第3話 ナンパされているお姉さんを助ける!

「ゆ~ず~、お姉たんと一緒におしゃけのも~? お姉たんと、おしゃけ飲みながら~、一緒にえーがみよ~? ねえねえ、ゆ~ず! ゆ~ず!」


「……姉ちゃん、飲みすぎ。明日休みだからってハメ外しすぎ、明日になって恥ずかしくなる奴だよ、これ。もう寝てきなさい、飲み過ぎです!」


「えへへ~、お姉たんは~、こんな事で恥ずかしくないもん! だってぇ~、ゆずの~、お姉たんだもん! えへへ~、ゆず~、ゆず~! ゆ~ず~、お姉たんと遊ぼ、昔みたいにあ~そ~ぼ! ゆず、ゆ~ず~、ちゅちゅちゅちゅ!」


「ああもう、キスしてくんな! また悪酔いしやがって、いっつもいっつもこんな風に……そんなんだから彼氏できないんだぞ、姉ちゃん! もうダリアさんとか結婚したんでしょ、そろそろ自覚持って!」


「んちゅ、ゆ~ず……ぴえっ! ゆずが言っちゃダメな事言った、おねえたんに言っちゃダメな事言った! うわ~ん、ゆずがいじめてくるよ~、ゆずがお姉たんのこと、いじめるよ~! ぴや~ん!!!」


「……めんどくせぇ……」



 ☆


「よし、普通に買えたな。結構でかいけど、しょうがないか……ふい~、お茶が美味い!」

 次の日のお昼過ぎ、大きな荷物を抱えた俺は一仕事終えたという風にペットボトルのお茶を飲む。


 一応売り切れとかも警戒して少し早めに土曜日の11時に来てみたけど、普通に置いてあった、全然売り切れる気配もなかった。ていうか人がいなかった、ラッキー。


「よし、お仕事完了! 帰宅しますか、早めに……姉ちゃんが迎え酒して、また変なテンションになってるだろうし」

 というわけでラッピングもしてもらえて、ちゃんとプレゼントらしくなったところで、俺は帰宅します、家に帰るとアル中姉ちゃんが迎え酒しながらお昼ご飯を待ってるはずなので……全く、養護教諭なんだからちゃんとしてほしいんだけどね、本当は。


 昨日も酔っぱらって意味わかんないめんどくさい絡み方してたし、お風呂も入らず寝てたし、迎え酒とか絶対健康に良くないし、料理も掃除も出来ないし、お見合いで15分でチェンジって言われるし、キス魔だし、それにそれに……あれ?


「ちょ、やめてください! その……いやっ……」


「おーおー、何嫌がってるんだよ、こう言う事して欲しかったんだろ? そんな格好して、誘ってるんだろ、お姉ちゃん? 俺と遊ぼうや、気持ち良くしてやるからな!」


「ちがう、その……んんっ、だれか……助けて……あんっ」

 姉ちゃんの愚痴をぐちぐち言いながら、飲み切ったペットボトルを捨てようと路地裏に入ると、不穏な会話が耳に入る。


「ハハッ、こんなところに助けなんて来ねえよ! おとなしくなれって、そう言うプレイか? おいおい、お姉ちゃんも楽しんでんじゃん! こんな美人のくせに、欲求不満なんだろ? やりてえんだろ、感じてるんだろ!?」


「違う、本当に……だ、誰か……誰か、助けて……あっ、嫌っ……」

 建物の影からチラッと様子を見てみると、露出多めな服を着た黒髪のキレイな長身のお姉さんが、チャラそうな男に絡まれていた。

 ナンパ、というよりは痴漢みたいに、強引に腕を掴んですらっとキレイなふとももを触って、舐めまわすようにそのお姉さんを……これは事件の匂い! お姉さんから、助けてって聞こえたし! 嫌がってる人は助けないと、俺の出番じゃい!


「お姉ちゃん、俺といい事しようや! 大丈夫、めっちゃ気持ちよくしてやるから! そう言う事、して欲しいんだろ! 誘ってんだろ、したいんだろ? 美人は性欲も強いって言うからな、俺のが欲しいんだろ? いやー、こんな美人を抱けるなんて今日の俺持ってるわー!」


「違う、私はただ……」


「はいはい、ストップストップ。お姉さん、嫌がってるでしょ、手離して。強引なのはダメです、俺好きじゃないな! そう言うのダメだと思う、強引なのは好きじゃありませんし、犯罪です!」

 二人の間に割り込んで、精いっぱいの威勢を張りながらお姉さんの手とふとももを掴んでいた男の手を振り払う。


 俺を見た男は、さっきまで下卑た笑みを一気に怒りに変えて、

「……おいおい、何だよクソガキ、邪魔してんじゃねえよ! 気持ち悪いぬいぐるみ抱えやがってよぉ! 今から俺とこいつでいいことするんだ、ガキはすっこんでろ! お前にゃ分かんねえのか、この姉ちゃんも喜んでるじゃねえか! なあ、姉ちゃん! 俺としたいんだよな、俺のぶっといの欲しんだよなぁ?」


