一月十二日(木曜)みけ

 あたしがおねだりしたのに、こくいっちゃんたら、あたしより先に食べるのよ、もう!

 でもだって、お腹空いてるの~

 って、こくいっちゃん。

 ……もお、仕方がないなあ。

 あたしは末っ子のこくいちを、眺めた。目を閉じる。

 あ。風が吹いた。

 ひげが揺れて、冬の風を感じる。

 でも、今日は暖かい。小春日和だ。

 こくいちはまだ食べている。家族で一番小さなからだで、一生懸命食べている。黒い毛が太陽に光って、とてもきれい。

 みけねーちゃん、ありがとー!

 こくいちがあたしをじっと見る。

 ああもう、かわいいなあ。

 さて、ごはんを食べようかな、と思って餌入れを見たら、見事に空だった。

 えへって、いう顔のこくいち。

 ……こくいっちゃん……

 仕方がないなあ。

 あたしはガラス戸の向こうをじっと見た。するとニンゲンと目が合う。

 おかわり、ください! あたし、食べていないんです!

 目で訴える。

「あ、なくなっちゃったの?」

 そうですそうです、あたし、まだ食べていないの。

「ちょっと待っててね」

 はーい、待ってます!

 ニンゲンがかりかりと命の水を入れてくれる。

「あ、もしかして特別に缶詰、あげようか?」

 え? カンヅメ? って、あの、おいしいやつ⁉

 あたしは思わず目をきらきらさせた。

 う、嬉しい!

 ニンゲンがカンヅメを持ってきた。カキって音がして、もうそれだけでわくわくした。

 わーい、と思って食べようとしたら、遊びに行ったと思っていたこくいちが戻って来て、目をきらきらさせてカンヅメを見ていた。

 ……こくいっちゃん……

 そして、あたしよりも先にカンヅメを食べ始める。

 ……こくいっちゃん……

「みけ、大丈夫よ。まだあるから」

 ……ま、いっか。

 ゆっくり待とう。時間はたっぷりあるんだから。




☆☆☆☆☆

「金色の鳩」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651418101263

「銀色の鳩 ――金色の鳩②」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651542989552

「イロハモミジ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651245970163

「つるし雛」

https://kakuyomu.jp/works/16817330651824532590

よかったら、こちらも見てくださいね。

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