第8話

 ギルドを出たシャスティルは、外を目指して町中を歩いていた。


 それにしても、口調の割には随分怯えてましたねさっきの人間。


 しつこいので少し威圧をしたが、思った以上に怯えていた。

 自分は神で相手は人間。

 種族として大きな力の差があるが、まさか少し威圧した程度であんなに怯えてしまうとは思いもしなかった。


 威圧で少しだけ動きを止める程度のつもりだったんですけどね~。

 あんな口調なので、てっきり強いのかと思ったんですけど。

 実際は見かけ倒しで弱かったですね~。

 それにしても……


「お腹、空きました。……あぁ~」


 道端に見えたお肉の串焼きの屋台に蒸かし芋の屋台。

 漂ってくるお肉と芋の良い匂い。


「うぅ~食べたいです」


 空腹のシャスティルにとって、漂ってくる匂いはもはや攻撃に代わりない。

 只でさえお腹が空いてるのに美味しそうな匂いで更に空腹を刺激し苦しめてくるのだ。


「だ、だめ。このままじゃ、我慢出来なくなっちゃいそうです。急いで外に行きましょう」


 買い食いしたい欲を抑え込み、シャスティルは急ぎ足で町の外へと向かうのだった。


「あの子、凄い食べたそうにこっち見てたな」

「あぁ、腹押さえてたし腹空いてたんだろうな。買わずに歩いて行ったし金が無かったんだろ」

「だな。もし買いに来たら串焼き一、二本オマケしてやるか」

「そうだな。俺も芋一、二個オマケしてやるか」


 並んで串焼きと蒸かし芋の屋台をしてる男二人は、そんな事を話すと止めていた手を動かし屋台に出す商品を作っていくのだった。


 ※※※※※


 あれから足を止める事なく歩き続けシャスティルは町の外へと出ると森の前までやって来た。


「さて、この辺りまで来れば問題無いですかね」


 軽く辺りを見渡すが、特に人間の姿は見当たらない。

 気配や魔法の類いも感じないので監視の様な事もされてなさそうだ。

 そう判断したシャスティルは、権能を発動し一つのモノを創り出した。


「流石に辛いですからね」


 創り出したのは林檎。

 シャスティルは、創り出した林檎を齧りシャクシャクと食べていく。

 林檎は瑞々しく噛めば噛むほど甘い果汁が溢れ、とても美味しい。


「美味しいですけど、物足りないんですよね~。あぁ~昨日のお店のご飯、食べたいなぁ」


 美味しくはあるが昨日食べたお店のご飯の方が格段に美味しかった。

 林檎じゃ心とお腹を満たす事は出来ず、シャスティルは昨日食べたお店のご飯を夢想しながら残りの林檎を食べていった。


「さて、本来の目的を果たすとしましょう!」


 林檎を食べ終えたシャスティルは、本来の目的である常設依頼を果たすべくフンス!と意気込む。


「薬草類にゴブリン、角兎でしたね。どれから始めましょう。ん~~~~…………」


 数秒考え込む。

 そして、一つの結論に行き着く。


「別に、どれからでも問題無いのでは?」


 近場で達成出来そうなモノからやっていけば良いのでは?と思い至ったのだ。

 普通の人間なら目的の薬草類や魔物を探すのに時間が掛かるので、そもそもの複数の依頼を一日で達成しようとする事が先ず困難である。


「え~~~~と、あ!見付けました!」


 しかし、それは人間ならであり自分には適用外。


「薬草発見です!」


 権能であっさり薬草を発見。

 薬草が沢山生えてる場所へと転移で移動。


「ふぅ~~~これで良し!」


 少し疲れはしたが全て採取し権能で細い糸を創り出し丁寧に束にしていった。

 数にすれば、三十束位になっただろうか?

