第21話 王都のパーティが森にやってきた

 レストランを出て別れるとミーを肩に乗せたリンドはミディーノの街を出て森に向かって歩いていく。


「彼女ら皆いい人よ。それに強いわ」


 肩に乗っているミーがリンドの耳元で話しかけてきた。


「変な人だったらミーが反応するからね、ずっと大人しくしてたから大丈夫なんだろうとは思ってたよ。もちろん、僕の印象も同じさ。ただ腕前まではまだわからないんだよな」


「それは経験ね。いろんな冒険者を見てるとわかる様になるわ」


「まだまだ修行が足りないってことか」


 ミーは肩に乗りながらリンドの言葉を聞いていたが、当人が気づいていないだけでリンドも相当の実力を身につけている一流の冒険者になってるのよと。…… 言葉にはしなかったが……。



 そうして森の奥の平家の自宅に戻ったリンドは仮眠を取ってから森の奥のランクAを相手に精霊魔法の訓練をする。杖を突き出すと精霊魔法が飛んでいきランクAの魔獣を魔法1発で次々と倒しては魔石を取り出していく。


 魔獣相手の訓練が終わると今度は川の向こう側に言って野生動物を倒してくる。鹿を2頭倒しそれを家に持ってくると血抜きをし、皮を剥いで内臓を取り出して捨てると適当な大きさに切った肉を倉庫の床下で冷蔵保存する。氷の魔力がぎっしりと詰まっている魔石の間に鹿肉を入れその上にも魔石をかけて保存ができる様にすると倉庫から裏庭に移動して杖を作り始めた。


 エルム材を使って魔導士の杖を作り、そしてそれから僧侶の杖を作るリンド。


「もう私が教えることがないわね。見事な仕上がりになってるわよ」


 リンドウが杖を作っているとケット・シーの姿になったミーが背後から作り上げた杖を見て感想を述べる。


「そうなの?まぁ今日はうまくいったとは思ったけど。じゃあ次の訓練は何をしたらいいのかな?」


 本当に向学心の塊ね。リンドの言葉を聞いたミーは


「しばらくその杖作りを続けたら?というかこれは毎日続けてね」


「そうだな。今日はたまたまうまくいっただけかも知れないしね」


「そうそう。続けることもすごく大事だよ」


 素直なところもミーがリンドを高く評価している点の一つだ。妖精として長い間に様々な人間を見てきているが、ここまで無欲で素直な見たことがなかった。


 人間は欲深い生き物だ。そして他人と競争をするのが好きな生き物だ。今まで見てきた人間はほとんどがそうだった。他人を騙し、蹴落として上に上がっていく人間。自分に利のないことには興味を示さない人間。逆に利があると思えば必要以上に関与していく人間。もちろん数は多くなかったが中にはそうでない人間もいた。ただそうでない人間ですら目の前にいるリンドほど無欲ではなかった。


 リンドは本当に無欲というか純真だ。常に周囲に気を使って自分の我を押し付けない。かと言って当人が我慢しているわけでもない。自然にやっている。不遇や苦労をそう思わない。いつも前向きだ。


 ミーに言われて魔力を注ぎながら杖を作っているリンドの後ろ姿を見ながらミーは人間という生き物を見直していた。



 2週間後、リンドとミーは精霊士の杖と僧侶の杖を魔法袋に入れて森の中をミディーノの街に向かって歩いていた。森の中で出会うランクBやCの魔獣は精霊魔法で倒して森の中を最短距離で歩いて森を抜けると街道を歩き、そうしてミディーノ街に入っていく。


「助かったよ。僧侶の杖がえらい評判になってな。問い合わせがすごかったんだよ」


 武器屋のトムがリンドから杖を受け取って言う。


「じゃあこれからは僧侶の杖が多い方がいいのかな?」


「いや、今まで通りで頼む。精霊士の杖も相変わらず人気があるんだ。どっちの杖も店に出した先から売れていってるんだ」


 トムによると杖を買いにミディーノ以外の街からも冒険者や時には商人までがやってくるらしい。杖の代金を受け取ったリンドはそのままマーガレットらが住んでいる宿屋に足を向けた。金貨は相当溜まってきているが森の奥では使うことがなく溜まる一方だ。かと言って街で大きな買い物をするわけでもなく今まで通りの生活のパターンを崩さないリンド。


 肩に乗っているミーが身体をリンドに押し付けながら通りを歩いて宿屋につくとロビーには既に5人が旅立ちの準備をして待っていた。


「ダンジョンはクリアできたの?」


「ええ。しっかりと最後までクリアしてきたわよ。それよりも弓の威力が凄くってびっくりしたわ」


 そういうとユリアーネが


「威力、距離ともに今までの弓より数段上になってる。おかげで随分楽になった」


「そりゃよかった」


 そうして早速行こうかとリンドと5人は宿を出ると城門から外に出て街道を歩き出す。


「リンドの家ってここからどれくらい?」


「そうだね。今からだと夜中過ぎ、明日の朝までには着くよ」


「森の中を夜通し歩くの?魔獣がいるんでしょ?」


「いるよ、でもランクBだから大丈夫だよ」


 前を歩くリンドの言葉に顔を見合わせる5人。いくらランクBとはいえ視界が悪い真夜中に森の中を歩くのは普通なら自殺行為だ。大抵は安全な場所を見つけて野営をして夜を過ごすのが一般的になっている。そんな中ランクBだから平気だというリンドの言葉に皆びっくりする。


 街道を歩き、途中から森の中に入っていくと最初はランクCの気配、そしてしばらくするとランクBの魔獣の気配がしてきた。狩人のユリアーネが狩人のスキルを使って周囲を探索するとあちらこちらにランクBの魔獣が徘徊している。ただ先頭を歩くリンドを見るとそんなのはお構い無しに森の奥に進んでいっている様だ。


 そうしてリンドが立ち止まって杖を突き出すと近づいていたランクBの魔獣が精霊魔法でその場で倒される。その魔法の威力に驚愕するメンバー。お互いに顔を見合わせてるとあの威力は何なの?ランクBの魔法じゃないわよと小声でやりとりをする。


 そのやりとりはリンドには聞こえないものの肩に乗っているミーにはしっかりと聞こえたいた。


(普通ならそういう反応よね。でもリンドは普通じゃないのよね)


 その後も出会う魔獣を精霊魔法で倒しながら森の奥に進んでいって真夜中をかなり過ぎた頃、月明かりの下にリンドが住んでいる平家の家が見えてきた。


「今結界を超えたからもう大丈夫だよ」


「強力な結界、しかも範囲がすごく広い。こんな結界見たことないわ」


 僧侶のロザリーがびっくりした表情で言っている中、リンドは家の扉を開けてメンバーを中に招き入れた。


「広い、それに綺麗」


「ありがとう。ここは一応居間ってことになってて、みなさんの部屋はこっちだよ」


 部屋の奥から屋根付きの通路を歩いていくと別棟の様な平家の建物があり、


「一応客室にしてるんだ。3人用の部屋が2部屋ある。2部屋とも好きに使ってくれたらいいから。それと裏に川の水が引いてあるから水浴びするなら好きに使って。もう遅いからとりあえず休んで明日から活動したらいいよ」

 

「こんないい部屋だとは思わなかった。ありがとう。リンドの言う通りにさせてもらうわ」


 そうしてリンドが母家に戻っていくと2部屋のうちの1部屋に集まった5人。


「想像以上の実力の持ち主よ」


「精霊魔法も結界魔法も。ひょっとしたら私たちよりも上かもしれない」


 5人は遅くまでリンドの話しをしていた。


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