】
【筋肉強化率/201.34%上昇】【骨格強化率/231.72%上昇】
【神経強化率/194.91%上昇】【皮膚強化率/129.98%上昇】
【器官強化率/100.76%上昇】【脳髄強化率/40.61%上昇】
LV【36】
【肉体情報】
筋肉強化率/436.01%→637.35%
骨格強化率/412.56%→644.28%
神経強化率/449.53%→644.44%
皮膚強化率/358.99%→488.97%
器官強化率/355.08%→455.84%
脳髄強化率/199.19%→239.80%
【接続機体】
・機体能力値/100.00%
・【日本刀型『NoName』】/50.00%
合計容量/150.00%
残存容量/79.80%
【取得因子】
狼の因子/11.78%
蜘蛛の因子/20.11%
牛の因子/30.46%
すっげぇ。
一気にレベルが14も上がりやがった。
流石ボス級なミノタウロスとアリアドネを倒しただけの事はあるな。
まあ、取得因子が二つ増えて、蜘蛛の因子と牛の因子、二つを所持する事になったけど。
「…けど、大きな拾い物もあったな」
ステータスが上昇しただけではない。
ボスらしいボスを倒した事で、俺は新しい武器を手に入れる事が出来た。
どうやら、完全に進化したボス級モンスターを倒すと、ナノマシンの転換によってアイテムへと変化するらしい。
【身体能力増強装置『NoName』】
【必要能力値】
牛の因子/30.00%
【必要容量】
脳髄強化率/30.00%
【特殊性能】
筋力増強付加/Grade.A
骨格増強付加/Grade.A
皮膚増強付加/Grade.A
これがミノタウロスを倒した事で手に入れる事の出来た新アイテム。
見た目はタイツみたいな代物で、黒色に白い線の様なものが刻まれている。
これを装着する事で、身体能力が上昇するらしい。
けど、どれもこれも、名前を設定する必要があるとか、そんなに必要か?名前を決めるのは。
俺はそう思いながら、校庭から出ていく。
その際に、切断した足を持っていく。
どうにか磁力の効果でくっつかないかと思いながら足の切断面を合わせてみると、驚く事に足が切断面にくっついた。
どうやら同じ肉体なら、切断面を合わせる事でくっつくらしい。
最早人間の肉体ではなくなって来て、少し寂しいなと俺は思った。
屋上へと登る。
保健室から持ってきた布や布団、それらを上に乗せて、柊が横たわっていた。
「これ治るの?」「分かんねぇよ!」「傷が深い…」「駄目だ、これはもう…」
手遅れだと、生徒たちは思っていた。
俺は、生徒たちを掻き分けて柊の前に立つ。
柊は、意識が朦朧としていて、時折目を開けると、気が付くとゆっくりと目を閉ざしていく。
血は止まらず、延々と流れ続けている。
どうにかならないかと思うが、医療の知識など無い。
彼女はどう足掻いても死ぬ、それが分かった今、もう俺は刀を構える事しか出来ない。
「何するんですか?!」
そう叫んで女子生徒の一人が彼女の前に立った。
「…柊を殺す」
俺の言葉に、委縮していた男子生徒たちは前に出た。
「止めて下さいっ!」「なんで殺そうとするんですか!?」
その様な声に、俺は淡々と言い放つ。
「こうしている間にも、柊はずっと痛み続ける、苦しい思いを、死ぬ時までな」
柊が回復する見込みは無い。
だから、せめて息の根を止めて、安らかにしてやる事こそ温情だろう。
「そ、そんな…」「なんで、あんたは、血も涙も無い事を言うんだよッ」「まだ、他に方法がある筈…」
俺は、目の前に立つ男子生徒を片腕で薙ぎ払う。
「思いだけで回復するか?考えるだけで手術の真似事が出来るのか?待ち望んでいたら奇跡が起きると思ってんのか?…思いじゃ何も変わらない、考えても知識は芽生えない、待ち望んでも、其処に起こるのは現実だ…現実なんだよ」
俺が、柊の上に立つ。
そして切っ先を彼女の喉元に添える。
突き刺す…いや、それは苦しいと聞いている。
俺は、刃を横にして、首を刎ねる事で彼女を死なそうとした。
その時に、柊はゆっくりと目を開く。
そして、俺の顔を見て、恐怖するわけでも困惑するワケでもなく。
愛おしそうに微笑んで、ゆっくりと俺に向けて手を伸ばす。
何も言わずに彼女は、脂汗を大量に流しながら、俺の行為を許容しようとしていた。
…いいや、許容なんてする筈がない。
それは俺の思い込みだ。
罪悪感を消す為の妄想に過ぎない。
「じゃあな」
俺が刀を振り上げる。
そして、柊の首を断つ。
寸前。
俺の背後から、何者かが押してきやがった。
それによって俺の体は前へと向かい、転びそうになる。
一体、誰が押したのか、俺は怒りを浮かべながら振り向くと。
柊の傍には、千幸が居た。
「ぇろ…ちゅう、っぷぁ」
舌先を伸ばして、柊の腹部に出来た傷口を舐め取っている。
「おい、何してんだ、千幸」
俺がそう言って、千幸を引き剥がそうとした時だ。
千幸が舐めていた傷口を確認する。
信じられない事ではあるが…舐めた箇所にあった筈の傷口が、消えていたのだ。
「…ナノマシン」
医療用に発達したナノマシンは、機械細胞の性質を人間の遺伝子へと変換させ、疑似細胞として臓器生成による移植手術、ナノマシンを投与する事で肉体に出来た傷口を防ぐと言った事が出来ると、その様な記事があったのを見た事がある。
もしも、それが実用するのであれば。
予めナノマシンによって機械細胞と化した肉体を消耗し、負傷者に分け与える事も可能だと。
朽見千幸は、それが出来るナノマシンを所持している。
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