第28話 私が薄く視えた朝

ほかに薄く視える人がいるかどうかを確認するには、人がいるところへ外出すればいい。

ただし受信機体質の私は、人が多過ぎる場所へ行くと、たぶん確認する前に気分が悪くなってしまって早々に帰宅することになりかねないので、人がそんなに多くない時間帯を選ぶことが必須になってくる。

だから週末よりも平日がいい。

でも平日に決行するということは、必然的に放課後しか選択肢がなくなるけど・・それはしかたない。

あとは行く場所を選んで人混み対策をするだけだ。


「ねえ界人」

「ん?」

「明日“ウィザード”っていうお店に行きたいんだけど、界人も一緒に行ってくれる?」

「ごめん。明日はバイトなんだ」

「あ、そう」

「明後日ならおまえと一緒に行けるけど、明日じゃないとダメか」

「明後日でもいい」


というわけで木曜日の放課後、礼子さんが推薦する「ウィザード」というお店に界人と行くことにした。

木曜日は週の後半になるけど、「週末に近づいてる感じ」は金曜日より少ない(と思う)から、人も週末ほど多くないんじゃないかな。


「“ウィザード”って店はこのあたりのはずだけど・・あともう少し先か。雅希、大丈夫か?」

「うん。人多くないから大丈夫」


それに今のところ、薄く視えた人はまだ一人もいない。

もしウィザードに行く途中で、すれ違った人が薄く視えたら・・・速攻家に帰る?


自分で出した答えに、私は小さく顔を左右に振って否定した。


「雅希?」

「大丈夫」


ここまで来たんだ、ウィザードに行くまで家には帰らない。


「あ、見えてきた!」


「ウィザード」は、今安全な場所へ故意に身を潜めている礼子さんから、父さんを通してもらった紙に書いてあった、礼子さんが推奨する石屋さんだ。

とはいっても「ウィザード」では天然石だけじゃなく、タロットやオラクルといったカード類や本、エッセンシャルオイル等、主に占いやヒーリングに使うグッズを販売しているお店だというのは、事前にホームページを見て確認していた。


「ここか。思ったより店、小さいな」

「そのほうが私は助かる」


店舗が小さい、イコール人(お客さん)はそんなに多く入れない。

つまり人が少なければ少ないほど、私が人の気や念を受け取り過ぎる可能性も、それだけ低くなるからだ。


「なんかパッと見、カフェか花屋さんって感じしね?」


界人が言ったとおり、お店の外には大小さまざまな鉢植えが置いてあるし、ドアのまわりから壁の一部にかけては可憐な白い蔦バラでおおわれているから、確かにここだけを見ると「花屋さん?」って思わないこともないし、黒板状の看板にメニューでも書いて外に出してあったら、間違いなく「オシャレなカフェだな」と思うはずだ。


でも緑色の葉や白い花の色はキレイだし、ツヤツヤで活き活きしている。

お水や手入れがよく行き届いてるって一目見てすぐ分かった。

店舗の外観も悪くないどころか、とてもいい気が流れてる。

この建物はかなり築年数が経っているようだけど、その古さを活かして「アンティーク風」に仕上げてる。

それでいて壁やドア枠はキレイにペイントされてるし、お店の周辺にゴミが一つも落ちてない。

ガラスまで丁寧に拭き掃除されているから、店内にはきっと、明るい光が差し込んでいるだろうなと想像がつく。

白い壁とドア枠の緑色という塗装色の組み合わせもいい。このお店に合ってる気がする。

物が多くても「白と緑だけ」で統一されてるせいか、白と緑の色味が微妙に違っていても「うるさい感じ」がしないし。


「で?おまえの第一印象は?」と聞いてきた界人の手を、私はサッと握ると「入ろ」と言った。


ヒーリング系グッズを売ってるお店に似つかわしく、ドアはもちろん手動式で、上半分がガラス張りになっている緑色にペイントされたドア枠と、真鍮のドアノブもアンティーク「風」だ。もしかしたら本物のアンティークかもしれない。

