筋肉ムキムキマッチョマンの先生

 教室に入ってこちらに向かってきたのは――筋肉ムキムキマッチョマンの体育会系の先生……大岩おおいわだった。

 相変わらず岩のようにデカイ。大怪獣のように迫力満点だ。


「……生徒会長・桜田」

「はい、先生。なんでしょうか」

「少しだけ四月朔日を借りたい。いいか」


「春風さんを? それは構いませんが……なぜ」

「詳しくは話せない。お前はここで待て」


 春風さんも思い当たる節がないのか、複雑そうにしていた。


 いったい、なんの話があるんだか。

 気になるが、俺は待つしかなかった。


「じゃ、行ってくる」


 そう言って、俺を一瞥いちべつする春風さんは『心配しないで』と言っているようだった。



 * * *



 昼休みが終わる頃に春風さんは戻ってきた。

 ちょうど授業が始まったから、何があったのか聞けなかった。気になるなぁ……。


 休み時間になって聞こうと思ったけど、春風さんはどこかへ行ってしまう。


 なにか用事があるらしいけど、これではいつまで経っても話ができないじゃないか。



 結局、あれから放課後。



 俺は彼女が教室を出てしまう前に止めようと思ったが、春風さんは俺の方へ向いた。あれ……もう用事は終わったのかな。


「そ、その春風さん」

「生徒会長、構ってあげられなくてごめん」

「か、構うっていうか、午後はずっと何をしていたんだい。先生とは何を話していたんだ?」


「それね。やっぱり気になる?」

「そりゃ気になるよ。教えてくれないと一週間は眠れそうにない」


「あはは……そっか。それは困るね」



 足を組み、いつものクールな表情で春風さんは俺の方を向いてきた。そう見つめられると……照れる。



「それで、どうしたんだい」

「いやぁ、解決はしたよ。わたしには生徒会長よりも権限があるからね」

「ん? どういう意味だ」

「そのままの意味だよ。おかげで大岩も追い返せたし、然したる問題にはならなかった」


 生徒会長だって、それほど権限があるわけではないけどな。

 設備管理だとか、予算編成とか催しを決定するくらいのものだ。あと地域ボランティアとか先生のサポートしたり、精々その程度。


 それ以上となると、いったいなんだ?


「なら、ひとつだけ教えてくれ。大岩は、春風さんに何を言ったんだ?」

「……それは」


「俺の予想だが、昨日、二人乗りしたのを目撃されて学校にバレとかじゃないか。さしずめ、あの不良グループが告げ口したとかだろう。大岩にな」


 そんなところだろうと思ったのだが、春風さんは――突然、噴き出した。


「ぷっ――あはは……。違う、違うって。そんなんじゃないよ。それに、わたしはちゃんと免許持ってるし、二人乗りタンデムだって問題ないわけだし」


 それもそうだよな。

 春風さんに、なにも落ち度はないはずだ。

 なのに呼び出されたのは……うーん、謎は深まるばかりだ。


「だよなぁ」

「生徒会長ってば悩み過ぎ。いつか教えてあげるからさ」

「いつかって、今じゃダメなのか」

「うん。今はちょっとね」


 海よりも深い事情があるらしい。

 しつこく聞くのも嫌われるだろう。この辺りで追及は止めておいた。


 でも、無事で良かった。

 あの大岩は暴力こそ振るわないものの、行き過ぎた生徒指導をすると有名だからな。何人も不登校になっていると聞いていた。


 だからこそ、心配もあった。


 だが、あの大岩を黙らせてしまうとはな……春風さんの“権限”とやらが気になるな。


「そうか、安心はしたよ」

「それじゃ、今日もどこかへ行く?」

「あぁ、すまない、春風さん。今日は生徒会室へ行かないと。……春風さんも来るかい?」


「生徒会室ね。あんまり興味はないけど……わたしが居ても大丈夫かな」

「大丈夫だよ。副会長、書記とかみんな良い人だからね」



 ここ最近、副会長に任せっきりだった。少しは顔を出さないと、怒られる。

 席を立ち、教室を出た。


 春風さんと一緒に歩くと、なんだか目立つな。

 他の生徒が何事かと俺たちを凝視する。


 そんな見られても、なにも出ないぞ。



 ――さて、もうすぐ生徒会室だ。

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