お弁当を作ってくれる隣の席のギャル

 休み時間は終わった。

 残りの授業も淡々と進んでいく。

 気づけば昼休みを迎えていた。


 教室内は弁当を食べたり、食堂に向かう生徒で別れている。


 俺は、いつもの干し芋・・・を頬張っていく。

 農家を営んでいる爺ちゃんからの贈り物だ。


「生徒会長ってさ、いつも干し芋それ食べてるよね」

「ウチは貧乏なんだ。タンポポやツクシを食べて生き永らえているんだ」


「……まじ? お金ないの?」


「築三十年を超えるズタボロアパートで親父、義理の妹と三人暮らしだ」

「は!? か、会長に義理の妹? うそでしょ……」

「嘘なもんか」


 俺は証拠としてスマホの写真を見せた。

 そこには金髪ツーサイドアップにして地雷系メイクを全開にした少女が映っている。俺の義理の妹――来花らいかだ。


 不幸に遭ったある家の娘を親父が引き取ったらしい。

 高校二年と年下。年頃の女の子なので気が合わないかと心配したが、驚くほどに意気投合していた。


 今や本当の兄妹のように接している。


「来花ちゃんって言うんだ。可愛いね……ていうか、地雷系。そういうこと」


 ジト~っとした目で見られたが、我々の業界ではご褒美でしかなかった。……いかん、表情が綻ぶところだった。

 ポーカーフェイスを保て、俺よ。


「まあな。春風さんも干し芋食べる? さっきのパンのお礼だ」

「それは嬉しいけど、それよりお弁当作ってあげよっか?」


「…………オ・ベントー?」


「未知の言語を使った覚えはないけど。お弁当よ、お弁当」

「なるほど、お弁当か。――ええッ!? 春風さん、料理できるんだ」


「意外だった? 自分で言うのもなんだけど、これでも家庭的なんだから」



 そうだったのか。そんな風には全然見えないけど、料理するんだ。

 へえ、春風さんの手料理かぁ……自信有り気だし、きっと美味しいんだろうな。



「でもいいのかい。負担とかさ」

「いいよ。自分の分も作るし」


 普段は食堂らしいが、今後は俺の為にお弁当に切り替えてくれるようだ。なんだか悪い気もするけど……本人が良いというのなら、お言葉に甘えようかな。

 おこづかい毎月五百円の俺からしたら、美味い飯が食えるのは非常にありがたい。神だ、天使だ……仏様だ!



「ありがとう、春風さん。お願いしたい」

「素直じゃん、生徒会長。そういうサッパリとした回答は好き」


「あ……ああ、干し芋食べるか」


 笑みを向けられ、俺は思わず誤魔化した。

 たまに見せる微笑は特別で……素敵だった。俺は、なんでこんなにもドキドキしているんだ? なぜ顔が熱いんだ。


 この心の奥底で煮えたぎる感情はなんだ……!?



「じゃ、遠慮なく貰うわ」



 脳が混乱している中、春風さんは干し芋を味わっていた。



「どうだい? 食感とか味」

「う~ん、初めて食べたかも。意外と柔らかいんだ。しっとりとした食感で……甘すぎず丁度良い味わいね」


「そりゃ良かった。聞いたら爺ちゃんが泣いて喜ぶよ。しかも、ギャルに褒めてもらったとなると土下座でもするかもな」


「この干し芋って会長のお爺ちゃんが作ったの? すごいね」


「野菜とかいろいろ送ってくれるんだよ。唯一の生命線だな」

「……会長ってどんだけ貧乏なのよ」


 呆れながらも春風さんは、干し芋を完食した。


 それにしても……宇都宮さんの心配そうな眼差しが度々向けられているな。そんなチラチラ見られると気が散るのだがな。


 次回は場所を変えようかな。


 ――なんて考えていると、いつの間にか教室が騒然となっていた。……なんだ? 誰が入ってきた……?

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