「ぶっとい……いや、違う、私、そんな事……助けて、手塚君……」


「え、こわ、キモ……こほん。どう見ても嫌がってるようにしか見えないけど? 絶対嫌がってるでしょ、無理やりは犯罪ですよ? 早くどこか行ってください、警察呼びますよ! もしもしポリスメンしますよ! あと割と可愛いでしょ、このぬいぐるみ! ちゃんと見たら結構可愛いですからね! このオオサンショウウオ、可愛いんですよ、本当に! 酒飲んで潰れた俺の姉ちゃんみたいで!」

 男の圧に少しビビってしまったけど、怯えた表情でギュッと俺のもつぬいぐるみの頭を握りしめるお姉さんを見てもう一度闘魂注入、でも若干ビビりながら、再び男に毅然とした態度でそう言う。


 警察って言葉を言っとけば大丈夫だろう、多分諦めてどっかに……あれ、そう言えばお姉さんさっき俺の名前呼んでた?

 何で知ってるの……あぁ、ワッペンか。姉ちゃんが昔酔っぱらってつけた「Y.TEDUKA」のワッペン、まだカバンについてたな。


 ま、とにかく大丈夫、これであの男も……あ、あれぇ?

 なんかすごいニヤニヤしてるよ、なんでだぁ? 全然帰る気配ないぞ?

「はー、合意なんですけど? こういうプレイなんですけど? 無理やりするみたいなプレイしてるだけなんですけど? なぁ、姉ちゃん!!! こういうプレイが、お前は好きなんだよなぁ? なぁ?」


「ひえっ……」 

 俺の言葉なんて聞いたこっちゃないという風に、男はニヤニヤと下劣な笑みを浮かべながら、俺越しに震えたか弱い声を出すお姉さんに近づいていく。

「ちょ、やめてください! 近づくのダメ! ダメです、ダメ!!!」


「ハァ、てめえに何の権限があるわけ? 何の事があってそう言ってるわけ? 俺とこいつは大人の関係なんだよ、邪魔すんな!」


「嫌っ、嫌っ……!」


「ちょーっと、本当に近づくのやめてください、怖がってるでしょ! 震えてるの見えないんですか、ちょっと……ああもう、背が高いからって、もう……もう! やめてください、マジで! 本当に警察呼びますよ! さっさと去りやがれ!!!」

 クソ、俺が身長低めだからってバカにするんじゃねえぞ、これからが成長期だ……なんて恨みも込めながら、震えて怯えて動けないお姉さんに伸ばされた男の手をサッと弾き、バサッと両手をお姉さんを守るように広げながら、思いをぶつける。

 ホント早く諦めろよ、こいつも! どう考えても脈なしだろ、怯えてるだろ! 諦めた方がお前のためだぞ、前科はつかないけど厳重注意されるぞ!


 でも、そんな思いもその男に通じず、激情のにじむ顔で舌打ちしながら、

「チッ、調子乗んなクソガキが! お前みたいなガキが首突っ込むんじゃねえ、俺とこいつは大人の会話してんだよ、わかんねぇガキは家帰ってママのミルクでも飲んでやがれ!」


「俺16ですけど! 姉ちゃんと二人暮らしで今は親もいないんですけど! という事で手伸ばすな、早くどけ!!!」


「だったらその姉ちゃんのミルク飲んでやがれ、クソガキが! この姉ちゃんは俺のもんなんだよ、さっさとどくのもサツのお世話になるのもクソガキ、てめえの方だ!!! 俺の女に手を出してんじゃねえよ、クソガキ! ぶち殺すぞ!!!」


「デート後10分で無理、って言われてヤケ酒してるうちの姉ちゃんがミルクなんて出るわけねえだろ! あれからミルク出たら病気だわ、それか逆レイプ! 出頭か入院かの2択なんだよ、俺の姉ちゃん舐めんなよ!」


「うるせぇ、てめえのドブスの姉には興味ねえよ!!!」


「姉ちゃんは顔とスタイルだけはその辺のアイドルより良いんだよ! 顔と身体だけはマジで凄いからな、あんまり俺の姉ちゃん舐めてんじゃねえぞ!!!」


「うぉ……」

 ……なーんて威勢のいいこと言ってはいるものの、戦況としては押され気味。

 普通に男の方は身長高くてガタイが良いし、顔も怖くてさっきから口は良く回るけど足はずっとすくんでるし。


「ひえっ、殺す……怖い、助けて、手塚君……手塚君……ひゃぅぅ……」

 お姉さんの方ももう足がガクブルで立つことも出来ないのか、ぶるぶる震えながら、俺の背中にぴとっと体重を預けるようにもたれかかってて、もう限界のようにぶつぶつ怯えた表情で何か呟いてるかなり危ない状況だし、こんな状況じゃ逃げ出せもしないし。

 でも背中のぽよぽよな感覚は結構幸せ……じゃない、そんな事考えてる場合じゃない! この男、どうするか考えないと! 


