第47話 面倒ごとは苦手です
「あら、リンド。久しぶりね」
「どうも」
声をかけてきたのはキースのパーティで狩人をしているクリスティだった。答えながら片手を軽く上げるリンド。
「トムのお店?」
「そう。納品が終わったんでね、挨拶に来てみたんだよ」
「今日は活動のない日なのよ。確か皆いるはずよ。私はトムのお店に矢を買いにいくところだったの」
クリスティは出てきた家に戻ると家の中にいるメンバーに声をかけた。すぐにキース以下いつものメンバーが2階から降りてきてリンドを見ると挨拶してくる。活動日じゃないということで全員が私服だ。
「トムの武器屋の杖を卸してきたのかい?」
勧められたソファに座るとリーダーのキースが話かけてきた。ミーはリンドのお腹の上に寝転んでいるがいつもと違って耳を立てたままだ。狩人のクリスティは皆に声をかけた後既に家を出ていた。
「そうなんだよ。今回はちょっと多めに作ってね。ある程度の数量を置いてきたから当分は大丈夫だと思うんだ」
その後は彼らと雑談をする。
「そろそろSランクに昇格するんじゃないの?」
リンドのその言葉に顔を見合わせるメンバー達。
「そうなんだよ。ギルドからももうすぐポイントが貯まって昇格試験を受けられるって言ってくれているんだ」
と答えるコリー。
「すごいじゃない」
素直に感心するリンド。目の前にいるキースのパーティは実力もあるのでそう遠くない将来にSランクに昇格するだろうとミーと話をしていたがどうやらその通りになりそうだ。
「その昇格試験ってのはどんなの?」
リンドの問いには精霊士のショーンが答える。
「ギルドが指定するSランクのモンスターの魔石をこれまた指定された数を指定された日数以内に持ち帰るんだよ」
その後をジェシカが続けた。
「その試験が終わると最後に面接があるの。パーティ全員がギルドマスターと職員の面接を受けるのよ。Sランクになる資格、つまり性格的に問題がないか、他の冒険者の規範となれるかどうかとかを面接で判断するよ」
「キースのパーティなら面接は問題ないよな。皆大丈夫だろう。そしてそのSランクの魔獣の魔石だけど俺の家の近くでSランク相手に鍛錬してるしそっちも問題なさそうだね」
リンドは彼らの実力を知っている。Sランク2体までならリンクしても問題なく対応できるだろうと思っていた。
「リンドの杖と弓、これがあるからね。実際にSランクでもそれほど脅威とは思ってないのは事実だ」
キースがそう言った時、彼らの家の扉が開いてクリスティがはぁはぁと言いながら入ってきた。走ってきたのだろう息が上がっていた。その荒い息のまま彼女が言った。
「今ね、トムの武器屋に王都の魔法師団の連中が来ているのよ」
その声を聞いてびっくりするキースら。リンドのお腹の上で横になっていたミーはお腹から立ち上がるとリンドを見る。厄介ごとが始まったわねという目だ。ミーと目を合わせたリンドも嫌な感じはこれだったのかという目でミーを見る。クリスティは部屋に上がってきて自分でジュースを入れるとそのままソファにドスンと座って周りを見てから話だした。
「矢の補充でトムの店に行って買い物を終えてトムと雑談してたらさ、店に王都の魔法騎士団のローブを着ている男たちが2人やってきて、いきなり 『ここの店で優秀な杖を売っていると聞いた。見せてもらいたい』って言ったの」
その場にいた全員がクリスティの次の言葉を待っている。クリスティはリンドに顔を向けると、
「リンド、今日杖を納品したって言ってたよね?」
「ああ、精霊士の杖と僧侶の杖をトムの武器屋に納品したよ」
「それがどうかしたのか?」
リンドの答えを聞いてからキースが言った。
「トムはね、今は店にある2本だけだって言ったの」
「隠したんだな」
「そうなの。そうしたらその2本の杖を見せてくれと言って見てたわ、そうしてトムに
この杖を500本用意してくれって言ったのよ」
「「500本?」」
全員が声を上げた。