販売している物だけじゃなくて、すべてがこの場所に似合ってる。

そのドアを開けるとチリンと鳴ったベルの音も、澄んでいて可愛らしい。


私たちが店内に入ると、奥から「いらっしゃいませ~」という女性の声が聞こえた。

店内には数人のお客さんがいる。もちろん全員女性だ。

店員さんも含めて、この中では唯一の男子の界人は、きっと居心地悪いだろうなと思った私は、隣にいる界人をチラッと見た。

案の定、注目を浴びてる界人は少し固まってる。


「大丈夫?」

「ごめん、雅希。ちょっとだけビックリしたけど大丈夫。こういう視線はバイトで慣れてると思ってたんだけどなぁ」

「カフェは女性客多いもんね」と私が言ってる間に、女性スタッフが私たちのほうへやってきた。


「こんにちわ~」

「こんにちは。あの、こちらで天然石を販売してるって聞いたんですけど」

「はい、ありますよ~。天然石のコーナーにご案内しますね。どうぞ」


天然石のコーナーは、レジ前のカウンターにあった。

そこにはすでにお客さんがいたけど、すでに買い物を終えたらしく、もう一人の店員さんがそのお客さんに「ありがとうございました。また来てね」と言ってるところだった。

そして「は~い」と答えたお客さんは、去り際に界人のことを「チラ見」から「しっかりチェック」していた。


界人はバイト先の「シャーデンフロイデ」でもお客さんからあんな風に見られてるのかな。見られることが多いよね、きっと。

でもその気持ちはよく分かる。だって界人は「見ごたえあるイケメン」だから。

たとえカノジョじゃなくてもつい見てしまうし、視線で追いかけたくなる・・。


「店長、こちらのお客様が天然石をご覧になりたいそうです~」

「はい分かりました。いらっしゃいませ」


この人が店長の松田さんか。ホームページに載ってた写真と同じ人だし、それにさっきもう一人のスタッフが「店長」って言ってたよね。


カウンター下はショーケースのようになっていて、キレイに鎮座している石たちが、ガラス越しから見える。

その中にはアクセサリー用の石も、いくつかあった。

でも「ウィザード」は石の専門店じゃないから、お店に置いてる石の数や種類はやっぱり少ない。だけど礼子さんが推薦したとおり、質は確かに良さそうだ。

ショーケース越しからでも心地良い“呼吸”を、この子たちから感じる。


「“これを買いたい”っていうお目当ての石があるの?」

「いえ、特に決めてな・・・」と答えている途中で、ある石にパッと目が留まった私は、そこから目を離せなくなってしまった。


「この子、この石は」

「ちょっと待ってね、カウンターに出すから・・・はい、どうぞ。手に取って見て良いわよ」と松田さんが言ってくれたので、私は小さな一粒の“子”を、そっと手にしてみた。


「・・・ブルーベリルですか」

「そうです。一般的には“アクアマリン”って呼ばれている天然石ね。あなたは石のことをよく知ってるようだけど?」

「天然石が好きで、ときどきアクセサリーを作ってます」

「あらそうなの~。どうりで石を見る目があると思ったわ。でもどうしてこのお店に来たの?別に責めてないのよ。ただうちは、天然石だけを取り扱ってるジュエリー専門店じゃないから見ての通り、数や種類が少ないでしょう?だから純粋になんでかなぁと思って」