 お姉さんは一人では逃げれなさそうだし、どうにか二人で助かる方法考えないと……あ、そうだ! お姉さんには申し訳ないけど、その……これしかない!


「……あの、お姉さん。すぐ終わりますんで少しだけ話合わせてくれませんか」

 何故か男が怯んで、少し考え事をしているラッキーもあったので、俺は背中に引っ付きながらビクビク怯えているお姉さんにそう耳打ちする。


 お姉さんはビクンと大きく身体を震わせて、

「ふえっ……え、手塚君、ゆず君、何……何?」


「え、なんで名前まで……まあいいや。そのですね、話は……」


「おいおい、何ごちゃごちゃ話してるんだよ、俺の女と! 一瞬お前の姉の事考えてたけど、やっぱりなしだ、俺の女はこの女だ! おいクソガキ、俺の女に手だしてんじゃねえよ!そいつは俺の女だ、さっさと返せ! 今なら一発ぶん殴るだけで勘弁してやる!!! 早くしないとブタ箱行きだぜ!!!」


「……ああもう、わけわかんない事話してるんじゃねえよ、ブタ箱行きはそっちじゃろがい! 人が恋人と話してるときに意味わかんない話で邪魔するな!」

 ああ、もう変なタイミングで復活しやがって、この男は!

 おかげで変なことになりそうじゃん、俺もこいつと同類みたいな……で、でも分かってくれるよね? 話の流れ的に大丈夫だよね?


「……ハァ? お前何言ってんの? 意味わかんないんだけど、邪魔してんのそっちだろ? 俺が自分の女と、話そうとしてるんだが?」


「意味わかんないのはそっち! 穏便に済まそうと思って言わなかったけど、この子は俺の彼女なんだよ! 俺の恋人なんだよ、この子は!!!」


「は?」


「!?」

 俺の言葉にポカーンと間抜けな表情をする男に、ビクッとまた小さく震えるお姉さん……ごめんなさい、ごめんなさい! でも、しょうがないんです、ごめんなさい!


「お前何言ってんだ? お前がこいつの彼氏なわけないだろ?」


「あるんだなぁ、これが! 俺は姉ちゃんとは違うからね! 今日は俺とデートだったんだよ、だからこんな格好してるの! 俺の趣味なの、この服装は! ね!」


「え、手塚君、私の……え、あ、はい! そ、そう、だね! うん、知らないよね、気づかないよね!」

 ごめんなさい、ホントごめんなさい。なんか意味わかんない事言わしちゃってすみません!

 もう少しだけ我慢してください、この茶番に付き合ってください!


「おいおい、困惑してるじゃねえか! 今考えた嘘だろ、それ! ていうか、そいつは俺の女だし、そんな嘘ついてないで早く返せ。偽証罪で逮捕だぜ、無期懲役食らっちゃうぜ?」


「3か月以上10年以下だよ! 偽証罪はそっちだろ、俺とこの子はつきあってるんだから! ね、ね~! つ、付き合ってるよね、俺たち!」


「う、うん! そ、そうだね、ゆ、ゆずく……ゆず! 付き合って長いよね、私たち! ゆずと付き合って結構、経つよね!」


「ゆ、ゆず~? なんだそれ、気持ち悪いなぁ!!! それが名前なわけないだろ、第一お前もずっとこの子、って呼んでるよなぁ? やっぱり嘘ついてるだろ、お前? 俺の女が欲しくて、嘘ついてんだろ……ぶっ殺すぞ?」


「そ、そっちだって女呼びだろ、アマゾンかよ……そ、それに個人情報が心配なだけだ、名前くらい知ってる! 普段は名前で呼んでるし!」


「はいはい、嘘乙嘘乙! そんな見え見えの見栄張るなよ、クソガキが! よし、一発殴らせろ、その後女は貰ってく!」


「ひえっ、ゆず……」


「ああ、待って待って暴力反対、ラブ&ピース! 知ってる、ちゃんと名前知ってるって、もちろん! えっと、その……」

 ……名前、どうしよ?

 七瀬ちゃんの名前勝手に使うのはアレだし、朱里は男だし、他の女の子ももしこいつの餌食に……

「⋯⋯お!」

 あ、そうだ! 一つ、絶対大丈夫な名前がある! 昨日覚えたあの名前なら、絶対大丈夫!


「おいおい、言えないのか? それなら……」


「み、美鈴! 美鈴!!!」


『!?』


「み、美鈴だ、綾瀬美鈴……俺の恋人のこの子の名前は綾瀬美鈴だ……ね、美鈴。美鈴と俺、ラブラブだよね!」



 ★★★

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