 結構生えていたのでそれなりの数を採取出来てラッキーである。


「一先ず、薬草は異空間に仕舞って。次は、ん~~~~毒消し草はバラついてて少し面倒ですね」


 本当なら毒消し草も採取したいのだが、探した感じ毒消し草の群生地帯は近場に見付からず多少づつ生えてる箇所がバラついてる感じだった。

 転移を繰り返せばそれなりの束数を集められるだろうが、それは転移を何十回も使用すればの話。

 死ぬ前の全盛期の私なら兎も角、今の超絶弱体化した私では何十回も転移する等不可能。

 確実に途中で神力が尽きて転移出来なくなる。


「無理ですし止めますか。となると…………あ」


 そんな訳で代わりのモノを権能で探すと丁度良いモノを発見。


「ゴブリンの群れ発見です。うへぇ~~気持ち悪いです」

「グギャ!」

「ギギャギャ!!」

「グギャギャ!」


 転移してゴブリンの群れの前まで移動。

 人間の子供位の背丈をした薄汚れた緑色をした醜悪な顔をしているゴブリンの姿にシャスティルは、表情を歪め嫌そうな顔をした。

 いくら女神とは言え、気持ち悪いものは気持ち悪いのだ。

 そもそもとして、ゴブリンの存在を創造したのはシャスティルではない。

 世界と生命そのものもを創り出した神だ。

 言い方は悪いが、なんでゴブリンなんて気持ち悪い存在を創造したのか疑問でしかない。


 生命に対して悪いですが、あまり長く見たくないですね。


 正直、ゴブリンの姿を直視したくないのが本音である。

 そう言う訳で権能発動。


「ギギャギャ!」

「ギャギャ!」

「グギャ!」


 獲物がやって来たと醜悪な笑みを浮かべ私に向かって走ってくる十体のゴブリン達。


「すみませんが、死んで下さい」


 右手をゴブリンの群れへとかざした。

 次の瞬間、ゴブリンの群れが消えその場に小石サイズの結晶が十個転がっていた。


「ふぅ~~上手く調整出来ました。にしても」


 シャスティルは、地面に転がっている結晶を拾い上げ繁繁と眺める。

 綺麗とは正直言えない白く濁った水みたいな色をした結晶。

 ゴブリンの魔石だ。

 ゴブリンの討伐証明兼買い取りもしてもらえる大事な素材だ。

 お金が切実に必要なので、拾い忘れの無いようにキチンと一つ一つ数えて異空間の中へと仕舞っていく。


「これで全部ですね。さて、次は……およ?」


 権能で周辺を探ろうとしたら、横の草木からカサカサと音が聞こえ草木に目を向ける。

 何か小さな生命の気配がするので、野生動物か小型の魔物……いや、魔力の割合が多いので小型の魔物だろう。

 どんな魔物が出てくるのかと待っていたら、草木の中から飛び出してきた。


「角の生えてる兎。角兎でしたか」


 額から角を一本生やした白い体毛をした兎。

 常設依頼の獲物である角兎だった。

 シャスティルにとっては丁度良いタイミングでのご登場である。


「転移の手間が省けました。神力も無限じゃないので有難いです」


 シャスティルがそう言いながら角兎を見ると、角兎もシャスティルへ目を向けてくる。

 見た目だけで言えば愛らしい兎に見えるが、やはり魔物と言うべきか角兎の目には敵意が宿っており二十cm位ありそうな鋭い角を向けてくると襲ってきた。

 跳ねる様に飛び掛かってきながら角を突きだし私の胴体を突き刺そうとしてくる角兎。

 角兎が大きく跳ね私の鳩尾辺りに角が突き刺さりそうになる。


「そりゃ!」

「グキュ"!」


 軽くチョップして地面に叩き落とした。

 ドゴッ!と重いチョップを受け地面に衝突した角兎。

 そりゃ!等と可愛い掛け声を出してチョップしてるが、威力は微塵も可愛いなんてものではなく角兎は目、鼻、耳、口から血を垂れ流しながら死んでいた。

 即死である。


