第49話 森に引っ込んでいます

 リンドは森の家に戻ると普段の日常の生活を続ける。この前にハミルトンのフィリップ向けの分も含めて杖を多めに納品したこともあり当面は街に行かなくても大丈夫だ。


 午前中はミーと一緒に森の奥のSランクの魔獣を相手に魔法の鍛錬を続けるリンド。手に杖は持っておらず手のひらを突き出して魔法を撃っている。


「かなり良くなってきたじゃない」


 目の前でSランクの魔獣を倒したあと、魔石を取り出していると背後からミーが声をかけてきた。魔石を取り出したリンドは立ち上がると、


「うん。かなり集中できる様になったよ。1発の魔法で倒せる数も増えてきた」


「その調子ね。両手で交互に魔法を撃つのにも慣れてきたみたいね。上手く体内の魔力を使っているのがわかるわよ」


 ミーのお褒めの言葉にありがとうと礼を言う。その後も右手、左手と交互に突き出してはSランクの魔獣を倒したリンドは昼過ぎに結界の中にある自分の家に戻ってきた。


 Sランク相手に5体に4体は1度の魔法でそれも杖無しで倒せる様になっていた。


「明日からは2体同時に相手をしてみたら?右手と左手の両手から同時に魔法を撃って2体を同時に倒すの。最初はAランクで練習した方がいいわよ」


「なるほど。わかった」


 Aランクを練習相手にする時点で普通ではないのだがリンドは素直にミーのアドバイスを聞く。自分の実力はミーが一番知っていると信じているので師匠の言葉に素直に耳を傾けるリンドだ。


 一方でミーはリンドの吸収力の高さとポテンシャルに再びびっくりしていた。どんな難題を振っても必ずそれを成し遂げるリンド。彼の対応から100%自分を信用しているのが伝わってくる。


 ここまで素直な人間はそうはいないわね。最初に会った時から全然変わっていない。普通なら強くなったらそれが態度や言葉にでるものだけどリンドは違う。今での初心者と同じピュアな気持ちを持っている。妖精に好かれるのも当然ね。


 森の家でのんびりとした生活を送っているリンド。ある日夕食を終えてソファに座って建築の本を見ているとケット・シーの姿になったミーが座っているリンドの前に立った。

リンドが顔を上げると、


「リンド、またしばらくいなくなるけど」


「問題ないね。こっちは当分街には行かないし、杖を作ってミーに言われている鍛錬をしておくよ」


「お願いね。それともし家を改築するのなら好きにしていいわよ。もうこの家はリンドの持ち物になってるから」


 リンドが建築関係の本を見ていたのでミーが言った。


「わかった。まだどうするか具体的には決めていないんだけどね。アイデアが閃いたら勝手に改築を始めるよ」


 翌朝リンドが目覚めると既にミーの姿はどこにもなかった。今までも何度かいなくなることがあったのでリンドは気にせずにいつも通りのルーティーンをこなす。午前は鍛錬、午後は畑を見たり杖を作ったりのマイペースの日々だ。



 リンドが森でいつもの生活を送っている頃、ミディーノの街ではキースらのパーティが活動をしない休日に交代でトムの武器屋を見張っていた。トムの武器屋に冒険者が顔を出すのは何ら問題がないのでメンバーは武器屋の前を歩いたり時には店に入ってトムと雑談をしながら様子を見る。


 最初の1週間ほどはあからさまに見張っている人がいたがそれも2週間もするといなくなり1ヶ月が過ぎるとキースらのパーティのアンテナに引っかかる様な人物はいなくなった。


「諦めたかな?」

 

 トムが言った。ここはトムの店の中だ。


「どうだろう。まだ油断は禁物だよ。どこで見張ってるかわからないからな。当分の間、おやっさんは杖の販売を今やってる様に注文だけうけて後で配ってやるのがいいだろう」


「面倒くさい話だがやむを得ないな。わかった。今のやり方を続けよう」


 キースのアドバイスを受け入れるトム。


「ところでリンドはどうしてる?」


「おそらく森の家にこもっているはずだ。杖はかなりの数をここに卸したと言っている。当分は街に出てこないだろう」


「なら安心だな。確かに杖はかなりの量を仕入れた。当分は大丈夫だ。それよりも何度も言うがリンドには迷惑をかけたくないんだよ。あいつは優しくて気を使いすぎるところがあるからな」


 トムの言葉に頷く他のメンバー。彼らもトム同様この件でリンドに変な気遣いをさせたくないと思っていた。人見知りが激しいというか人との付き合いがうまくないリンド。ただ一旦仲がよくなると損得抜きで親身になってくれる。トムはもちろんキースらもそんなリンドが大好きだ。


「お前さん達ここはもう大丈夫だから一度リンドの家に行ってくれないか。あいつがいらない心配をしているのなら問題ないと言ってやって欲しいんだよ」


「わかった。俺たちもそうしようかと考えていたところだ。近々森の奥に行ってくる」



 それから4日後の夕刻、リンドが夕食の準備にかかろうとした時に結界を越えてキースらのパーティがやってきた。その前から気配感知で彼らの接近を知っていたリンドは家から外に出て彼らを出迎える。


「やぁ、久しぶり」


「また世話になるよ」


「どうぞどうぞ、あっちの玄関から入って、部屋は適当に使ってくれていいから」


 荷物を部屋に放り込んだキースら5人が居間にやってきた。


「いつもの黒猫ちゃんは?」


 狩人のクリスティが猫階段に猫がいないのを見て言った。


「たまにどっか行っちゃうんだよ。でも大丈夫だよ。家の床下とかで寝てることもあるし、勝手気ままに生きてるみたいだ」


「リンドと同じね」


 クリスティが納得したのかミーの話題はもう出なかった。

 ソファに座ったキースがリンドが街を出てからのことを話しする。


「というわけだ。トムからはリンドは気にする必要は全くないと言っておいてくれって言われたし俺たちも同じ意見だ。気にする必要はないよ」


 リンドが街を出てからの事を説明したメンバー。キースがメインで話をして時々他のメンバーが補足しながら長い話を終えた。


「ありがとう。事情はよくわかったよ。幸いに杖は結構な量を納め終わったところだし俺の家はここにある。しばらくここでのんびりするよ」


「あいつらだって暇じゃない。そのうちほとぼりも冷めるだろう」


 コリーが言った。


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