「“セレナ”というお店の店長さんから、このお店を教えてもらいました」

「あらっ。あなた、礼子ちゃんのお客様なの!」

「はい」

「それで納得できたわ。10代の若いあなたが専門家並みの石を見る目を持ってることがね」

「あ・・ありがとう、ございます」


そういえば、礼子さんは松田さんから何度か石を買ったことがあるって、あの紙に書いてあったよね。

ということは、礼子さんと松田さんって単なる「知り合い」じゃなくて、「仲の良い石友だち」関係なのかな。

松田さんは礼子「ちゃん」って呼んでるし、礼子さんの名前を聞いた途端、松田さんは嬉しそうな、懐かしむ表情になったし。


私が「探るような顔」をしていたのを察してくれたのか、「礼子ちゃんはね、私の教え子の一人なのよ」と松田さんが答えてくれた。


「教え子?ですか」

「ええ。天然石の品質の見極めかたから販売のしかたまで」

「そうですか・・じゃあ松田さんは礼子さんの師匠なんですね」

「“師匠”っていうほど大げさなものじゃないのよ。礼子ちゃんには元々センスと才能があったから、私が教えたことなんてあまりなかったし。母親が娘に料理を教えるような感じ、とでも言うのかしらね。実際礼子ちゃんとは親子ほど年が違うし」

「え?あの・・松田さんがおいくつなのか、聞いても良いですか」

「全然いいわよ~。私は今年で――あと数ヶ月後だけど――72になるの」と松田さんから聞いた私は、「えっ?ホントに!?」と、界人は「マジですか!?」と、素直に驚きのコメントを発してしまった。


「えーっ?でも髪真っ黒で・・白髪ないですよね?」「界人っ」

「染めてるから」

「あぁ、なるほどー」

「ここは小さなお店だけど店長として、お客様と接するお仕事をしているから。私にとっては最低限の身だしなみを整えて“若く見せること”と、“若々しくあること”は、大切な仕事の一環なのよ」と言う松田さんに、界人と私は頷いて同意した。


松田さんは立っているとき、背筋は真直ぐ伸びてるし、声にも張りがある。

体型だって「崩れてない」し、ファッションセンスがない私が言うと説得力に欠けるけど、質の良い服を上手に着こなしてると思う。カシミヤや絹という上質な素材が似合う人、そういう感じ。

(染めている)黒髪にもツヤがあって、何より若々しさの気に満ち溢れてる。

さすがに肌には年齢が表れてる部分があるけれど、「現在72歳」にはとても見えない。


「おかげさまで、“実年齢より若く見える”とか“若いですね~”なんてよく言われるし、私の年を言うと、さっきのあなたたちのような反応をされることが多いわ」

「分かります。ホントに松田さんは70代とは思えないです。断然若く見えますよ。な?雅希?」


あれ・・・?

