第15話


 その後、クラスメイトの度肝を抜くカイルの質問で緊張がほぐれたのか、フレイアとの質疑応答を終えた生徒たちは解散を告げられるとそれぞれ思い思いの時間を過ごすべく教室を後にした。


 日本の学校と違う、魔法学院に興味津々だったカイルはすぐ教室を飛び出すと、人の流れに逆らうようにして校内を見て回っていく。


 他の生徒たちはいち早く寮へと戻り、部屋に運び込まれている大量の荷物の整理を急いでいる様子だ。


 しかし、カイルは闇魔法で主要な荷物を収納してきているので、荷解きも少なく済むため、このような時間の使い方ができていた。

 気の向くままにぶらぶらと校内の見学をしてから帰った彼が寮に到着したのはだいぶ時間が経過してからだった。


「えっと、僕の部屋は……」

 寮に入ってすぐのところに各フロアの地図が掲示されており、一年生は二階の部屋だと書いてあったのを思い出しながらカイルは寮の中を進んでいく。


 一階は食堂や大浴場があり、二階が一年、三階が二年、四階が三年という振り分けである。


 カイルはその案内に従って、中央の階段を上がっていく。

 その先にあった大きめの扉を開けて部屋に入ると、そこは談話室になっていた。


 ソファや椅子がたくさんあり、生徒たちがのんびりと休憩をしたり、会話やミニゲームなどを楽しみながら交流をしたりするエリアになっているようで、たくさんの生徒でにぎわっていた。


「──貴様のような者がいると、空気が穢れる!」

 その一角で揉め事でもあったのか、いらだちを込めた声がカイルの耳に入って来た。


 遠巻きに人だかりができている。


(なんだろ?)

 近づいてみると、どうやら誰かが誰かを罵倒していて、それを生徒たちがやじ馬となって取り囲んでいるようである。


「そ、そんな、ただ座っていただけじゃないか……なんでそれで殴られなきゃいけないのさ……!」

 怒鳴られている人物は、泣きそうな弱弱しい声を出しながらしりもちをついている。

 その頬は赤く染まっており、握りこぶしを作っている相手側に殴られたというのがわかる。


 学院の制服は基準的なものから貴族たちが自分たちのスタイルに合わせて組み合わせたりしている。

 そのため、カイルは商家の出であるがゆえにいろんな生地を知っており、相手の生徒の服装から貴族であろうと予測した。


(貴族って本当にこんな偉そうな態度をとったりするんだ……それに、あの倒れているのって僕と同じクラスの……?)

 しりもちをついている生徒の名前はわからないが、同じ教室にいた生徒であることをカイルは覚えていた。


 カイルの記憶では前の方の席に座っていた生徒で、切りそろえた茶髪をもち、身長は小さめで小柄。一見して気弱な印象である。

 対する貴族の生徒は人を見下すような下卑た笑みを浮かべた細身の少年。貴族であることをひけらかしているような雰囲気を感じる。


「お前らのような最低クラスの人間が我々と同じ空間を使うのは目障りなんだ! 貴様らがいるせいで空気が穢れるだろうッ! 平民風情がこの場所を使うな!」

 さも当然のようにそう言い放ってキレた貴族の男は、再度カイルのクラスメイトを殴ろうと振りかぶる。


「──ねえ、君って僕と同じクラスだよね?」

「うわっ……!」

 そんな二人の間にヌッと笑顔のカイルが割り込んだため、貴族の男は驚いて後ずさる。

 だがカイルは貴族の少年に一切目を向けず、クラスメイトと思しき少年に顔を向けている。


「……えっ? あ、君は確かフレイア先生に質問をしていた……」

 彼もカイルのことを覚えているらしく、おどいた顔をしながらそんな言葉を返す。


「そうそう、僕の名前はカイル。よろしくね」

 にっこり笑ってデリアを見たカイルは自己紹介すると、未だ地べたに座っているデリアへと手を出しだす。


「う、うん、僕はデリア。よろしく……」

 デリアはこの状況で声をかけてきたカイルに驚き戸惑いながらも、自ら名乗ってそっと彼の手をとっていく。


「お、おい! 貴様もこいつと同じクラスだな! だったら一緒に『教育』してやろう!」

 自分を無視して話を続けるカイルがFクラスであることを知った瞬間、ニタリと笑った貴族の男がカイルに勢いよく殴りかかろうとする。


「おっとっと、危ないなあ。そんなにけんか腰にならないでよ。それにお互いの名前も知らないのにこんなことをするのはどうかと思うよ。あ、僕の名前はカイル。よろしくね」

 ブンっと大きく振りかぶった貴族の少年の攻撃をあっさり回避したカイルは笑顔で自己紹介をしていく。


(こいつ、魔法を使ったな)

 殴りかかろうとした貴族の少年を見ていたAやBクラスの生徒の一部は、カイルが魔法を使って貴族の少年が殴る動きを少し邪魔していたことに気づく。


「おい、ターク! F組の前で醜態をさらすなよ!」

「っ、クソッ! き、貴様のような最低クラスの者に名乗る名前などない!」

 一方で当の殴りかかろうとした生徒はなぜ攻撃が空ぶったのか全くわからず、大衆の面前で避けられてからかわれた恥ずかしさもあいまって、一層カイルたちに対する態度が強硬なものになる。

怒りに顔を真っ赤にしていた。


「なるほど、じゃあひとまず名無し君と呼ぶね。それで、名無し君はなんでデリアのことを殴ったの?」

 標的が自分に移ったことを認識しつつ、デリアをかばうように立ったカイルは仮称名無し君に質問を投げかける。


「な、名無しなどではない! 私には、ターク=マルドルフという名がある!」

 名無しといわれてバカにされたような気持になったタークは苛立ち交じりに自分の名を告げる。

 それを聞いたカイルは一層笑顔を深めてニコリと笑う。


「ターク、ね。で、なんでタークはデリアのことを殴ったの?」

 この段階になってくると、最初の違和感に気づかなかった野次馬の生徒たちも何かがおかしいと気づき始める。


 ただ質問をしただけのカイルだったが、彼の言葉には魔力がのっており、その波動にタークが気圧されている。


 自分と同じクラスメイトが馬鹿にされていることで、カイルは少し怒りモードになっていた。


 しかし魔力の波動はタークだけに向いているため、彼の顔色だけがどんどん悪くなっている。

 底知れぬ力をカイルから感じているタークは汗だくでなにも言えずに一歩、二歩後ずさった。


「──あっ!」

 そして、顔を真っ青にしたままよろよろと後ずさったせいで足がもつれて転びそうになってしまう。


「大丈夫か」

 そんな彼の背中を支えたのは、キリッとした表情と落ち着いた雰囲気から冷静そうな性格がうかがえる生徒である。

 内側が赤く外が黒いマントを羽織り、状況を探るように冷ややかなまなざしを向けている。


 タークの側にいて上質な生地のマントを羽織る彼は恐らく貴族であり、上のクラスなのだろうとカイルは予想する。


「俺の名前はサイクス。サイクス=オールデライトだ」

 低く威厳のあるような響く声音の彼が名乗りをあげると、生徒たちがざわつく。


「オールデライト家というと、あの魔剣士を輩出しているっていう」

「サイクスっていうと、天才って噂されているやつじゃないか!」

「もうかなりの魔法を使いこなせるってきいたぞ!」

 どうやら彼の家は誰もが知っているようで、野次馬の生徒たちは口々にサイクスのことを噂していた……。


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【あとがき】

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https://kakuyomu.jp/users/katanakaji/news/16817330658696691191


※注意

こちらの内容は小説限定部分も含まれております。

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