「ちゃんと死んでますね。素手の打撃でも問題なさそうですし、これなら権能で倒さなくても倒せそうです」


 シャスティルは、次の相手は試しに素手で戦ってみようかなと思い、倒した角兎を異空間に仕舞うと周辺を権能で探った。


 ん~~~~ゴブリンも角兎も居ますが疎らです。

 これじゃ、転移だけで神力を使いきっちゃいますよ。

 何処かに群は居ないでしょうか。


 権能で探った方角には手頃な群は居らず、シャスティルは別の方角を権能で探る。


「ゲッ!」


 すると、探った方角に十六体のゴブリンを見付けた。


「よ、よりにもよってゴブリンですか。角兎が良かったんですけど」


 次の相手は素手で戦闘してみようと思ったのに見付かったのはゴブリン。

 正直直視したくない相手なのだ。

 当然、触れたくないに決まっている。


「仕方ないですね」


 シャスティルは、見付けたゴブリンの群れの元に転移。


「死んで下さい」


 ゴブリン達が自分に気付く前に権能を発動し十六体のゴブリンを消した。


「……ん~これ、便利ですけど、やっぱりダメですね」


 地面に転がる魔石を異空間に仕舞いながらシャスティルは困った表情を浮かべる。

 理由は、先程使用した権能。

 これが、本っ当~に燃費が悪いのだ。

 消費する神力が転移よりも多く二回使用しただけで残る神力が物凄く減ってしまった。

 まだ幾らか神力は残っているが、正直余裕は無い。

 この世界だと神力の回復が遅いのを考えると、帰りの転移を除いて権能を使用出来るのは二、三回辺りだろうか?

 本当、弱体化し過ぎていて悲しくなる。


「後一回何か倒すか薬草を採取したら帰りますか」


 そう判断したシャスティルは、権能で周辺を探り三体で群れてる角兎を見付けると権能で転移して移動。

 素手で戦闘して角兎を一撃で倒すと異空間に仕舞い、森の入り口付近に転移で移動して町へと帰っていった。


 ※※※※※


「あぁぁ~~今日は疲れましたぁ~」


 日の沈んだ夜。

 シャスティルは、疲れた声を漏らしながらベッドに倒れ込んだ。


「はあぁぁ~~ベッドが気持ちいですぅ~」


 ゴロンと寝返りをうって仰向けになるとシャスティルは今日の事を思い返した。


「いや~それにしても、それなりにお金を稼げましたね~」


 決して余裕がある訳ではないが、今日の稼ぎで無事宿に宿泊する事が出来た。

 昨日に続きお風呂にも入れたし、ふわふわのベッドで寝る事が出来る。

 とっても最高だ!


「にしても、なんで串焼きと蒸かし芋の屋台の方はオマケをくれたんでしょうか?」


 常設依頼と素材の換金で少しだけお金を稼げたので朝に通った屋台に買い食いに行ったのだ。

 そしたら、何故か屋台の人間の男性にお肉の串焼きを二本、蒸かし芋の屋台の男性も蒸かし芋を二個オマケしてくれたのだ。

 くれると言うので有り難く貰ったが、本当何でオマケをくれたんだろうか?

 それに、何故か串焼きと蒸かし芋を買おうとしたらニヤニヤと笑ってたのも疑問だ。


「屋台の方は不思議でしたが串焼きと蒸かし芋は美味しかったですし、また食べに行きたいですね~。その為にも、明日も頑張らないとです」


 明日もお金を稼ぐ為に朝早くから森に出る予定だし、午後は通常依頼も受けてみる予定だ。


「お手伝い系を受けてみてついでに町の中を見て回るのも良さそうですねぇ。楽しみです」


 明日を楽しみに思いながらシャスティルは眠りにつくのだった。

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女神様の冒険記 紫苑 @n0114gk

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