第11話



「それでは、順番に部屋の中でテストを行って行きますので、名前を呼ばれた方から入って下さい」

 新品の制服に身を包んだ生徒がたくさん集まる魔法学院の中央ホールにて響いたその声は、試験担当職員の言葉だった。


 十二歳になったカイルも新品の制服に身を包み、わくわくした表情で試験の順番待ちをしながら周りを見ていた。


 説明によると新入生たちは魔力の総量、コントロール、威力をはかる三つの試験を受けて、その結果でクラス分けがされていくようだった。


 試験で高い評価を受ければ上のクラスになる。

 王立校生は実力がすべて──上のクラスになれば授業でも日常生活面でも優遇されると言われていた。

 だからこそ、生徒たちは一部を除いて緊張した面持ちで試験に臨んでいる。


(どんな試験なんだろう、楽しみだな)

 その中にあって、カイルは一人だけワクワクした表情で列に並んでいた。


 家族と師匠ミルナ以外で、誰かに自分の実力を見せるのは初めてであるため、他と比べた自分の力量を測れるのは期待に胸が膨らんでいるカイルは自然と笑顔になっている。


 ざわつく生徒たちの中で待機していると、次々と列は消化されていき、いよいよカイルの番が巡って来た。

 誘導されて部屋の中に入ると小さな教室のようなところで、二人の試験官がいた。

 少し進んで大きなテーブルをはさんで二人の前に立ったカイルは促されるまま素直に学生証を見せる。


「カイル君ですね。それでは、前に進んでソレに手を乗せて下さい」

 テーブルの上にあった用紙とカイルの学生証と顔を確認した試験官が指をさした方角、カイルの少し斜め前には小さなサイドテーブルのようなものがある。


 その上に手のひらサイズのライオンのぬいぐるみが試験官によって出されており、お座りの姿勢で置かれていた。

 かわいらしいもふもふのライオンの胸のあたりには数値を示すカウンターがついていて、現在は0を示していた。


(ぬいぐるみ?)

 なんでこんな場所にぬいぐるみが置かれているのか疑問に思って首を傾げる。


「手を乗せるだけで自然と魔力量を測定してくれますよ。魔力量に合わせてカウンターに数値が表示されて、それが結果となります」

 優しい顔立ちをした穏やかな女性試験官のその言葉にコクリと頷いたカイルは、ぬいぐるみにそっと手をのせた。


 するとぬいぐるみが目をくらませるほどの強い光を放ってカウンター部分がグルグルと回転している。

 カイルからすればただ手を乗せただけで、ぬいぐるみが異様なほどガタガタと大きく揺れ動き、暴れまわっているので内心驚いていた。

 その勢いはどんどん増していき、カウンターが壊れるのではないかと思うほどである。


「あ、あの、これって大丈夫なんでしょうか……?」

 いつまでも止まる様子がないため、カイルは思わず確認してしまう。


「い、いや、こんなことは……」

「あぁ、初めてのことだ」

「何をしたんだ!?」

 多少時間がかかることはあったが、それでも十秒程度で結果が出ていた。

 これまで何年も数えきれないほどの生徒たちを見てきたであろう試験官たちも見たことのない事態に驚きを隠せず、二人とも困惑の表情だ。


「いえ……僕は何も……」

 能力を測るために、ぬいぐるみから手を離すわけにはいかないため、カイルは困惑しつつも冷静に答える。


 まだ本気すら出していない状況に戸惑っていると、ぬいぐるみのカウンターはさらに湯気でも出ているのではないかというくらい激しく回転し、先ほどまでの勢いが嘘だったかのように、ぴたりと停止して数値を表示する。


