レベル・オブ・ザ・デッド~ゾンビが溢れた世界で、ステータスが現れた俺は、『感染耐性』を得たのでゾンビに噛まれても感染しません、こんな世界だと俺に助けを求めるヒロインが多くなる、現代ファンタジー~

三流木青二斎無一門

死ぬ前に良い事を

朽見くちみ千幸ちゆき

高校に入って、馬が合う異性の友達だった。

家庭環境が悪い為、少年期の時にグレた俺は、一人孤独に生きていた。

夜遊びが毎日だった時、社会不適合者が集うグループの中で、俺は千幸を見つけた。


それからと言うもの、何気なく、俺と千幸は連れ添って遊んでいた。

思えば俺の人生は、その時から生まれて良かったと思えるほどに、面白い人生を歩んでいたかも知れない。


「ねえ、護良ごりょう


学校のトイレの個室の中。

俺の近くには、千幸が居た。

短い髪、染め上げた銀髪には赤色のメッシュを入れて、耳には凶器をぶら下げている様にピアスが付けられている。

彼女は、蒼褪めた表情をしていた。

トイレの外からは、ガリガリと、爪で扉を引っ掻く音が聞こえてくる。

今、薄いトイレの扉の奥には、映画でしか見た事の無い化物が蠢いていた。


「さっき、私、噛まれたんだけど、これ」


そう言って、千幸が、学生服の襟を引っ張って肩元を見せる。

肩には噛まれた痕が出来ていて、青色に変色していた。

それが原因で、彼女は段々と、表情が白くなっていた。


「あぁ、そうかよ…外に出ても死ぬ、此処に居ても死ぬってワケか?」


俺は絶望しながら、タイルに腰を下ろす。

背中越しから伝わってくる、嘗ての生徒たちの唸り声。

…つい一週間前、ある研究所で制作されていたナノマシンが漏洩したらしい。

細胞と同等である緻密で極小な機械で、ナノマシンを摂取すると、肉体の細胞をナノマシンに置き換える細胞置換が行われると言っていた。


医療や軍事で活躍するであろう機械細胞だったが、研究所は、不完全なナノマシンを漏洩してしまったらしく、ナノマシンの特性である細胞置換を行動として活動しており、人間がナノマシンに感染した場合、知性や理性と言ったものは消え失せ、細胞置換の散布…粘膜接触を行う。