今、ほんの一瞬だったけど、松田さんが薄く視えた・・・ような気がした。


「雅希?」

「あ・・えっと、実年齢を聞くまで礼子さんとは“年の近い姉妹”くらいの年齢差だろうと思ってました。“親子”じゃなくて」

「ありがと。孫たちにもよく言われるのよ。嬉しい誉め言葉よね」と言った松田さんはフフッとほほ笑んだ。


その微笑みかたも上品でありながら、少女のようなかわいらしさも感じて。

松田さんって「この人みたいな年の重ね方をしたい」と思える人だ。

さっき松田さんが一瞬、薄く視えたのは、ホントに気のせいだったのかもしれない。


「孫と言えば。私の孫の一人もあなたたちと同じ慶葉学園に通っているのよ」と松田さんが言ったそのとき、チリンというドアベルの音が店内に鳴り響いた。


「あら、噂をすれば」

「ごめ~ん、店長。遅くなって・・あーっ!魁くんじゃない!」

「あなたたち、知り合いだったの?」

「あ。いや、“知り合い”っていうか・・」


この女子は確か高等部一年の・・・遠藤、って苗字だったかな。一度も同じクラスになったことはないけど、体育の授業で何度か見かけたことがある。

端的に言えば、いつも私に嫉妬している、界人のことが好きな女子。おそらく界人に告白したことがあるはず。そっか。この女子、松田さんの孫だったんだ・・・。


「同じ学年だよ。クラスは違うけど。ねえおばあちゃん、魁くんって入試組で特進クラスに入ったんだよ!顔だけじゃなくて頭もすっごく良いんだから!」

「はいはい。スミレ、ここは小さなお店の中だから、大きな声で話さなくてもおばあちゃんには聞こえてますよ」

「あ、ごめん」

「それから今、あなたはアルバイトのスタッフとしてここにいるのだから、私のことは“店長”と呼んでちょうだい」

「はい、店長」

「それと、お客様を困らせるようなことは話さない」

「すいません・・・。ごめんね、魁くん」

「あぁ・・あのさ、制服着てるからどこの学校に通ってるのかは丸わかりだけど、俺の個人的なことをこういう場所ではしゃべってほしくない」

「本当にそうよね。ごめんなさいね、魁くん。私の孫が一人ではしゃいで迷惑をかけてしまって」

「あっ、そんなもう謝らなくていいです!」

「魁くんってホントに優しいよね。あ、そうだ。昨日はどうもありがと。スパイスチャイ、すっごく美味しかった!あれどうやって作るの?今度教えてよ」

「俺は運ぶの専門だから分かんねえ」


つまり遠藤スミレは「昨日、飛鳥さんのカフェで界人のバイト先の“シャーデンフロイデ”に行ってスパイスチャイを飲んだ」ってことか。

これだけ思わせぶりに言えるのも、ある意味すごい才能だと思うけど(たぶん遠藤スミレは界人に会うため、足しげく“シャーデン”へ通ってるに違いない)・・言ってみれば界人のカノジョである私へのあてつけだよね。

ていうか、私の存在を思いっきり無視してるくせに、嫉妬の念だけはしっかり送りつけてるし。

だけど女子高生一人分程度の嫉妬の念で気分が悪くなるほど私はヤワじゃない。

何より私の隣には界人がいる。

でもその界人から「SOS」信号が送られていることも私はひしひしと感じてるんだけど、どうやって界人を「救助」すればいいのか分かんない。

だから私は界人と遠藤スミレの存在をひとまず無視して(特に遠藤スミレのほうを無視して)、店主の松田さんとのやりとりに集中することで自分の目的を果たすことにした。


「あの、この子・・アクアマリンを買いたいです」

「はいありがとうございます。いくつご入用かしら」

「最低2つはほしいです。自分で選んでもいいですか?」

「もちろんよ。その椅子に座ってじっくり見て選んでね」


そうして私がアクアマリンを選んでいる間も、界人と遠藤スミレは会話を続けてるというか、遠藤スミレが一方的にしゃべってるようだけど、それだけでも嬉しい、幸せ、っていう遠藤スミレの気持ちが私にも伝わってくる・・・あ。

ある一つのアクアマリンを手に取ったとき、「また」ビジョンが視えた。


「宝石」と書いて「ジュエル」と読む石屋さんの・・・これはホームページ?

そして「宝石ジュエル」を運営しているのは、「未来の私」だ。

未来の私は、ときどき「シャーレンフロイデ」の一角を借りて、天然石を使ったアクセサリーをオーダーメイドする、少人数制のワークショップ兼お茶会を開いてる―――。


「その子たちにする?」

「はい。合計4つください」


実は最初のアクアマリンを手にしたとき、「まリア充」が思い浮かんだ。

だから一つはまリア充にプレゼントする分、そしてもう一つは私用に、この子たちを二つずつ使ってブレスレットを作ろう。


「あなたは本当に石が好きなのね。目がキラキラしてて嬉しそう。この子たちを使ってどういうアクセサリーを作るのかがもう分かってるみたい」

「実はもう完成形が視えてます」

「やっぱりそうなの?あなた、ええっとマサキちゃん、だったかしら」

「はい。神谷雅希です」

「雅希ちゃんは質の良い天然石を見極めることができる目を持っているから、きっとステキなアクセサリーを作る才能もあるはずよ」

「私、石のことは礼子さんに教えてもらったんです。だから礼子さんの師匠の松田さんに褒めてもらってホントに嬉しいです」

「まあ、そうだったの。礼子ちゃんのおかげであなたに出会うことができて良かった。これも不思議なご縁ね」

「はい。ありがとうございます」


私は透明のラッピング袋に収まった4粒のアクアマリンを優しく持ちながら、松田さんにニコッと微笑んだ。


「またいつでも来てねと言いたいところだけど・・実は私、今日が最後の出勤日なのよ」

「・・え?どうして・・」

「60半ばを過ぎた頃から体力と視力の衰えをしみじみ実感するようになってきてねぇ。重たい物を持つことも難儀になってくるし、小さくて細かい物も見えづらくなって。だから本当はね、70歳になったらお店を閉めて完全に隠居生活に入ろうと思っていたのだけれど、お客様からまだまだって引き止められてはそれじゃあって続けること、もう2年経っちゃったから」

