第22話 ほの暗い企み

「ここに向かって男女の二人組が接近している。そして恐らく、ただの旅人ではない」


 野営の準備も終わり、一旦腰を落ち着けようとした頃。俺達が準備している間にも横合いの森の中で周囲を警戒していたトゥエンティから告げられた報告。


 その詳細な続きを聞いたのはトゥエンティと共に拠点から少し離れた場所に移動した俺だけだった。


「お前の見立ては?」


「恐らくは、盗賊かそれに類する者。表面は偽装しているが歩行や振る舞いに癖を感じる」


「影の住人同士、通じるモノがあるという訳か」


「……」


 軽い探りにトゥエンティは何も答えない。こいつがただ単純に魔王討伐の戦力として俺達と同行している訳じゃないというのは明らかだが、現時点では一行の安全保護や目的遂行に否定的な訳でもない。


 俺の指示にも従順で能力的にも優秀な人材。敵対や離反は避けたいところだ。


「しかしそうか、盗賊……」


 まだ確定してはいないが黒と見て動いた方が良さそうだな。だがメルクーアまでの道中、人数を誤魔化す為の同行者は居て損は無い。


 その二人組の目的地はまだ分からんがここからメルクーアは近く、別の場所が目的地でも経由する可能性は十分にある。道中を共に出来る可能性は高いだろう。


「──これから俺がその二人組と接触する。その間、お前は森に隠れていてくれ。初手で奴らが偽装を止めて襲ってきた場合は合流して対応する」


「偽装を止めなかった場合は」


「待機だ。その場合、恐らく俺はその二人組を拠点に招き偽の身分で交流を図るだろう。ここは気にしなくて良い。人数差を考えるとその場で手を出してくるとは考えにくい。問題はその後、日が落ち切った後の夜闇に乗じて強奪を図る可能性が一番高いだろうな」


「その場合は──」


「捕らえる。俺と、その直前まで森に隠れ存在を認知されていないお前の奇襲で対応すればまず負けないだろう」


 正直、盗賊だろうが何だろうが要は俺達に害を与えなければそれで良い。メルクーアに着くまでの間に何も仕掛けてこなければ問題は無いんだが、向こうが仕掛ける事を選択するならそうも言ってられん。


「他の面々に共有は」


「しない。腹芸が不得意そうなのが二人居るからな。奴らが盗賊かもしれないという警戒は俺達ですれば良い」


「対応は捕らえるで良いのか」


「余裕があるのならそれで頼む。無ければ躊躇しなくていい」


 そうなった場合、殺す前に一つがあった。出来れば生きたまま捕まえたい。


「……分かった」


「済まないな。面倒な役目を負わせて。休息の時間を削る事になる」


「構わない。自分が適任だと理解している」


「なら良い。頼んだぞ」




 ☆




「よっ……と」


 気絶し、縛り上げた男を地面に降ろす。名前はディスマだったか。横には同じように縛られ転がされた女、ケスタとそれを実行したトゥエンティが居る。


「二人共生け捕りか。ご苦労だったな」


 トゥエンティの相変わらずの黒づくめには一切乱れが無く、どこかに傷を負った様子も無い。相手にとっては不意だったとはいえ、この程度の盗賊を捕らえるくらいはコイツにとって些事なのだろう。


「休息を取ってくれ……と言いたいところだが、やってもらいたい事がある」


「何だ」


「ヘレンをここに呼んで来てくれ。その後、俺達が戻るまで見張りを頼みたい。戻った後は休息してくれて良い」


「……何故」


「教育だ」


 変わらず話を聞き続けるトゥエンティ。俺は服の袖に挟み、手首と挟むように隠し持った札の存在を意識する。


「お前もここに来るまでで分かっている筈だ。ヘレンアイツの未熟な甘さと、魔王討伐という目的に求められる現実的な選択。そのズレを」


「……」


「それを何とか出来そうか、ここで一度試してみたい。だからコイツらには協力して貰おうと思ってな。お前なら、その必要性を分かってくれると思うんだが」


 トゥエンティは押し黙る。そして数秒の沈黙の後、ヤツはその場から歩き出した。


「指示に従う」


「具体的に何をするのか、言った方がいいか?」


「構わない。目的達成へと向かうのに必要であれば、自分は従う」


 そう言い残してヤツは闇に消えた。手首の札から意識を外す。


「ふう」


 現時点でヤツが俺に敵意を見せて来るとは思わないが、警戒して損は無い相手だ。目的達成へと向かうのに必要であれば、というのは逆に言えばヤツがそうは思えないと判断すれば対応が変わる可能性があるという事だ。


「ヤツには他の面々に理解され難い指示も任せそうだな。余計な事も喋らんだろうし。取り扱いには注意が必要だが。……さて」


 気絶した二人組の身体を点検し、武器や武器になり得るモノを全て取り除いた後に適当な布で口を塞ぐ。横目に見えたのは二人組がそれぞれ担いでいたデカい荷物袋。


 ここは奴らが使っていた野営地だ。俺達の拠点からは十分に距離がある。何が起ころうと、向こうにそれが伝わる事は無い。


「アイツはどう動くか」

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