つまり咀嚼行為であり、ナノマシンの命令により、感染者は人に噛み付く行為を積極的に行うのだ。


それによって、爆発的に感染者が増幅し、隔離準備をするより早く、この街に感染者が出現したらしい。


学校は既に、感染者の群れとなっていた。

ナノマシンを摂取してない人間を感知して噛み付いて来る。

まだ、俺は噛み付かれて無かったが、時間の問題だろう。


「死にたくねぇ…死にたくねぇよ、けど、生きてたら、食われちまう、スゲェ痛いんだろ、噛まれるって」


想像すらしたくない。

自分の死因すら、考えたくも無かった。

怖くて、涙を流す俺に、千幸は何を思ったのか、学生服を脱いだ。


「…ねえ、護良ごりょう、どうせもう助からないよ」


俺の名前を呼ぶ千幸。

慰めるのかと思えば、どん底に落ちる様な事を言ってきやがる。

下着姿になった千幸は、男子トイレの洋式便所に座って、俺に手を伸ばしてくる。


「どうせなら、私が噛んであげようか?」


人差し指で口端を引っ掛けて歯を剥き出しにする。

真っ白な歯、少し、尖った八重歯も見えた。


「甘噛みしてあげる…痛くしないから、さ」


スカートのチャックを下す。

次第に生まれたままの姿となる彼女に俺は心配した。


「おい、なんで…下着のホック外してんだよ、スカートも…」


半ば脱ぎ掛けた下着姿となる千幸を見る。

千幸ははにかんでいたが、表情は暗く、調子が悪そうに見えた。


「…どうせ、死ぬのなら、気分良く死にたいと思わない?」


唐突に、千幸は意味深な事を言って来るが…その言葉をそのままの意味で捉えるのならば、そういう事なのだろう。

段々と、表情を暗くさせていく千幸は、自分で自分を抱き締める。


「私は、死ぬのなら…誰かに抱き締められながら死にたいよ」


そして再び俺の方に顔を向けると、笑みを浮かべた。


「自分で言うのもあれだけど…私、結構おっきいし、顔も可愛いし、相手にとって不足は無いと思わない?」


自らの胸に手を添えて異性としてアピールしてくるが、痛々しいとしか思えない。

俺はそんな彼女を止めようとして立ち上がる。


「…やめろよ、自暴自棄になってんじゃ…」


慰めの言葉でも口にしようかとした時、俺の言葉を遮る様に千幸は重苦しい声色で言う。


「なるでしょ、こんな状況じゃ…」


トイレの外にはゾンビが居る。

既に千幸は噛まれていて、この先長くは無い。

この状況で、おかしくならない方がおかしい。

そうだ、俺はまだ噛まれてないから、冷静でいられたんだ。

彼女の事を考えたら…とても、冷静になんてなれない。


「私はもうすぐ死ぬ、噛まれて、自分が自分じゃ無くなってくる、意識が消えそうになってきてるの、怖いよ、私、死んじゃうの、一人でなんて死にたくない…」


怖くて、涙を流す千幸は、ゆっくりと俺の方に手を向ける。

ただ一人、俺が支えであるかの様に、いや、俺と心中しようとしているのだ。


「だから、気持ち良い事、させてあげる、させてあげるから…私と一緒に死んで?一人にしないで…」


彼女の手が俺の手首に回る。

ゆっくりと抱き締めてくる千幸の温もりは徐々に冷めていく。

あぁ、もうじき死んでしまうのだ。

俺の大切な友達は、此処で死ぬのだ。

俺は、死にたくはない、だが…彼女を残して生きるのは、とても辛い事だろう。


彼女の最期の男が俺だと言うのであれば、…それは死んでも良いと思えるほどに、幸福な事では無いのだろうか、と。

俺は思った、そしてそれは、決して彼女に同情を抱いたからではない、友達として俺は彼女の願いを叶える。



唇が触れて咥内を舌先が弄る。

唾液が絡まり、唇を離すと共に透明な線が生まれて糸を引く。

体と体を重ねて、昂る感情を抑える様に、痛みを抑える様に、千幸が俺の背中に爪を立てて、首元に噛み付いて来る。


これで俺も死ぬ。

その恐怖がある筈なのに、千幸が嬉しそうに俺を求めていた。

俺も、千幸を感じて、ただ、死の恐怖から目を逸らして、彼女を求めた。


個室、男と女の交る臭いが漂うトイレの中。

千幸は死に、俺も後を追う様に意識を失った。


筈。なのに。

目を開き、俺は生きている。

首に指を添える、千幸が噛んだ痕が残っている。

ナノマシンが俺の体内に侵入し、細胞置換によって俺の意識は死んだ筈だ。


「なんで生きてんだよ…つか、これ、なんだよ」


なのに俺は生きていて、目の前には、薄い下敷きの様なものが見える。

そしてそこには、俺の情報が書かれていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


名前/比良坂ひらさか護良ごりょう

年齢/18 性別/男性 職業/高校生


LV【01】

【肉体情報】

筋肉強化率/100.00%

骨格強化率/100.00%

神経強化率/100.00%

皮膚強化率/100.00%

器官強化率/100.00%

脳髄強化率/100.00%


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


名前と年齢、性別に職業…そして、レベル…。

更に俺は視線を下に向けると、別の情報が視界に入った。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【耐性】

感染耐性/100.00%

火傷耐性/001.25%

麻痺耐性/000.31%


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感染耐性が、100%?

…俺が死んでないのは、これが原因、なのか?



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