「そうだったんですか・・・」


せっかくステキな人に出会えたのに、すごく残念だ。


「体力と視力は衰えたけど、幸いまだ体は動くから、その間に行きたいところに行っておきたいし、会いたい人に会っておきたいわ」

「どこに行きたいんですか」

「タンザニアへ、石の発掘現場にね」

「わぁ、ホントに!?」

「実際に石の発掘はしないわよ。体力がないから。だけどタンザナイトが発掘されているところを見学に行きたいの。実は私ね、昔は考古学者になりたいと思っていた時期があったのよ。でも私にはムリだって諦めてしまった。でも完全には諦めることができなくて。結局、石に関わることで、考古学者になりたかった自分の夢の一部を叶えた形になるのかもしれないわね」

「すごく・・すごくステキです」


タンザナイトは12月の誕生石だけど、私自身はずっと受け入れることができなかった。

理由は・・分かってる。

けど界人と出会ってから、ようやく自分にも「相応しい石だ」と思えるようになった。

だからタンザナイトって、個人的に思い入れがある特別な石なんだ。


「ねえ、雅希ちゃんは人が死ぬ間際で一番後悔することって何だと思う?」

「そうですね・・やり残したことや、やろうと思いながら結局何もやらなかったことを後悔するような人生は一番送りたくないってよく言いますよね」

「そのとおり。だけど“後悔すること自体が分からない”人生が、死ぬ間際に一番後悔すると思わない?」

「“ない”じゃなくて、“分からない”」と呟いた私に、松田さんは「そう!」と言った。


「“ない”と“分からない”。この違いはとても大きいって、私は思うのよ」


確かに、後悔すること自体が、単純に“ない”のと、後悔することが“分からない”って、意味が全然違うよね。


『死ぬ間際に“あれをやっておけばよかった”って思えることは、何を後悔すればいいのかすら分からないまま死んでいくよりも幸せだと私は思うのよ。だって、少なくとも“後悔する事柄”を知っているから』


・・・深いな。松田さんの言葉。

もしかしたらこの言葉を聞くために、私は「今日、ウィザードに行くことになっていた」のかもしれない。


結局この日、私が薄く視えた人は、松田さんがほんの一瞬だけ(たぶんホントに薄く視えたはずだ)。

それからウィザードを出た後、迎えに来てくれる父さんを待ってた間に一人だけ薄く視えた。


それは大学生くらいの若い――だけど同じ大学生の一兄ちゃんよりかは見た目年上の――20代前半くらいの男の人で、私に声をかけてきた人のうちの一人だ。

ちなみにこの日は3回声をかけられた私を、界人が3回とも全部睨みで撃退してくれた。


カレシと一緒にいる女――しかも女子高生――に堂々と声をかけてくる男性心理が全然理解できないんだけど。

それよりいじめられっ子だった界人が、こんなに強くて頼もしい男に成長したことにビックリした。


基本的には普段から心身を鍛えてる私一人で対処できるんだけど、私に声をかけてきた男の人は、顔や手と言った目に見える箇所は薄く視えるのに、声はそのまま“ちゃんと”聞こえるから余計不気味だった分、気分が少しだけ悪くなってしまったから、界人の助けがないと私一人で対処できなかったと思う。


それでもまだ、私は界人や父さんや、とにかく誰にも人が薄く視えることがある現象を話さなかった。


二日後の朝、鏡に映った私自身の顔と手が、薄く視えてしまうまでは。

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