「何でも王都魔法師団の魔法士に持たせるとか何とか言ってたわ。予備も含めてね。ただトムは断ったのよ。自分が作ってないから数は保証できないってね。この店にもある時とない時があるからある時に売るのは構わないが数量については何も言えないって」
「それでどうなった?」
先を急ぐ様にショーンが聞いた。
「そうしたらこの杖を作ってる者を紹介してくれ、直接依頼するって言ってトムはそれも断ったの。この杖を作っている人との約束で誰が作っているのかは教えられない。そう言ったら魔法師団の連中とりあえず店にある2本だけ買って出ていったの。でもトムの店は目をつけられてるわね。おそらく見張りを置いて今後納品に来た時にでも後をつけるつもりよ」
クリスティの話を聞いて面倒な事になったとリンドは思っていた。元々杖は自分のスキル上げの目的で作っていてそれを商売にする気もない。武器屋のトムともそう言う約束で杖を卸しはじめ、トムもその約束を守ってくれている。
ただ見張り云々となるとトムの店に迷惑がかかるなと頭を抱えるリンド。
そんなリンドの様子を見てキースが声をかけた。
「リンド、気にすることはないぞ、おそらくあいつらは杖を作っているのがリンド、冒険者とは思っていない、どこかの木工スキルの高い職人が作っていると思ってるはずだ。だから見張ってると言ってもそれは冒険者を見張ってる訳じゃないとおもうぞ」
「キースの言う通りだな。冒険者が作ってるとは思っていないだろう。それにあそこは冒険者用の武器屋だ俺たちやリンドが顔を出しても誰も怪しまない」
ショーンがキースに続いて言ったが
「トムに迷惑かけちゃったかな?」
と言うリンド。
「心配なら行ってみたら?」
黙っていたジェシカが言うとその言葉で立ち上がるリンド。お腹の上に乗っていたミーは一旦ソファに降りるとそのままリンドの肩に飛び乗った。その仕草を見るにどうやらミーもトムの店に行くのは賛成な様だ。
「俺も行こう。2人で行ってみようぜ」
キースがソファから立ち上がった。
「いや待て。俺も行く。俺が外の様子を見ているからキースとリンドはトムと話をしてくれ」
そう言ってショーンも立ち上がった。
リンドを含めた3人は他のメンバーにはここで待っていてくれと言って拠点の一軒家を出てトムの武器屋に向かう。
道すがらキースとショーンがが隣を歩くリンドにリンドが気にすることはないぞと言ってくれたがリンドにしてみれば自分の杖でトムに迷惑をかけているんじゃないかと気が気ではない。
3人でトムの武器屋がある路地に入って武器屋に顔を出すと奥からすぐにトムが出てきた。3人を見ると黙って奥に案内する。ショーンだけは店の入り口で商品を見るフリをして奥には来ない。
「災難だったな」
いきなりキースが言うと
「いや、俺は災難とは思ってないぞ、あいつら高飛車に言ってくるからむかついているだけだよ」
トムはそう言うとリンドに顔を向け、
「リンド、お前さんは気にすることはない。お前さんのことは言わないから安心してくれ」
「でも、いいのかい?それで」
心配そうなリンドの背中を叩くトム。
「俺がミディーノの街で何年この商売をしてると思う。たちの悪い客のあしらい方なんて慣れたもんさ。それよりも今日納品してくれてしばらく在庫はある。あいつら見張ってるだろうが1、2ヶ月もすりゃあ諦めて引き返すさ」
肩に乗っているミーも身体をリンドの頭に押し付けてくる。ミーの感覚を信じているリンド。
「トムがそう言うのならこっちはいつも通りでいいってことだよな?」
「そうそう。それにお前さんは収納を持ってる。店に来ても普通の冒険者にしか見えないから問題ないぞ」
キースとトムから言われてリンドも少し気が楽になってきた。そのリンドの表情を見たトム。
「リンド、お前さんのことは俺は口が裂けても言わない。安心してくれ。それよりもこんなつまらないことで杖を作るのをやめるなんて言わないでくれよな。お前さんの杖を待っている冒険者はいっぱいいるんだからな」
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