新しい仕事

結局、朝目覚めた時から、体が重くて…。俺は、夜まで動けないままだった。


何とか体を引きずり、針山さんに紹介されたスナック(ルージュ)にやってきた。


「あら、イケメン」


「こんばんは。あのハリーさんに…」


「ああ、聞いてる。飴ちゃんでしょ?」


「はい。今日からよろしくお願いいたします」


俺は、深々と頭を下げる。


「よろしくね。私は、ママの常磐和子ときわかずこよ」


「俺は、雨宮千歳です。よろしくお願いします」


「よろしく。じゃあ、また女の子きたら紹介するから。後、これ、入るかしら?」


「着替えてきます」


「よろしくね」


俺は、ママに渡されたスーツに着替えた。


ここだけで、やっていけるかな?


そう言えば、この近くのバーが、そういう相手を探せるってスタイリストのかー子が言ってたな。


昨夜の電話ー


「へー。美麗と別れたんだ」


「今、大人気だからな。スキャンダルは困るだろ?」


「だね。でも、美麗、結構落ちるだろうな」


「ないない。氷室が好きだから。氷室は、相変わらずか?」


「キスマーク消すの大変なんだよ。あのクズ野郎。美麗は、やろうみる目ないわ。飴ちゃんのがいいのに…」


「かー子、美麗はクズでも氷室が好きだよ」


「ま、飴ちゃんは、美麗と出会うまで特定かれしいなかったわけだから…。新しい出会い探しなよ。両方いけんだから。バー、風鈴ふうりん寄ってみ。出会いあるかもよ」


「ありがとう」


この電話は、俺と美麗を繋いでくれたスタイリストの桜宮佳子さくらみやかこ。通称かー子からだった。


俺は、スーツを着てママの所に戻った。


「やっぱり、イケメンね。俳優目指してたけど、声がよくて声優にされたってハリーちゃんに聞いたけど、本当?」


ママは、そう言って煙草に火をつける。


「はい、そうです」


ひかりの王子様のクズ王子役だったって聞いたけど、本当?」


「そうです。女たらしの無職のキャラクターでしたね」


「あのアプリも、3ヶ月で打ちきりになったみたいね」


「ただ、3ヶ月でも俺以外のメンバーは売れましたよ。爆発的にね」


「そうね、仕方ないわね。うちと似てる。芸能界も水商売と同じよね」


ママは、そう言いながら煙草の煙を吐き出してる。


「俺は、タイミングを逃しただけですよ。誰も悪くありません」


「そうね。仕方ないわ。運も才能。あ、きたきた。従業員の恋ちゃん。ボーイの雨宮千歳さん、お店では飴ちゃんでお願い」


「初めまして、南沢恋みなみさわこいです。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「もう一人が、珠理ちゃん。平日は、基本この三人だから…。週末は、七瀬ちゃんと、美里ちゃんがいるけど、また紹介するわね」


夏目珠理なつめじゅりです。よろしくお願いします」


「雨宮千歳です。よろしくお願いします」


「珠理ちゃん、飴ちゃんでよろしくね」


「わかりました」


二人に自己紹介を終わらせると、俺は店の看板に電気をつけに行く。ルージュは、開店と同時にお客さんがやってきた。


「飴ちゃん、アイスお願いします」


「はい」


思ったよりも、忙しいお店だった。


ママがお悩み相談を聞いてくれるこのお店は、かなり人気らしい。お店が終わり、珠理さんと恋さんが帰った後、ママは、俺に話しかけてきた。


「お疲れ様、初日大変だったでしょ?」


煙草に火をつけて、ママが話し出す。


「まさか、こんなに平日で忙しいとは思いませんでした」


その言葉に、ママはすぐに笑った。


「いやになって、すぐボーイ辞めてくのよ。もっと暇だと思ってたってね。フフフ」


「俺もこれ程、忙しいとは思っていませんでした。それを三人で捌いてるとは…」


「でしょ?基本的には、私に悩みを相談するお客さんが中心だけどね。恋ちゃんも珠理ちゃんも、根性あるわ。珠理は、今年30だからもう10年。恋は、今年27だからもう7年か…」


そう言って、ママは懐かしい表情を浮かべて微笑んでいる。



「あっ、飴ちゃんって両方いけるタイプなんだって」


「ハリーさんがいいましたか?」


「私が聞いたのよ。前に居たボーイが女の子に手を出して二人で辞めたから…。これ以上減ると困るから」


「そうだったのですね。どちらかというと、男が好きな方ではありますが、両方いけます」


「ハハハ、素直ね。だったら、話が早いわ。そこのバー、風鈴に寄って帰ってくれない?」


「どうしてでしょうか?」


「恋ちゃんの話、聞いてあげてよ。毎日、あそこで抱ける人探してるの聞くの辛いのよ。じゃ、お疲れ」


俺は、ママにそう言われた。


「わかりました」そう言って俺は、店を出て風鈴に足を運んだ。

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