第46話 嫌な予感がします
「やっと全部できたよ」
「ご苦労様」
杖を丁寧に仕上げたリンド。辺境領の商人であるフィリップから頼まれていた杖300本とトムの武器屋に下ろす杖、合わせて500本以上を作り上げたリンド。途中でエルムの倒木がなくなって何度か森の奥に取りにいったりと予定よりも時間はかかったが無事に仕上げて満足げな表情になる。ここ数日はこれにかかりっきりだったリンド。最後の杖ができた時には陽が暮れる直前だった。
「これだけあれば当分は大丈夫ね。それにしてもどうしたの?いきなりこんなにたくさん作って」
今日はケット・シーの姿になっているミーが言った。リンドは出来上がった杖を次々とアイテムボックスに放り込みながら答える。
「自分の魔力がどれくらいあるのか、そうして自分の集中力がどこまで続くのか、それを試してみようと思って。結果的には魔力も集中力も切れることなくやりとげる事ができたよ。きつかったけどね」
仕上がった杖を目視で検品しては収納していくリンドを見ているミー。能力には上限がないのかと思うほどに次々と限界を突き抜けていくリンドを見て、妖精であるミーですら感心している。
「なるほど」
と短く答えるミー。
(すごい集中力ね。そしてまた魔力量が増えている。ここまで連続して杖を作っても魔力が欠乏しないなんて相当よ。その上魔力のコントロールも完璧。Sランクどころのレベルじゃないわ)
ミーと話をして明後日の昼過ぎに家を出てミディーノに向かうことにする。ゆっくりと歩いて森を抜けて3日後の午前中には街に着くだろう。
翌日はいつも通り午前中は鍛錬をし、午後は川向こうで野生の猪と鹿を倒したリンド。肉は血抜きをしてから倉庫の保冷庫にしまう。これでまたしばらくは肉が持ちそうだ。
「この前来ていた女性のパーティがリンドに王都においでよって言ってたけど、リンドは王都に行く気はあるの?」
夕食の時にケット・シーの姿になっているミーがリンドの前に座って聞いてきた。
「正直人が多いところは苦手でね。辺境領のハミルトンよりも大きな街なんだろう?」
「そりゃそうよ、王都ですもの」
「だよな。ところでミーは王都には行ったことがあるの?」
顔を上げてミーを見るリンド。
「あるわよ。王都の郊外にも仲間がいるもの」
「そうなんだ」
「今決めなくてもいいじゃない。王都にはミディーノやハミルトンの街に無いものもあるだろうし、何か欲しくなった時に行ってみたら?」
「そうしよう。ギルドに行くんじゃなくて買い物目的だったら大丈夫かな。ハミルトンでも一人で街をぶらぶらしてたし」
リンドの言葉にうんうんと頷くミー。
翌日、予定通りに森の家を出たリンド。肩にはミーが乗っているいつものスタイルで森の中を出口に向かってのんびり歩いていた。Bランクを見ると杖を使わずに手を突き出して顔を狙って精霊魔法を撃って鍛錬をしながら夜通し森の中を歩いて夜が明けてからしばらくして森を出たリンド。街道をミディーノの街に歩きながら
「そう言えばさ、一番最初に森の家に行った時にミーが気配を消すというかぼやかすというかそんな魔法を掛けてるって言ってなかったっけ?」
リンドの肩に乗っているミー
「言ったわよ。リンドも使えるはずよ?」
「えっ?覚えた記憶がないんだけど」
「イメージよ。気配を消すってイメージをしながら全身に魔法を掛ける感じでいけるわよ。強化魔法と同じかな。イメージだけしっかりしておけば大丈夫よ」
肩にミーを乗せたままイメージをして魔法を唱えるリンド。街道を歩きながらの魔法の発動だ。リンドは当たり前の様に動きながら詠唱しているがこれも相当難易度の高いタスクになっているがリンドは気がついていない。
「そうそう、綺麗にかかってるわよ」
「なるほど。これって人にも有効なの?」
「やったことはないけどおそらく有効でしょう。何?暗殺でもするつもりなの?」
「まさか。絡まれそうになった時に逃げるためさ」
物騒なことを言ったミーに笑いながら答えるリンド。
街道を歩いているとミディーノの城壁が見えてきた。門にいる衛兵にギルドカードを見せて城内に入るとまずはその足でギルドに向かう。
ランクA乱獲のクエスト用紙をちぎるとそのままカウンターにクエスト用紙とランクAの魔石を置いてその場でクエストを終了する。
「随分久しぶりですよ、リンドさん」
受付嬢のマリーが書類と魔石を受け取りながら言った。
「ごめんごめん」
「はい。これでクエスト終了です。代金はいつも通りギルドの口座への入金でいいですか?」
「それで頼む」
ノルマであるクエストを終えると猫の姿になっているミーを肩に乗せたリンドはギルドを出てミディーノの市内をぶらぶらと歩いて調味料や雑貨、衣料などを買ってからトムの武器屋に顔を出した。
店の奥から出てきたトムはリンドを見ると、
「よぉ、リンド。待ってたぜ」
「ちょっと遅くなったかな。フィリップさんの分も作ってたからさ」
そう言ってアイテムボックスから500本近い杖を取り出していく。杖は精霊士用と僧侶用とに別れていて杖の先のデザインも人気のあるものをメインにいくつかのデザインの杖を取り出した。
「フィリップさんに300本、それがこれね。それでトムにはこっちの杖。全部で200本持ってきたよ」
店の奥の大きなテーブルに置かれた杖を無作為に取り出してはその仕上がりを確認するトム。10本ほど見たところで杖から顔を上げてリンドを見て困った表情になる。
「OKだ。完璧だな。ただよ、これだけの数の金貨の持ち合わせはないんだよ」
「それなら大丈夫だよ。次回以降街に来た時でいいから。お金には困ってないからね」
「助かる。間違いなく次回払う。それにしてもいい仕事してるぜ」
トムはリンドと話をしながらも杖を手に持っては鑑定していた。どれもが完璧な仕上がりになっていて文句のつけようがない。大きな魔力が均一に杖にぎっしり詰まっていてしかも仕上がりやデザインもしっかりしている。
「杖は相変わらず売れてるのかい?」
「もちろんだ。むしろ売れ行きが伸びてるくらいだぞ。国中の冒険者達がこの杖を求めてこの街にやってきてる」
決して安くない販売価格の杖が飛ぶ様に売れていると聞いてもピンとこないリンドだが
「売れてるのならよかったよ。またある程度溜まったら持ってくるよ」
頼むぞという声を聞いてリンドは店を出た。肩にミーを乗せたリンドはキースらのパーティの拠点である一軒家に足を向けて歩いていた。
「いたら挨拶して帰ろうと思ってね」
「いいんじゃない」
ミーはリンドの行動パターンがわかっているので肩に乗ったまま耳元で答える。もう少しでキースの一軒家だと言うところで歩いていたリンドが足を止めた。肩に乗っているミーも耳をピンと立てる。
「何か嫌な雰囲気がするんだけど」
「リンドの感知、予知能力もかなり上がったわね。その通りよ。しかもそれはリンドに取っての面倒事ね」
「僕のかい?」
通りの真ん中で小声でやりとりをしていると目的の一軒家から女性が1人出てきた。
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