 しばらくの間全員が固まってしまうが、プスプスと焼け焦げたかのようにボロボロになったぬいぐるみの胸のあたりには結果が記されていた。


『000000』


 Fランク:0~50

 Eランク:51~500

 Dランク:501~1000

 Cランク:1001~3000

 Bランク:3001~5000

 Aランク:5001~10000以上


「……判定結果はFランクですね」

 これまでこのぬいぐるみで測れない魔力量をたたき出す新入生はいなかったため、スコアは試験官たちにとって絶対だった。

 そのため、この評価基準の中で異常事態を引き起こしたカイルの数値は結果的に0という判定になり、Fランクという判定を受けてしまった。


「──うーん、なにも変なことしたつもりないんだけどな……」

 少し不満に思いながらもその結果を持って、カイルは部屋を出ていく。


 これまで壊れたことのないぬいぐるみが動かなくなってしまったことで、カイルのあとはちょっとした騒ぎになった。

 だが結果は結果ということで、カイルは最低評価のままで次の試験部屋へと移動している。


 少し離れた場所にあった第二試験会場は先ほどの部屋よりも広く天井も高い。

 年老いた男の試験官の後ろにはいくつもの魔力球が勢いよく縦横無尽に飛び交っており、手前にある天球儀のようなアイテムでスコアを計測するようだ。


 魔力コントロールの試験ということで、動く的を相手に魔力球をいくつ命中させられるかを試すと言う。


 制限時間は五分間で、その間にいくつ命中させられるかで評価する。

 生徒の立ち位置は決まっており、足元に描かれた円の中で魔法を使うようだった。


「A判定は101~200ですよ。……さて、準備はいいかね?」

 説明する試験官が確認するように問いかける。

 その横ではスコアを計測して書き留める役割の試験官がいた。


「いつでも大丈夫です!」

(的にいくつ命中させられるか、しかも時間制限があるとなると……これだね)

 ザっと全体を確認し、どんな方法で攻略していくかを考えながら、カイルは開始の合図を待つ。

 先ほどの失敗を挽回すべく、どうしたら高スコアをたたき出せるか考えを巡らせていた。


「それでは、用意……開始!」

 その言葉と共に、待ってましたとばかりにカイルは手の中で魔法を発動させる。


『カイル、お前は全ての属性を使うことができるが、学院ではそのことをできるだけ隠しておいた方がいいだろう。必要に迫られない限りは風魔法だけを使え……いいな?』

 いつだったかそう語っていた師匠であるミルナの言葉を思い出しながら、カイルは風の魔法球を生み出していた。


「なっ、こ、これは!?」

 カイルが展開した魔法を目の当たりにし、試験管の一人は信じられない光景に驚き、大きく目を見開いている。


 もう一人は声すら出せず、ペンを落としているのにすら気づかずに、口を大きく開けてただ呆然と見ているだけである。


 まるで指揮をするかのように魔法を操るカイルの周りには、小さな風の魔法球がたくさん浮かんでいた。

 浮かび上がる魔法の的と同じ200もの魔法球を一瞬で作り出していた。


 本来制限時間内で何回かで壊すものをカイルは一気に決着をつけようとしていた。


「(すべての的を一気に撃ち落とす……!)」

 カイルが手を伸ばして魔法を動かすと、魔法球が勢いよく全て的に向かって行く。

 そして同時に全ての的に命中していく。

 

 ひとつひとつは大した音ではないが、200もの的を一気に撃ち落とすとその破裂音は強烈だった。


 あれだけたくさん浮いていた的が見るも無残な姿ではらはらと舞い落ちる景色に、試験官たちは茫然と見ていたが、ひとりが我を取り戻して質問する。


「お、終わったのか……?」

「はい」

 ニコリと笑顔で返事をするカイルに、試験の一人は頬をヒクヒクさせている。


「そ、それでは結果を確認するまで少し待つように」

 困惑に包まれながらもなんとか結果を伝えようとする試験官たちのすぐ隣にある魔道具を見る。


「わかりました」

 うまくいったことに満足げな表情のカイルはどんな結果がでるのかワクワクしている。

 一つ目の試験では結果なしという残念なものだったため、今度こそという気持ちが強かった。


「あ、あの……」

 そこに、とりにいっていた試験官が申し訳なさそうな表情で的を持ってきた。


「おぉ、来たか。で、結果はどうなんだ?」

「その、見てもらうのが早いかと……」

 動揺に包まれている試験官はそう言いながら、的を前に出し、カイルと試験官が結果を覗き込む。


『1』

 Fランク:0~10個

 Eランク:11~20個

 Dランク:21~30個

 Cランク:31~50個

 Bランク:51~100個

 Aランク:101~200個以上


「う、うーむ……どうやら寸分たがわずすべての的に同時着弾したようだな……すまんがカウンターの記録は絶対なので、君の結果はFだな」

 申し訳なさそうに頭を掻く試験官がそう告げる。


 魔力量の測定と同じく、試験の評価基準の中にあって、カイルは再び最低のFランクということになった。

 数だけでいえばかなりの数を命中させていたが、一発という判定になっていた。

 どう壊したかを問う試験ではないため、試験的にはカウンターの記録が全てらしい。


「はあ……またやっちゃったか……」

 二つの試験で連続してFランクになってしまったことで、肩を落としたカイルはとぼとぼとした足取りで次の試験へと向かった。


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【あとがき】

『世界に一人、全属性魔法の使い手』

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https://kakuyomu.jp/users/katanakaji/news/16817330650935748777


※注意

こちらの内容は小説限定部分も含まれております。

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